二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ぬらりひょんの孫〜月下美人〜 ( No.209 )
- 日時: 2012/06/16 23:06
- 名前: このみ (ID: 3/dSGefI)
- 参照: http://yaplog.jp/momizi89/
第十八幕 月への帰還
『月、にですか……?』
「どうして……?」
ぬらりひょんは二人に全てを話した。
輝夜と月夜は涙を流しながら静かに聞いていた。
話し終えた後、沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのは輝夜だった。
『ぬらりひょん様は、どうしてほしいですか?』
「ワシは……、二人には、一緒に居てほしい。傍に居てほしい。ずっと、一緒に居たい。
でも、二人には良くなってほしい。早く治して、笑ってほしい。だから二人が行くと言うのなら、ワシは止めん」
『ぬらりひょん様……。有難う御座います』
「有難う、お父様」
『妾は、月夜が行くなら行くし、行かないのならここにいます』
「……そうか。月夜、どうする?」
「私は…………。
月に、帰ります」
はっきりとした口調でそう伝える月夜。
ぬらりひょんと輝夜は目を閉じ、頷いた。
「でも、お父様。私は、必ず戻ってきます。治して、お母様と必ず……。
それに私、見てみたいんです。お母様の国」
『月夜……』
「ああ、行って来い。待ってるぞ」
『「はい!」』
————私が以前住んでいた寺に、月に帰る為の道具が入っている箱があります。取って来てはくれませんか?
輝夜にそう言われ、箱を取って帰って来たぬらりひょん。
ぬらりひょんが山に行っている間に、二人(正確には雪麗)は月に持っていく道具を全て準備し、待機していた。
そしてその日の夜————別れの時が来た。
奴良組全ての妖怪が奴良組本家の前に集まった。
一言ずつ、別れの言葉を言っていった。
涙を流しながら。
そして……。
『それでは、始めます』
輝夜は立つことが出来ないので、ぬらりひょんに抱えてもらいながらそう言った。
箱の紐を解き、ふたを開ける。
中に入っていたのは、笛だった。
それを咥え、綺麗な音色を響かせる輝夜。
三分ほど吹いた時、月が輝きだした。
満月の明るさを、十集めたような明るさ。
思わず目を瞑ってしまうほどの明るさが、奴良組本家を照らした。
輝夜が笛を吹き続けると、「現れた」。
月の者————物の怪が。
それらは一列になって真っ直ぐこちらへ向かってくる。
そして、輝夜と月夜の前でピタリと止まった。
『お母様……』
「輝夜、久しぶりね。子供まで産んで……」
『はい。月夜、挨拶なさい』
「は、はい……。月夜です、よろしくお願いします……」
「孫が出来るなんて、思ってなかったわ。よろしくね。あなたは……」
「ぬらりひょんじゃ……です」
「お婿さん、ね……。これは確実に、「あれ」ね」
「「?」」
『お母様、「あれ」とは?』
「説明するわ……」
————
月の妖は、清き妖怪。
そのため下界にいられず、月という場所に住んでいる。
ただし、王家の者は下界に住むことが出来る。
今回輝夜と月夜がかかった病は、特に特殊な病。
月の者が、下界の妖と恋に落ちた時、かかる事が決定する病。
他の月の者はそもそも下界にいることが出来ないので、その病に侵されることはないのだが……。
王家の者は、それができる。
その病にかかってしまう事がある、唯一無二の存在。
王家の血筋。
王家の者は、罪を犯さなくても下界にいることが出来る。
輝夜と夜瑠は、罪を犯したから下界に堕ちたのだが……。
それは特例だ。
話を戻すと、夜瑠はその病には侵されなかった。
その病にかかるのは、「月の妖と、下界の妖」。
「月の妖と人間」には反応しなかった。
そして、月の妖が下界の妖との子を「下界で」産んだとき、年月が経ってから子にもその病がかかる。
つまり。
輝夜とぬらりひょんが恋に落ちた時点で、輝夜が病にかかる事は決定し、輝夜が下界で月夜を生んだとき、月夜にもその病がかかる事が決定する。
特殊な病のためなのか、長い年月を経てから病に侵される。
また、親がその病にかかったとき、子の身体と親の身体が共鳴し、ほぼ同時に病にかかる。
下界の妖には影響がない。
この病を治すには、月へ帰る事が必須。
しかし月へ帰ったとしても治る可能性は低い。
————
「と、いうわけよ」
『…………』
「治る可能性は低い。とても。
それでも、帰る?ここに残って、愛しい人と残りの時間を過ごして眠りにつくって言う方法もあるのよ?」
『妾は、それでもいいです。でも、月夜はまだ幼い。これからやる事も沢山ある。それなのに、なにもしないで眠りにつくなんて、勿体無さ過ぎます』
「じゃあ月夜だけ月へ送ったら?」
『こんな病にかかっているのに、親が付いていなくてどうしますか、お母様』
「あら、すっかり母親ね。わかったわ。二人とも月へ連れて行きましょう。
あなたも、それでいいのね」
夜瑠はぬらりひょんに聞く。
語尾が上がっていないから、聞いたというより確認した、の方があっているだろう。
「ああ」
「そう。ならば、連れて行くわ」
『お願いします、お母様』
「任せなさい」
夜瑠はニッコリと微笑むと、奴良組の面々に向かって頭を下げた。
それまで何もしていない、後ろに一列に並んでいた月の妖達がざわついた。
一国の女王が、下界の妖に向かって頭を下げているのだ。
「女王!お止め下さい!そのような者たちに頭を下げるなど!」
「五月蠅い黙れ」
女王が使っていいような言葉遣いじゃない。
ぬらりひょん達は呆気にとられ、輝夜はお母様……と呆れていた。
「短い間でしたが、私の娘、そして孫を受け入れてくれて有難う御座いました。
この恩は忘れません。必ず、返しましょう」
『妾からも、有難う御座いました。大変お世話になりました。とてもとても……楽しかったです』
「皆、有難う!」
『「さようなら」』
二人がそう言った瞬間、ぬらりひょんは自分の腕にあったはずの重さが消えていることに気付いた。
そして、顔を上げるとそこには月の妖達は居なく……。
もちろん、輝夜と月夜も消えていた。
月の明るさは元に戻っており、今までの時間が無かったようだ。
「また会えるよな、輝夜。月夜……。
待ってるぞ」
月を見つめ、愛しい者の姿を思い描いた。
涙が流れていても、口元は笑っていた。