二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナズマ 銀色の歌姫〜最終楽章〜 ( No.128 )
- 日時: 2012/05/27 18:57
- 名前: ドロップ ◆8WWubVa7iM (ID: zlsHcGtF)
夢を見た。
私とあいつが、話している夢。
あいつは泣いていて、私はその涙を拭いてやっていた。
そして、私は——。
最終楽章:夢で逢いましょう。
俺は、走っていた。
あいつに、最後の別れを告げるために。
空気が冷たい。けれど関係ない。ただただ、俺は走る。
如何して、早く気付かなかったのだろう。
俺は、あいつの事が、好きだったのに。
もっと早く、言っていればよかった。
けれど、時間は元には戻らない。
たとえ大事なものが消えてしまっても、時は動く。
「和奏ッ……」
港が見えてきた。
街は綺麗にイルミネーションしている。
空には、綺麗に星が見えている。
「和奏ッ…!」
港に着いた。
急いで、和奏を探す。
「和奏!」
いた。
黒色のヘッドホン、紺色生地に白い水玉のコート、外跳ねの髪、俺が渡した白いマフラー…。
「えっ……風丸?」
和奏は、驚いたように目を見開く。
無理もないだろう、数十分前に別れを告げた相手だもんな。
「よかった…、間に合った……。」
「なんでお前がここにいるんだ?」
和奏は、俺の方をじっと見つめている。
「…まだ、別れたくなかったから。」
「え…?」
俺も、和奏を見つめ返した。
そして、ずっと言えなかった言葉を、口にする。
「和奏が、好きなんだ。」
あたりが、シンと静まり返った。
「和奏の事が好きだ。
ヨーロッパには…行かないでほしい。」
そして、和奏は目を優しく伏せた。
「それは、出来ない。」
首を、横に振った。
「ッ……なんで…」
和奏は、優しく俺を見つめた。
「このオファー…正直、受けようか受けないか、さんざん考えたんだ。
それで私は、うける事を選んだ。」
「なんでだ…?」
「この仕事は、沢山の人たちを幸せにできる。
そう思ったんだ。」
俺の瞼から、一筋の涙が出てきた。
「ッ……」
それから、大粒の涙がどんどんこぼれた。
「風丸、本当に感謝している。
お前のお陰で、私はこうして生きている事ができた。
いつも、お前達に支えられて…」
和奏は、俺の涙をそっと拭った。
「私は、ヨーロッパへ行って、今まで以上に強くなる。
お前も強くなれ。
だから、ほら…泣くなよ。」
俺は、唇を噛みしめた。
涙が止まるように。こらえるために。
「あぁ。」
その時、雪が降ってきた。
銀色に輝いて、とても幻想的で、美しかった。
「私は、昔の名…『歌姫』以上に強くなって、
この銀色の雪のように、輝いて見せる…。
『銀色の歌姫』に、なってやる!」
そういった和奏は、とても輝いていた。
そして俺は——、彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
一瞬だった。
周りの音は、何も聞こえない。
「今のが誓いだ。
お前が『銀色の歌姫』になる約束と、
俺がもっと強くなる、約束の誓い。」
和奏は、少しだけ瞳を潤ませたが、泣かなかった。
「そうか。
それじゃあ、約束な。」
俺は和奏に、花束を渡した。
色々なパステルカラーの、花。
「お前が『銀色の歌姫』になったら、俺が一番最初のファンだ。
その花束を贈るから。」
花の名前は、ニゲラと言う名前だ。
「そうか、じゃあよろしく頼む。」
そういって和奏は、ニゲラの花を一輪抜き取り、髪にさした。
船の音が聞こえた。
もう、和奏が、行ってしまう。
「…それじゃあな。」
「和奏!」
和奏は、俺に背を向けたまま、聞いている。
「また、何処かで…会えるよな?」
そして、和奏は鼻で笑った。
「あぁ。
いつか、な。
そして、現で会えるまでは——、」
和奏が、一度だけ振り返って、笑顔で告げた。
「夢で逢いましょう。」
それは、俺が渡した、ニゲラの花言葉だった。
そして、俺もこう答えた。
「あぁ、また会おう。」
それが、俺と和奏が交わした、言葉だった。
雪が、銀色に輝いて、降ってきている。
空には、綺麗な星空が広がっていた。
そして、海の向こうで、綺麗な歌声が聞こえた。
—— 夢で、逢いましょう。