二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一幕 【出会いは奇跡の玉の様】 ( No.19 )
日時: 2012/02/21 19:01
名前: ミズキュウラ・ドラッテ (ID: 9ySylEp9)

 
 昼下がり。
 太陽が東から昇り真上で高みの見物をしているころ。
 
 広場は人知れず騒がしく、何かを求めるようにそれを中心に円を描いていた。
 一瞬静まり返り。かと思えば、どっと歓声が上がる。

 「ご高覧のほどありがとう! まだまだ身技は持ち腐れ!」

 人混みの輪から、声高にそう誰かが告げる。その声にもまた歓声が。
 少女は輪を押しのけながら前方に出た。
 輪の中心にいたのは、背の高いピエロ。
 彼、と分かるほど、その体躯は痩身であるが少し筋肉が付いている。 その手には、三つの小さなボール。ピエロは先ほど、それを観衆の前で交互に投げ飛ばしては技を披露したのだろう。
 少女はそんな彼に微笑みを浮かべた。道化の仮面を付けるピエロは、笑顔しか読み取れない。————いや。笑顔を象った仮面を付けているのだから、表情すら正確には読み取れていない。
 それでも、本当に楽しそうなピエロを見ると、あの日を省みて笑みが零れてしまう。

 「————お嬢様。そろそろお時間です」

 後ろから、少女を追いかけてきた男がそう声をかけてきた。
 どうやら彼の道化に付き合える時間はないようだ。

 「わかったわ。すぐ行く」

 男は一礼して、少女を誘導するように道をあけた。
 ちらっと見た先には、彼の楽しそうな顔と、観衆の期待に満ちた顔。
 後ろ髪を引かれるように少女はその場を後にした。





      ◇◆◇





 あれから何年の月日が経っただろう。最早自分は此処までピエロを演じきっている。
 だから、油断していた。
 
 (う、わ————)

 客がはやし立てるから。その気になって、月のようなボールを取り出して。
 乗った時は安定感があった。しかし、ボールを空中に投げた時、意識がそっちに行ってバランスが崩れた。
 足を前に滑らせ、頭から地面に突っ込む。後頭部が衝撃を飲む。
 遠くの方で悲鳴が聞こえた。

 (…誰かが、泣いている…?)

 凄く痛い。多分血もいっぱい出てる。目の前は霞んで見えて、空が赤いのは何故?
 泣いている。誰かが。
 そう思ったら痛みなんて気にならなかった。誰かが泣いているのは自分が血を流して余計な恐怖を与えたからだ。

 ——笑顔を運ぶのがピエロなのに…。

 彼は全体に力を込め立ち上がった。どうやら出血はそんな大したものではなかったらしい。立ち上がれば足に力が入り普通に歩ける。
 
 泣いていたのは、小さな男の子だった。

 母親に抱かれて、咽び抱きついている。 
 彼は確かな足取りで少年に近寄り、その手を取った。
 怖がらせたのは他でもない自分。大丈夫、痛くない。

 「——大丈夫、大丈夫! ほら!!」

 少年が目を見開く。綺麗な濡れた澄んだ瞳には、彼の顔が映っている。
 少年の目は、彼の頭を見ていて。流れてるであろう血が、赤い薔薇に変わって彼の頭を彩っていた。


 














   今時間無いから此処まで!!!