二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: そこに空があるから [inzm] ( No.490 )
- 日時: 2013/03/02 10:54
- 名前: 夜桜 (ID: KY1ouKtv)
107話「氷」
淡雪の様に
すぐに無くなってしまうモノだった
あたしが知っている世界は狭く、暗く、苦しく…
「大丈夫かい?」
そのヒトコトは温かく、あたしに世界を見せてくれた
*
毎日、目に映るは紅
日々、感じられるのは孤独感と疎外感、そして…絶望
「お前はこんな事もできないのか」
冷めた声が聞こえる
嗚呼、また誰かがいなくなる
「№373」
数字が聞こえる
嗚呼、あたしの数字だ
あたしの名はない。此処では誰もがそうだ
名前で呼ばれなどしない
「お前は優秀だ。私たちもお前には期待している。次のターゲットだ」
そう告げ、白衣の男が見せた写真
そこにはあたしと歳が変わらないか、もしくは少し下であろう女の子が映っていた
“漆黒の蝶”と呼ばれている女の子
ソレの息の根を止める事
それが、あたしの今回の仕事
男は笑い言う
「失敗したら、どうなるか…わかっているだろう?」
やりたくないこと、してはいけないこと
それぐらいは分かる
それでもやらなければいけない事がある
それは、自分を守るための事
毎日、目に映る紅色に染まった人
その中には“トモダチ”と呼べる者もいた
実験施設
あたしたちは生きていたハズだった
生きながら死んでいた
生まれて数年で闇で生きる事しか許されず
それに抗う事も出来ず
逆らうという事が何を意味しているかをあたしは、あたしたちは知っている
「仕方がないコト」
いつの間にか口癖になった言葉
嫌いだ。誰よりもあたしが大嫌いだ
此処が、世界が、あたしが大嫌いだ
視界は歪む
なんで、目の前に倒れているのは男の子なの?
どうして、泣き崩れているのは写真の女の子なの?
あたしは…とんでもないコトを仕出かしてしまった
駄目だ。ダメだ。だめだ
「アンタの弟だったの?ゴメンねー…あたしが-----」
「-----殺した」
あれは苦し紛れの言い訳だった
どうにか、自分を保たなければいけなかったから
女の子が気絶した後
男の子を施設まで運び地下に存在する延命装置にいれた
此処に来る人はあまりいない
しばらくは大丈夫だ
もう…ムリだ
「失敗か…どれだけお前に期待していたと思うんだ?」
男は言う
嗚呼、実験体けっていだ
「ゴメンナサイ」
感情はすでに手放している
「だが…お前はまだ利用価値がある」
その言葉は刃だった
まだ…此奴らに動かされないといけない
どうして…もういやだ
あたしが何をしたというのだ
毎日、嫌と言うほど聞こえてくる悲鳴、鳴き声
見飽きた紅
手放した感情が、小さく言う
“無理だ 嫌だ もう耐えられない”
「何だ。その目は…わかってんのかぁ?!テメェの命は俺等が持ってるって事をっ!!」
逆上し、血走った目
そうか、睨んでたんだ
もう…いっそのこと殺してほしい
「でも、俺はお前を殺さないし、実験体にもしない。だがな…この二度と反抗的になれないようにしてやる」
不意に思い出す此処にきた頃の事を
我慢できずに反抗した少年が紅に染まって帰ってきた事を
口ごたえは出来ない
その術をあたしはもっていない
「っ!!」
掴まれる髪
鈍く光るナイフ
完全に狂っている目
嗚呼、あたしの人生はなんてつまらないモノだったの
一瞬だった
どうせなら、その手に持っているモノで心臓を止めてくれ
そう思った
「…殺すことも出来ないのに、あたしの命が自分の所有物の様に言うの…やめてくれない?」
やっと出た言葉はそれだった
確かにずっと思っていた
誰が何と言おうと、あたしの命だ。他の誰のモノでもない
「っ!!テメェっ!」
この勢いなら、きっと致命傷になる
きっと…死ねる
もう見たくない
もう聞きたくない
染まる紅も声も嘲笑うような大人たちも
ただ、心残りなのは…あたしの罪だけ
痛みはいくらまっても襲ってこない
掴まれていた髪が離されバランスが崩れその場に墜ちた
目を開き見れば男が倒れているではないか
「…え」
どうなっている?
どうして、この男の白衣は白ではなく見飽きていた紅に染まっている?
無音となっていたあたしの耳に足音が聞こえた
近くに。すぐ、近くに
殺される。きっと…あたしも、この男の様にっ
だが、差し出されたのは手だった
顔を上げれば自分と歳の変わらないだろう少年がいた
その顔は冷酷なものでも、此処の大人たちのような張り付いた笑顔でもなく
ただ、柔らかなものだった
「大丈夫かい?」
それが少年の声を初めて聞いたときだった
今まで聞いた誰の声よりも温かく、優しく
何かがあふれ出る
少年が近づいてくる
「大丈夫。もう、大丈夫だから…。僕と一緒に来ない?」
瞳から零れるは何年も枯れていた雫だった
その少年は驚くほどの力でその施設を壊滅された
壊れ、崩れ、無くなった場所で言う
「君の名前、教えてくれないかな?」
その顔は、その笑顔は
何年かぶりに見た晴れた空の様に澄んでいた
“あたしが長い間、夢みたものは君は教えてくれた”