二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: そこに空があるから [inzm] ( No.513 )
日時: 2013/03/07 22:55
名前: 夜桜 (ID: KY1ouKtv)

 115話「氷裏」

もう1度、呼びたかったのに
もう1度、貴方の名前を、呼びたいのに…



“届かない”









静まり返った空間

「レオ、…ん」

微かに聞えた鈍い音


糸が切れたかのように倒れ崩れる身体

レオンにのしかかるかのように、体制を崩す氷裏

「ひょう、り?」
レオンが崩れる氷裏を支えようと手を出す
瞬間、手は紅に染まる
氷裏の腹部から零れ出す赤い雨

冷たい床に倒れ広がってゆく赤色
美しい銀色に晴れる紅

気が付けば左手に握られている刃物
“カラン”と音を立て赤に染まるソレは鈍い光は放ちながら落ちる


目の前に広がる光景


「…氷裏ィィィィィイィィィイィイイィイっ!!!」









唖然と騒然とする

「氷裏…っ」
息をのむ音がする
先ほどまでゆっくりと流れていた時が急速に進みだす

レオンが目を見開き茫然としながらも氷裏へと手を伸ばす
「ひょうり。氷裏…氷、裏」


何故、この状況で誰1人、動かないのか
それとも、動けないのか



閉じられていた瞳が僅かに開かれる
「れ、おん」
“レオン”そう呼びかけレオンへと手を伸ばす氷裏
「氷裏、氷裏っ!」
レオンの瞳からはひとつ、ふたつと雫が零れる

「なんて、顔してるのよ。あたしは、だい、じょうぶ…だから」
苦しそうな荒い息

「氷裏…ひょうり。氷裏っ!!大丈夫なんかじゃ…っ」

嗚呼、なんて顔してるのよ
そんなに泣いて。男のくせに…

そんな顔しないでよ

「レオン、あたしは…嬉しい、の」

あたしは嬉しいのよ
この世界が終ろうとしている最後の最後で
夢が、叶ったのだから

「貴方が、あたしを…よんで、くれた」

ほかの誰でもない、貴方が
貴方自身が。あたしの名前を呼んでくれた




氷裏(あたし)に意味をくれたレオン(あなた)が





「…ひょうり。それが君の名前なんだね」
柔らかい笑みを浮かべ彼は言った
「ひょうり…氷の裏、だね」
「氷…?」
彼の言っていることが分からなかった
「そう。氷だよ。氷は冷たいだろ?でもさ、裏…つまり反対だ。冷たいの反対、それは温かいってことだ」



「“氷の裏の優しさ”それが君だよ」



苦しいはずなのに、痛いはずなのに
氷裏の浮かべた笑みは美しく、誰もが見とれるほどだった
懐かしい記憶が蘇り、笑みの中で涙を流した


「そう…。あたしは、嬉しい、んだよ…レオン、っ」






本当に、嬉しいんだよ。あたしは

ずっと嫌いだった

氷が。だって冷たくて、大人たちがあたしに向ける視線のようで

あたしの心を映しているようで


だけど貴方が教えてくれた







“貴方があたしに意味をくれた”