二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

疾風×私 = 1 ( No.4 )
日時: 2011/11/21 14:45
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: tMPenRNj)


 今年もまた、春が来る。
 亜美にとって春という季節は決して好きになってはいけない季節。大事な姉が、命を落とした、そんな季節。縛り付けられているとそう笑う人もいるかもしれない。其れでも、姉を亡くしたその季節を亜美は好きにはなれず、はらはらと散る桜に姉を例えてみた。
 何も言わず、そっと祈りを捧ぐ亜美を見つめて彩音は小さく息を吐く。彼女にしてやれることは何一つ無い、と。結局、彼女達二人の問題に首を突っ込むことは出来ず、彩音はぼんやりと遠くを眺めた。彩音も亜美も、春は嫌いじゃない。ただ、"好きになれない"だけ。

「……お姉ちゃん、」

 目を閉じると、脳裏に思い浮かぶのは何時だってあの光景だから。
 大事な姉が目の前で居なくなる。その事件は、彩音が考えるよりも深く深く亜美の心を抉り、傷つけた。そしてまた、エイリア学園という組織は亜美の心の傷をこじ開け、もっともっと抉っていったのだ。未だ心の傷が癒えないまま、数年が経つ。
 未だ亜美は春という季節に恐怖を覚えながら、——それでも、何時ものような亜美で居られるように過ごしている。どれだけ心が痛んでも、どれだけ過去に苦しめられても、亜美は何時だって"変わらない亜美"で居ようとしている。その姿を見ていると、彩音もうじうじして居られなくなる。だから二人は今もこうして、数年前と変わらぬ姿をしているのだ。まだ、——まだ、変わってはいけない、弱さを見せてはいけないと思っているから。
 彩音は香奈の墓前でそっと手を合わせている亜美の肩を撫でた。小さな肩は、頼りなさげで。でも、確かに亜美は強くなっている。心の傷も段々と癒え初めている。"仲間達"のおかげで、亜美と彩音の過去は段々と埋められようとしているのだ。その"仲間達"を亜美も彩音も大事に思っており、何よりも愛している。

「……また来るね、お姉ちゃん」
「また来ます、香奈ちゃん」

 ふわり、と桜色の花弁が舞い、二人を包み込んだ。風は二人を穏やかに包み、花弁と共に天高く舞い上がる。まるで、香奈のように。その様子を見て亜美と彩音は穏やかに笑った。相変わらずの、笑顔。

「おーい、彩音ー! 亜美ー!」
『今いくよーっ!』

 遠く、自分達を呼ぶ大事な仲間の声に、亜美と彩音の頬は自然と緩む。そして綺麗な明るい笑顔を見せたかと思えば、二人は手を大きく空へ伸ばし左右に振りながら二人同時に同じ言葉を返した。
 見事声が重なり、二人はクスクスと顔を見合わせて笑い、そして駆けだした。物語はまだ、始まったばかり——……。



 世界への挑戦編 — 序章 —




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