二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ボカロ小説集 ( No.6 )
- 日時: 2011/12/16 22:38
- 名前: 藍蝶 (ID: gZQUfduA)
第3話 <錬視点>
鏡音さんが泣いた。
僕のかけた言葉が嬉しかったのか、たまっていたものなのか。
どちらにしても僕にとっては嬉しい事。あの日からすっかり仲良くなった。
酷かった虐めも大体やんだが、まだ陰口はこそこそと続いているらしい。僕を騙してクラスを一掃するとか、僕が可哀そうとか、鏡音さんサイテーとか。
一発ぶん殴ろうかと思った。でも鏡音さんに止められた。
「十分なの」
我慢強すぎてこっちが泣きそうになった。陰口を延々と言われてもそれで十分なんて、欲が無い。
————。
——————ン。
———————錬。
「錬!」
「わぁっ!?」
びっくりした。気づけば鏡音さんの怒った顔が目の前にある。苦笑いして両手を広げて壁を作り言った。
「ごめんね、ボーッとしてた」
「そうなの?死んでるかと思った。あ、じゃあさっき言った事聞いてなかった?」
「え、何だっけ……」
思い出すフリをしながら別の事を考えた。
鏡音さん最近凄く喋るようになったし、乏しかった表情も七変化同然にコロコロ変わる。前の固定表情でいる時をあまり見なくなったな、と。
「今日、錬の家遊びに行くから。あ、一緒に帰っていい?」
「あぁそういう事。ん、分かった」
覚えといてよね、と微笑みながら読書を再開した。
帰り際、真っ先に鏡音さんが来てこう言った。
「さっ、帰ろっ!」
僕らも中学生なんだから、傍からみればリア充とか恋人同士とかそんな風に見えてんのかな〜なんて少しだけ思った。
いやまぁ、鏡音さんにそんな自覚はないと思うけど。
「うわっ……大きぃ……」
気づいたら僕の家の前。背丈よりも高い門、広がる庭園、聳える城の如き自宅。昔からのちょっとした自慢で、面と向かって言われると照れる。
「そうかなぁ?」
「うん、大きい大きい!いいなぁ、僕もこんな家に生まれたかった……」
きゃいきゃいと燥ぐ鏡音さんはごく普通の女子中学生にちゃんと見えた。でも、目が本気だ。ホントに生まれたかったような、目をしていて。
少し待っていると門が開いた。深々と数名の執事が頭を下げる。その中でも僕が最も信頼している執事に通学鞄を手渡し、こう告げた。
「今日は友達が来てるんだ」
手のひらを鏡音さんの方へ向けて、執事の目線を送る。鏡音さんは緊張したようにカチコチと固まり、ロボットの様にカクカク頭を下げた。
「かっ……かくあ、あ、噛んだ。……鏡音鈴です!」
何となく見ていて微笑ましい。執事たちの顔が緩む。僕の顔も緩む。そこに、コツコツと靴音が聞こえてきた。
「あら、錬君お帰り。……その女の子は?」
僕の母親。後ろにはメイドを二人引き連れていた。その母の口元はお帰り、までは緩んでいたのに鏡音さんを見るなり急に固く締った。あぁ、この目は絶対に人を見下してる目だ。
「僕の友達。最近仲良くなってさ」
「ふうん……」
母は鏡音さんを舐め回すように見てから僕に顔を向け、はぁ……と溜息を吐いてから執事たちにこう命令した。
「その娘、追い出しなさい」
凍りついた。絶対零度並みの冷たい言葉は場を一瞬で静めた。
いち早く元に戻ったのは執事たちだった。
鏡音さんの両腕を掴み、門の外へ放り出す。言葉も出なかった。
「錬っ……!?ゲホッ、ゴホッ」
余程強く叩き付けられたのか鏡音さんが咳き込んだ。
「錬、どういう事……?ごほっ」
「ちが「あら可哀そう、錬君にまたハメられた子がねぇ。悪いわね」お母様!」
ハッとした。鏡音さんが目に大粒の涙を溜めて、こっちを見ていた。
「酷い……酷い酷い酷い酷い酷いっ!!」
転がった鞄を拾い上げ、東の方へ逃げていってしまった。
何も言えないでいると後ろからクスクスと笑う声が聞こえた。
「あの子も馬鹿ねぇ。自分の事が相当な噂になってるのも知らないで。ふふ」
もう、本当に何も言えなかった。茫然と石畳の庭道を見ていると、
「ほら錬君。次ヴァイオリンのレッスンでしょう?最近やってないでしょう、早く支度しなさい」
「……はい」
トボトボと歩き始めた。あぁ、明日なんて話しかければいいのだろう。
<鈴視点>
酷いっ……!酷い酷い!
ハメたの!?ハメられたの!?貧乏で薄汚い僕を今まで嘲笑っていただけなの!?
息が切れた。留めていた涙が溢れる。ガチガチと歯が震える。
「……っ、ぅぅぅう」
しばらく道の真ん中で蹲って泣いていた。精一杯声を押し殺して泣いていた。
ようやく泣き止んだところでポツンと頭に浮かんだキーワード。
”バイト”
最近は錬と遊びほうけていて、バイトに顔を出さなくなっていた。クビかな?でももうすぐガス止められそうなんだよなぁ。
「行くか」
立ち上がって、ふらふらと歩き始めた。まだ目は腫れているのかな?ちょっと思ったけど、もっと大きな悩みが僕の行く先を拒んだ。
僕は、錬に嫌われてた。