二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ぬらりひょんの孫〜月下美人〜 ( No.255 )
日時: 2012/07/16 20:01
名前: このみ (ID: 3/dSGefI)
参照: http://yaplog.jp/momizi89/

続き





「妖様っ……」
「う、ぐぅっ……」
「ほれほれ、そんなものか?もっと妾を楽しませてはくれんかのぅ」

片手に珱姫をしっかりと抱いた羽衣狐が挑発するように言う。
その羽衣狐の周りには、たくさんの尾が体を守るようにシュルシュルと音を立てながら蠢いている。

「ワシの……女に、触んじゃねぇっ!!」

そう言った瞬間、八本の尾により至る所を刺され、膝をつく。

「ほう……この女に惚れているのか……。この芝居は本当に奇想天外じゃ。
この姫、妖を誑かす力を持っておるのか。
ますますその肝、喰ろうてみたくなったわい」
「珱姫ぇぇぇぇぇ—————————!!」





一方的。
そんな言葉が今の状況に一番合った。
とにかく一方的にやられてしまう。
傷を付けるどころか、近付く事さえもままならない。
それを繰り返しているうちに、ぬらりひょんは畳の上へを倒れた。

「妖様————!!」
「おっと……駄目じゃ。能力は知っておるぞ……。そう言うのはつまらん」
「何故!?こんな無茶を!!私は……妖様が分かりません!!
こんなになるまで……男の人は皆そうなのですか!?」
「可愛い事を言うのぅ、珱姫。いいかぇ?世の中は『人』でも『妖』でも『賢い男』は大勢いるのだ。

……男を知らんな。

初めて知った男があんな馬鹿で愚直で……可哀そうに。そして……それが最後の男なんじゃからな」

冷たい笑みを浮かべながら珱姫にそう言う羽衣狐。
何も言えない珱姫はどうすればいいのか分からず、ただ固まっているだけだった。
その時、ぬらりひょんがヨロ、と起き上がった。

「珱姫……ワシはお前の目に、今どう映ってる?
やはりそいつが言うように、馬鹿に映るか……?」

その問いに、ふるふると左右に頭を振る珱姫。
その様子に静かに微笑みながら、また伝える。

「あんたの事を考えるとな……輝夜を思い出すんじゃ……。いや、逆だ。輝夜の事を思い出すと、あんたが浮かんでくる」

知らない女性の名前が出てきたことに、珱姫の表情は強張る。
それでも最後まで聞こうと何も言わない。

「輝夜とあんたは、似てる。顔が、とかじゃない。心が、似ているんじゃ。
自分の気持ちを主張しないで、一歩引いたところから物事を見る。
自分以外の者が傷つくのをとても嫌う。
そして、美しい。清らかで、儚げで。見る者の心を和らげる。
あんた達が傍に居るだけで、きっとワシの周りは華やぐ。そんな未来が見えるんじゃ。
なのに……あんた達は、不幸な顔をしてた。
だからこそワシは、輝夜を幸せにしようと夫婦になろうと言ったんじゃ。
輝夜は頷いてくれた。嬉しかった。
でも……輝夜を幸せにすることは出来なかった。
それどころか、輝夜との子まで、不幸にしちまった。
あの二人は帰った。ワシともう一度会うために。
それがもう百年も前の事じゃ……。
だから、といっちゃああんたは気分を悪くするだろうが、言わせてくれ……。

輝夜を幸せに出来なかった。家族を幸せに出来なかった。その償いとして、あんたを幸せにさせてくれ。

ワシがあんたを必ず幸せにする。……どうじゃ、目の前にいるワシは、あんたを幸せに出来る男に見えるか?
フハッ……見えんだろうな……。家族を幸せにも出来なかった男が……見えるわけないんじゃ。
だからワシはあんたにカッコイイとこを見せつけて、惚れさせにゃ——いかんのにな……。

あんたに溺れて、見失うところじゃった。

そろそろ返してもらうぞ、羽衣狐」

「!!」

急に雰囲気が変わったぬらりひょんに、珱姫は身震いをした。

「行くぞ。

ここからが闇————。妖の…………本来の戦じゃ」

《尻尾が、反応せん。そこにいるのに》

そう思った次の瞬間、羽衣狐の目の前にはぬらりひょんが居た。
急いで尻尾を動かしぬらりひょんの持っていた刀をバシィンと落とした。
しかしぬらりひょんは、背中から珱姫の屋敷で拾った刀を取り出した。

「同じ事を!!」

また同じように尻尾を動かす。
これで刀は手の平から無くなるはずだ。

その考えが、甘かった。

羽衣狐の尻尾はドシュッ、ドシュッと音をあげながら斬れ————

ぬらりひょんは珱姫を傷つけぬように気を付けながらも、羽衣狐の右腕から頭にかけて、スパンッと斬り付けた。