二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   土方十四郎の姉で御座います。【銀魂】 オリキャラ募集! ( No.195 )
日時: 2012/02/19 10:57
名前: 如月 ◆eZsQmZilro (ID: w0.JbTZT)

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 クルリクルリ世界ハ私ヲ置イテイク
 廻ル世界ニ取リ残サレテ
 タダタダ一人デ泣イテイル

 何時だって私は、一人ぼっちだ。










      土方十四郎の姉で御座います【紅篇】
      第十三訓「ミオソティスの花言葉」










 朔はため息をつきながら非常食や衣服を風呂敷に詰め込んだ。
為五郎さんの奥さんが縫ってくれた月兎が刺繍された綺麗な風呂敷。
それを見ながら込み上げてくる何かを感じ、思わず目頭を押さえた。

ああ、何て情けないんだろうか。そう思う。
今更涙を流しても後には引けないことなど分かっている。
けれど、それでも泣いてしまうのは人間の性なのだろうか。


「……しろー」


 今は暁(あかつき)——つまり夜明けだ。
明けない夜はない、そんな事知ってる。けれどどうか何時までも明けないで欲しい。
此の、まだ闇に近い色が茜色に染まらぬことを、祈る。
祈っても無駄だということなど、知っているのだが。


「……ごめんね」


 朝になれば、朔は此処を出て行く。
慣れ親しんだ此の武州を離れていくのだ。
溢れる涙は、畳にシミをつくる。
このまま涙が枯れてしまえば、どれだけ楽なのだろうか。

十四郎はきっと送ってくれない。
酷いことを言ったのは朔なのだけれど、やはり悲しいものは悲しい。
どうしようもなく辛さが襲って、目をぎゅっと瞑った。



「ごめんねッ…!」


空が茜色を佩び始める。
もう、終わりなのだと、悟った。













「それでは、行って来るよ」
「ああ!気をつけてな!」
「死んだら承知しねーからな」


 風呂敷を背負って帯に刀を刺した朔を目の前に近藤と沖田は笑顔で見送る。
勿論あたりを見回しても、十四郎はいなくて。
表情にこそ出さないが、朔の悲しそうな雰囲気を感じ取った近藤はあわてて弁解した。


「トシ何処言ったのかな!全く困った奴だなー!な!総悟」
「……」


 墓穴を掘ったことに気がついていないのか、豪快に笑いながら沖田に話をふっている。
朔は「いいんです」——そう言うと風呂敷を背負いなおして、深々と頭を下げた。


「今まで有難う御座いました。……しろーを宜しくお願いします!」
「……ああ!トシは任しておけ!」
「土方コノヤローなら俺がきっちり懲らしm……あっ間違えた俺に任せてください」


 朔は総悟の言葉ににっこりと笑うと、また深く頭を下げて近藤たちに背を向けた。
この道を進めば、幕府の重鎮が待っている。
ついに、戦争に行くのだ。

決心を固め、前に進もうと足を踏み出した。しかし、その瞬間——


「オイ!」


——声が、聞こえた。
間違うわけがない。我が弟の、声。
朔は足を止めて、咄嗟に振り返る。すると十四郎は近藤たちを押しのけて朔の元へやってきた。

息を切らして、ぼさぼさの髪のままで朔にしっかりと抱きつく。
もう朔と同じほどの身長だ。
しろーも大きくなったものだ——朔はふっ、と笑った。


「……俺、待ってるから」
「!」
「俺は何時までも、姉上を此の武州で待ってやるから。——死なねーでくれよな……」


朔の着物を伝って十四郎の涙が道へ水溜りをつくる。
こうしてみると、まだまだ子供な十四郎の頭を、少し背伸びをしながら撫でた。

——私の弟は、本当に優しい。酷いことを言った此の私を、姉上だといってくれる。お前は俺の姉上だと、そういってくれる。
弟が生きてくれさえいれば、もう何もいらない。何を失おうが恐くない。
弟が私に助けを求めるならば火の中水の中、へっちゃらだ。
それほど私は弟に執着している。ブラコンだと?そんなのクソ喰らえ。

十四郎の頭を静かに撫でながら、名残惜しくも腕から離れる。
そして、泣く十四郎に目を合わせながらにっこり笑って口を開く。


「当たり前だ。お前が私無しでは生きていけないように、私もお前無しでは生きられない。私は死なないよ」
「……絶対にだぞ」
「ああ、約束する。待ってくれてる人がいるのだと分かったから」


 十四郎は泣きじゃくりながらも、にっこりと笑った。
全く、もう15歳だというのに、まだ泣き虫らしい。


「いってくるよ」
「……ああ、いってらっしゃい」


十四郎が待ってくれていると思うだけで朔の足取りは軽くなる。
朔は一人ではないのだ。

透き通る空も、前ほど憎たらしくはなくなった。



いってくるよ、十四郎。
風呂敷を背負いなおしながら、朔は笑みを浮かべた。





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