二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマ 銀色の歌姫〜最終楽章〜 ( No.114 )
- 日時: 2012/03/31 19:06
- 名前: ドロップ ◆8WWubVa7iM (ID: Rj/XAYnz)
第十六楽章
いくら叩きのめしても、彼らは立ち上がって、また向かってくる。
何故だ?あんなに、力の差を見せつけても、彼らは諦めないんだ。
『お願いだから、もう向かってこないで。』
『もう、お前らをあざ笑いたくないんだ。』
『本当は、本当は——。』
そんな事を思っていても、私は表情には出さない。
そうさ、私はずっと仮面をかぶり続けている。
だってさ、自分の事をすべてさらすような行為、誰だってできないだろう?
私は、もう歌えないんだ。
人を殺めてしまった。
私の歌で、数々の人を殺めてしまった。
そうさ、私はひとを殺した悪人さ。
サッカーは楽しい?そのサッカーで私は歌を歌い、
私は数々の人を———
「あああああああああああああああああああああああッ!!!」
# # #
和奏が突然、叫んだ。
どうしたんだ、なぁ、教えてくれよ。
そして、ついにはサッカーコートに這いつくばり、涙をこぼしていた。
「ファントム!?どうしたの!」
「おい、ファントム!しっかりしろ!」
物語の、彼らが和奏の方へ駆け寄る。
「あぁ……ぁ、あぁぁっぁぁぁッ」
和奏は、激しく嗚咽する。
そしてついには咳き込み、あの時のように血を吐きだした。
「ガッ…ぁ、ゴハッ……ッ!」
すると、和奏は急に理性を取り戻した。
「ファントム、大丈夫!?」
「…あ、あぁ。悪かった。」
和奏は、唇の端に付いた血を手でこすった。
「悪かった、さぁ開始するか。」
「……なんで」
俺は、声が擦れながら呟いた。
「…なんか、いったか。」
「何でそこまでして…ッ!」
ウンディーネがスローインした所を、俺はすかさずボールを奪う。
「何でそこまでして、バケモノになってッ…
戦わなくちゃ、いけないんだ!」
「ッ……私だって…」
和奏の目の色が変わった。
「私だって、バケモノなんかには、なりたくなかったさ!」
和奏が俺に向かって走ってくる。
「じゃあ、どうしてなったんだよ!」
「小学生の時さ!
私は、サッカーの助っ人として試合に出た!
けどな?」
和奏がボールを奪おうとしてくるが、俺も負けじとボールをキープする。
「私は、歌いながらプレイをした。お前も知っているはずさ!
そして私は、“歌姫”なんて言われてちやほやされたッ……」
和奏の歯ぎしりの音が聞こえる。
それほど、嫌な過去なんだろう。
「けど、試合が終わったら、なぜか怪我人がたくさん出た!
挙句の果てに、死人さえ出たんだ!
…私が、歌ってプレイした日に、必ず…ッ」
…え?
「私は、人を殺した!
それからは、“歌姫”の名は穢れ、バケモノの“ファントム”と呼ばれるようになった!」
音無も、そう言っていた。
『和奏さんは、“歌姫”と呼ばれていましたが、
試合が終わった後には必ず大勢の怪我人が出たそうなんです。
ですから、“ファントム”と呼ばれるようになった、と…』
「それに、試合に出る前は母さんと父さんは離婚!
母さんは、父さんが家を出て行った理由は私だと言っていた!
それで母さんは私に暴力をふるうようになった!
…今も、身体じゅうには痣が残っているだろう。」
豪炎寺の父さんが言っていた、体中の痣は
和奏の母親から受けた、虐待のあとだったのか?
「私は周りの人を不幸にした!
だから———ッ」
和奏が、手の甲の皮を噛み千切った。
「私は、その償いをしないといけないッ!」
和奏が血を自分の周りに飛び散らせ、何かの紋章が浮き出た。
「ファントムッ!」
「和奏ッ!!」
音が、歌が、周りを支配した。
「 賛美 — ファントムとクリスティーヌによる幻想曲 —」
そして、すべてが銀色に包まれた。
いつの間に、俺達の目は眩んでしまっていた。
数十秒間、目を開ける事さえできなかった。
そして、やっと視界が安定した時に見えたのは、
真っ赤に染まって倒れている、和奏の姿。