二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: そこに空があるから [inzm] ( No.521 )
日時: 2013/05/04 13:18
名前: 夜桜 (ID: KY1ouKtv)
参照:  心時計メモワール

  【私と貴方と運命論】


“守って。貴方の揺るがない信念で、彼女を。終わりの巫女を、導き守って”

幼い頃によく見た夢
夢に出てくる黒髪の少女はいつも悲しそうな顔をして“守って”というのだ

誰を守ってほしいのか、何をしてほしいのか、幼い私には理解が難しかったが、それでもわかった



___________________________________私は、守護者だった




「ラティア様は“終わりの巫女”の後継者かもしれませんね」
よく聞く台詞だ
だが、私じゃない。私ではない

クラリス家に生まれた者として、魔力が多くもって生まれた者としての英才教育
幸福な庭の中での生活
同じ歳の子は姉であるティアラしか知らない
それを寂しく思うわけではない
これは“力”を持って生まれてきた者の運命だから


でも、目の前に突然現れた少女にそんな考えは打ち砕かれた

「だ、誰…」
いつもは屋敷の書庫で本を読んでいた
でも今日は教育係に連れられて城に来ていた
城の図書館には興味があったためそちらに向かっていた
ただ、城に来たことは数えるぐらいしかなかっため図書館の場所が分からず少し迷っていたところだった

近くにあった窓から突然城内に侵入した少女
ラティアは目を見開いた
可愛らしいツインテールを靡かせラティアの目の前に現れた少女は言う
「…あ。クラリス家のご令嬢」
「何で、私の事」
少女は何かを言おうとするが外から声が響く
何を言っているのかは聞き取れないがその声はラティアにも聞くことが出来た
少女はその場を離れようとするが立ち止りそっけなく言う
「そこの階段で上の階に行って。右の方向に進めば図書館があるから」
少女は走り去った
「何で…私が図書館を探していることを…?」
ラティアは疑問が多かったがその指示に従い進めば確かに図書館に辿り着くことが出来た

しばらくして教育係がやってきた
「ラティアお嬢様。無事に辿り着けて良かったです。では屋敷へ戻りましょうか」
「教えてもらったの。ねぇ、ここには私と同じ歳の子がいるの…?」
「あぁ。それなら城で英才教育を受けている子どもではないでしょうか?何か、無礼でも?」
「何もないわ」

ティアラ以外で歳の近い子に会う事はなかった
屋敷に閉じこもってばかりいた
外の世界を知らずに
彼女を見たとき、何と表現すれば良いのか理解できない感情があった

“守って。貴方の力で、彼女を__________”

漆黒の髪の少女は今夜も云う
「誰を…私は、誰を。守るればいいの」





「ラティアー!!今日ね、お城に行くんだけど、ラティアもどう?」
姉であるティアラが満面の笑みで言う
ティアラはいつからか城に行くことを楽しみしている
何か、よっぽど面白い事を見つけたのか…?
いつもなら断るのだが、もしかしたらまたあの子に会えるかもしれない
不思議なあの子に会えるかもしれない。この、言葉にできないモノが何かわかるかもしれない
そんな思いが脳裏に過った
「…えぇ。行くわ」




ティアラは言う
「皆—!まぁた来たよ〜」
その先には数名の子どもがいた
背丈から歳は離れていない
だが、この間の子はいない
「ラティア、紹介する…ってどこいくのっ!!」
その場を去ろうとするラティアをティアラが止める
「図書館へ行くわ」
「えー。折角紹介しようと思ったのに」
明様に落胆するティアラに近くにいた空色の髪の少女が笑みを浮かべながら宥める
そんな光景を見てからラティアは再び歩き出す
ティアラはいつも笑顔だけど、屋敷で見る笑顔とは違った
それは、彼女たちと居るから?

私は…何を期待しているの
今更、私は変わらない。ティアラの様にはなれないのに、何を望んでいるの…?



声が響く


その声に振り返った時、炎と雷の塊が目の前まで来ていた




「________________________________!!」

目を見開き、声にならない悲鳴を上げる

他より魔力を持っていようが、子ども。まだ力の使い方を理解しきっていない子どもなのだ
何より、この近距離。避ける事、ましてや防御陣を展開する時間などない


光が舞った

艶やかな髪が揺れる
漆黒の鎌
紫の魔法陣

目の前に“いる”紫の少女

鋭く光る瞳

その姿に一時、見とれてしまった

ラティアが探し求めた少女は目の前にいる

「かがりっ!助かったぁ」
ティアラがそう言いながら近づいてくる
「何、今の」
「ごめん。ラティア、私たち、魔法で遊んでたんだけどコントロール失敗して」
ティアラの横にはバンダナをした少年が申し訳なさそうに頭を下げていた

ラティアへ向かった炎と雷の塊を防いだ少女は涼しげな瞳で言う
「…ティアラ、円堂。何をやってるの。あたしが来なかったら、大変な事になってたかもしれないのよ」
彼女は言う
「ま、まぁ。かがり、落ち着いて。無事だったわけだし」
空色の少女が言う
「そら…。アンタがそうやって甘やかすから………そっちのお嬢サマは平気?」
彼女は言いながらラティアへと手を差し出す
その手を取りラティアは立ち上がり言う
「え、えぇ。平気よ…」


「じゃ、ラティア!この子が“かがり”だよ!!」
ティアラはラティアを助けた少女に抱き着きながら言う
ため息を着いてから彼女は言う
「かがり。貴方の事はティアラから聞いてる」

「…かがり、ラティアちゃんは突然の事だったから混乱してるんだよ。…ね?」
空色の少女はそう告げティアラと少年を連れて行ってしまった
その光景を見て、空色の少女が自分に笑いかけたのを見て、ラティアは分かった
彼女は自分にチャンスをくれたのだと

「ま、落ち着けばいいよ。腹が立ったなら、言っても良いし。あたしたちは別に、何とも思わないから」
少女、否“かがり”は言う
「…どうして?」
「何が」
ずっと思っていた。彼女は強い。それは数日前、会った時から感じていた
なのに、どうして私とは違うの…?
「さっきのは、子どもが出来るような事じゃない。かなりの魔力コントロールが必要とされる」
「ずっと此処で習ってるから」
かがりはすぐに返す
「でもっ…魔力を多く持った者の教育で、そこまでいくのなら…私だって、できるはず、なのよ
 でも出来なかった。なのに貴方は出来た…」
ラティアは言う
その様子は黙ってかがりは見ていた
「私は今まで、ずっとクラリス家に生まれた者として、魔力を多く有していた者として
 懸命にやってきたっ!なのに…どうして。ティアラだってそう、あんなに遊んでばかりいるのに
 あんな強力な魔法を、使えるなんて、どうしてっ!!私に何が足りないというのっ」
ラティアは全てを吐き出すかの如く言った
「…そう。あたしは、そんなモノないもの、名家に生まれた貴方の気持ちは分からない
 でも…。誰かに指図されて現在(いま)に至るというのなら、きっとそれはニセモノだよ
 ティアラを見て、何か思わなかった?」
かがりは、クラリス家に生まれた事に疑問を持たずにやってきたラティアの築いたモノを否定する
確かに、此処でみたティアラは屋敷で見るよりも楽しそうで、笑顔で、そして強い力をもっていた
「もしも、貴方が“クラリス家に生まれた者として、魔力を多く持って生まれた者として、周りとの差を埋めようともせずにそのままを受け入れること”が運命だというのなら、それは違うよ。
 運命は与えられるモノじゃない。自分で決めて、選んで、見出すこと」
かがりは幼さの見える瞳を強く輝かせ続けた
「そして、ティアラは選んだの。ラッキーなクラリス家のティアラ・クラリスじゃなく、
 ただのティアラを。そんなティアラを見てくれる人がいる場所を。
 人と触れ合う事で、笑う事で、あの子は強くなった」

「貴方がその、外と謝絶した“幸福な庭”の中にいるのなら、あたしは何も言わない。
 だけど、その庭から出るというのなら、その運命すらも打ち破ると云うのなら」




「  あたしが貴方に手を伸ばすから   」



かがりは告げた
“外の世界を望むのなら、あたしが手を伸ばす。何度でも”






その出会いで、私は知った
どれほど狭い世界にいたのかを
彼女と出会い、彼らと出会い、世界が広がった
“幸福な庭”の中しか知らないで、それで満足していた私にあの子は手を伸ばしてくれた
その手を取った時、私は世界をようやくミる事が出来た
そして、全てを悟った
彼女に感じた違和感や感情
それはきっと、私が守らなければならない存在だから

その日、やっと私は自分の“意味”を知った


「私は、巡礼者。何かに取りつかれたような、変わらぬ意志で。終わりの巫女を守護してみせる」


そんな私が“姫”として彼女の前に、あの城に現れるのはまだもう少し先の話