二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

003 ( No.5 )
日時: 2011/11/08 00:25
名前: サカナデ (ID: 6V.kj4ii)

003



八九寺と歩いて近くのコンビニに行く途中、

駄菓子屋の前でベンチに座りながらアイスを食べる少女が目に入った。

ちょうどアイスを食べ終わった棒に書いてある文字は、たぶん普通の人では見えないのだろう。

でも僕にははっきり見えた。

あれは「当たり」だ。だが、彼女に違和感があった。

その目はまるでアイスの棒なんて見てない。

どこか焦点があっていないのだ。そして僕は直感する。


「阿良々木さん?どうしました?」

「八九寺、見えるか、あそこにいる人」

少し小声で歩くペースをおとしながら僕らは話す。

「はい。あの……言いにくいですがたぶんあの人見えてないですよね…?」

「ああ。たぶんあの人たぶん目が見えてない」

「はい」

「八九寺、大問題だぞ」

「はい?」

「見えるか、あの棒に書いてある文字を?」

「見え…ないです。ですがたぶん当たりと書いてあるのですね。それ以外ありえなそうです。…それがどうかしっ………」


八九寺も気がついたようだった。僕たちは声を揃えて言ってしまった。


「「当たってることに気がついてない」」


「…あのアイスどうするんだ。あともう1個もらえるんだぞ」

「ここは思いきって話しかけるしかないですよ、阿良々木さん」

「そうだな。策はそれしかないと僕も踏んでいる。しかしどう話しかけるかが問題だぞ。見た目からいってあれはおそらく女子中学生。場合によっては警察に通報されるぞ」

「場合によらなくともです!」

「何!?まさか八九寺僕を警察に差し出すつもりだったのでは…」

「ぎっくぅぅぅぅ!」

「HDBだな!?それはHDBなんだな!?」

「ちっ…違いますよ。HSBです!」

「八九寺小規模びっくりか!?」

「八九寺サイバーショットびっくりです!」

「カメラに収める気だったのか!」


たしかに八九寺の写真をカメラに収められて常時見ることができたらそれはそれで楽しいが…。

その前に僕は警察に差し出されるところだったんだ。あぶねえ。

「とりあえず話しかけてみるか」

「今流行りのギャラ男風に!」

「ギャラはもらってねぇ!チャラ男だ!」

「噛みまみた!」

「以後気をつけろ!」


そんな話を僕らは小声でしていたつもりだった。

だが、それはあくまでしていたつもり。周りからどんなふうに聞こえてたかなんて知る由もなく、知ることさえできなかった。


「どうかされましたか?」

唐突に声をかけられる。完全に不意をつかれたせいか、思わず裏声がでてしまった。

「はっ…はいっ!!」

相手はポカンと口を開けた感じではあった。

よく見ればその相手こそ先ほど散々話していたあの少女だった。

盲目の少女である。

彼女はベンチから立ち上がって僕らから2メートルほど離れたところに立っていた。

…まずい、これは恥ずかしい。

中学生相手に裏返ってしまったなんてお恥ずかしい限りである。

「あ、あの。失礼ですが」

「はい。」

少女は若干目を細くした。

「目、見えてませんよね…?」

「はい」

そのままだった。やはり、という感じではあった。ここぞとばかりに僕は言う。

「そのアイス、当たってますよ」

「えっ」

そんなこと言われるとは思ってなかったかのように少女は目を丸くした。彼女の声が少し大きくなったことに気がついた。

そんなに驚くものかとこっちが驚いたぐらいだが。


「ありがとうございます。あはは」


笑ってみせた。

これは完全に裏声を笑われたのだろうな…ああ改めて恥ずかしい…。

そうして僕がなんとなく苦笑いしてみせると彼女は「あっ」と何かに気がついたように手をぶんぶんふりながら言った。

「違いますっ!裏返ったのに笑ったわけじゃなくて、その…初めてでしたから。そういうふうに声かけられたの」

「え」


違ったのか!?

ってあれ僕自爆してないか?勝手に裏声のこと笑われたと思って思わず苦笑いしてしまったぞ!?

そういうの初めてって…そんなアイスを大切に扱わないのかここの町の住人は!

ありえないな。ありえないぞ。アイスにもっと愛を持つべきである。


「みなさんあたっているのに気がつきもしませんし」

クスクスと笑う。じゃあこの子はアイスがあたってもわからないんじゃないか?

「でも心配ないですよ。店のおばさんにいえば、当たってるかどうか素直にいってくれますし」


見透かされたような気分だった。

たしかにここのおばさんはそんな嘘をつくようなタイプではないだろう。

この前一度だけ忍のために買いに行ったとき会ったが、嘘をつくような悪い人には見えなかった。

むしろ親切な人というイメージが強かった。


「そうですか。なら問題ないですね。…僕があえていうこともなかったですね」

っそそんなことないですよ、とまたあわてたように手をぶんぶんと振る。

中学生にしては大人びているように見えた。愛想の良さがそんなふうに言ってる。

「せっかくお会いしたのですから、すこしお話に付き合ってくれませんか?」

「いいですよ、もちろん」

そうですか、と笑ったその顔をよく見ると、これまたかなり可愛い顔をした子だった。戦場ヶ原なんかにひけをとらないぐらいの美少女である。

「…あのお名前は?」

「阿良々木暦です。あなたは?」

「私はイズモ カンナ」

2メートルあった距離を若干縮める。

「出雲大社の『出雲』にカンナは神様の『神』に平和の『和』です」

「…人のことを言えませんが、神和って書く名前は珍しいですね」

「そうですね、神奈の方が読みやすくて一般的な感じがします。阿良々木っていうのもなかなか聞かないですね」

出雲神和はくすっと笑い、また目を細めた。

「では、そこのベンチにでも座りましょうか」