二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン/GO  時空を越えた出会い  更新再開 ( No.47 )
日時: 2011/12/28 12:50
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)

9 管理組織フィフスセクター

「さっきの試合の話だ」
「まさか、俺が指示出してなかったから、怒ってる?」

長話になりそうで、立っていては疲れてしまうだろう、と考えた円堂はベンチに腰を落とした。

「そんな小さなことではない」
「小さなことって…;」

苦笑いを浮かべている円堂を、鬼道は強い視線で見つめた。

「お前、どうして試合中、“豪炎寺”ばかりを見ていたんだ?」
「……」

鬼道の質問に、円堂は口を閉ざして、表情をこわばらせた。
聞かれたくない質問なのかもしれない。それでも、鬼道はとても気になっていた。
仲間を懐かしむのなら、円堂の視線はもっと優しいものであるはず。だが、試合中の時は全く違っていた。

「あれは、豪炎寺に何かを問いかけるような視線だった」
「……やっぱ、お前すごいな」

十年経って元から低い声のトーンを、もっとそれを低くして円堂は呟いた。

「昔から、何かを隠していても、お前はなんでも、分かっちゃうもんな」
「……長い付き合いだからな」

遠くを見つめる円堂の視線は、とても悲しげなものだった。
十年の間に、彼の身に一体何が起きたのだろうか。
そう考えていると、円堂はゆっくりとした口調で話し始めた。

「十年後のサッカーは—————————



                     





腐敗している」

一瞬、彼の顔が歪んでいた。悲しみによるものなのか、悔しさによるものなのか、それは鬼道も分かることができなかった。

「…それは、どういう意味だ?」
「…“本当のサッカー”がないんだよ。フィフスセクターっていう、サッカーの管理組織が、天馬たちから自由なサッカーを奪っているんだ」
「……」

円堂の説明に、鬼道は何もいうことなく、黙って聞いていた。

「試合前から点数が決められているんだ。もし、逆らえばサッカーができなくなることだってある。全部フィフスセクターが、秩序のために、とかって言って管理してるんだ」
「だが、お前なら、それに従うはずがないだろう?」
「当たり前だ。管理されたサッカーなんて、あっていいはずがない。だから、俺たち雷門は反逆をしてるんだ。フィフスセクターに……」
「それと、“豪炎寺”には、何の関係が?」
「……」

静かに黙って、円堂は食堂の窓から小さく見える豪炎寺を見つめた。前に座っている天馬が、無邪気に何かを彼に話している。それを見て彼は優しそうな笑顔を浮かべていた。
その笑顔を今の円堂はもう見ることができないのだ。あの時、目に映ったのは、青年の“嘲笑”だった。

「話したくないのならいい」
「……知りたいんだ、十年の間に、あいつの身に何が起きたのか。もし、何かあるんだったら、どうして俺たちに話さなかったのか。どうして、そこまでして、あいつが本気で好きだったものを“支配”しようと…」
「支配?……もしかして、豪炎寺がフィフスセクターという組織の一員なのか?」

今の表情は、試合のときに見せていた笑顔からは、到底結び付けられそうにないものだった。
返事は返ってこない。おそらく、今、自分が言ったことは正しいであろう。
しかし、ではなぜ豪炎寺がそんなことをするのだろうか。彼は胸の内に、円堂にも負けないほどのサッカーに向ける熱い気持ちを秘めている。そんな人が、サッカーを支配し、天馬たちからサッカーを奪う。本当に彼はそんなことをやったのだろうか。

「でもさ、俺は思ってるんだ。いつか、あいつはきちんと話してくれるって……また、中学と同じ、皆仲良くできるんじゃないかって…」
「……」

鬼道は円堂の見つめる虚空に視線を移した。青空が妬ましいほどに、澄み渡るように綺麗にどこまでも広がっていた。
いつか、円堂の心もこのように晴れるのであろうか。彼としては十年前の話になるが、今の自分たちみたいに、楽しくサッカーができるのだろうか。
しかし、自分は十年前の人間。未来に干渉することはおろか、彼の手伝いをすることなどできるはずがない。

「……鬼道、頼みがあるんだ」
「なんだ?」

突然振り返って、円堂は鬼道に言った。

「豪炎寺ってさ、よく自分でなんでも抱えちゃう癖があるだろ?夕香ちゃんもそうだし、ドイツに行こうとしていた時も……だからさ、何も言わなくていいから、傍にいてやってほしんだ」
「…当たり前だ。俺たちはいつまでも、仲間であるのに、変わりはない。それに、俺だけではなくて、十年前のお前だってそうだ」
「……うん、そうだよな」

そうやって円堂はまた視線を食堂にいる豪炎寺に向けた。未だに天馬は興奮が押さえきれないのか、食事は全然進んでいなく、身を乗り出して話している。それにびっくりしたのか、隣にいた信助と狩屋が彼を落ち着かせるために、椅子に無理やり抑え込んだ。
それをみて、食堂には皆の笑顔が広がっていた。

「俺さ、雷門の監督になって、本当に良かったって思ってる」
「また、サッカーができるからか?」
「それもそうだけどさ……なんか、天馬たちを見ていると、昔の俺たちを思い出すんだよ。すっごく毎日が楽しくて、新鮮で、時間が進むのが嫌だった。だからさ、天馬たちにはこの大切な時間を、楽しく過ごしてほしんだ。好きなものを一生懸命にやって、仲間と笑いあってさ」
「…お前らしい答えだな」

小さく、そうかな、と呟いて、円堂は寂しそうに下を俯いた。
十年後の世界を変えるためには、自分たちが何とかするのではなくて、彼等、十年後の円堂守自身がどうにかしなければならない。しかし、それは今とは違う。彼はもう立派な大人だ。中学生の自分たちとは違って、下手に動けるはずがない。

「お前が選んだのが、あいつ等か…」

天馬や神童たちを見て、鬼道は円堂に確認するように言った。
すると、彼はさっきまでの表情が嘘だったかのように、明るい笑顔を浮かべて、「あぁ!」と答えた。

「あいつ等は、本当にすごいよ。とくに……松風天馬」
「プレーはまだまだだがな」
「鬼道、厳しいな…;」




「お兄ちゃん!ごはん冷めちゃうよ〜!」

妹に呼ばれるほど、時間が経っていたのか……
そう心の中で呟いて、鬼道は食堂へ向かった。



(豪炎寺……)

誰にも聞こえぬように、円堂は心の中で悲しそうに呟いた。