二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ぬらりひょんの孫〜愛してくれたから〜 コメント募集中!! ( No.34 )
- 日時: 2011/12/15 07:49
- 名前: このみ (ID: 1kkgi9CM)
第六幕 終わりの始まり
『…ふぁい?』
輝夜は変な声を上げた。
可愛らしく首を傾げてぬらりひょんを見ているが、焦点が合っていない。動揺しているのが丸分かりだ。
シン…となった空気を破ったのは、先程まで輝夜を品定めしていた雪麗だった。
「ちょっと…何言ってんのよ!!こんなどこの馬の骨かも分からない女と夫婦になろうっていうの!?」
『あ…月の骨です』
「アンタは黙っててよ!!」
真面目に返した輝夜に、雪麗は怒りの全てをぶつけた。
「何よアンタ!いきなりぬらりひょんの前に出てきて…一瞬で心を奪ったっていうの!?」
『そ…そんなつもりは…』
「そんなつもりなんでしょう!色目でも使わなきゃぬらりひょんが落とされるわけないでしょ!?何したのよ!泣き落とし!?」
『いや…あの…』
雪麗は輝夜に詰め寄り、泣きながら叫んだ。
輝夜は何と言えばよいか分からず、ただあたふたとしている。
《い、色目は使った覚えはありませんが…、泣いたのは本当ですし…ああ、この方泣いてしまっています…どうしましょう…!》
それまで黙っていた見ていた、周りの妖怪たちは、慌てた様子で輝夜から雪麗を引き離した。
「雪麗」
低い声で言ったのはぬらりひょんだった。
その場にいた皆が、輝夜の傍に立っているぬらりひょんに目を向ける。
「言い過ぎじゃ。輝夜はワシに色目も何も使っておらん。ただワシが惚れただけじゃ」
「〜〜〜〜っ!」
雪麗は悔しそうに下唇を血が滲むほど噛んだ。
そして小妖怪も大妖怪も蹴飛ばして、部屋から出て行った。
そんな様子を見て輝夜はあとを追いかけようとしたが、ぬらりひょんに腕を掴まれ、追いかけようにも追いかけられなくなってしまった。
『あ、あのっ…』
「すまん、変なところを見せたのう。あいつの事は後で何とかする。今は…輝夜、お前の気持ちが知りたいんじゃ」
『…ご、ごめんなさい…』
輝夜は絞り出すようにそう言った。
大きな瞳には、零れそうなほどに涙が溜まっている。
『妾は…いつかは…月に帰らなくちゃいけなくなります…。それがいつなのか、妾には分かりません。今かもしれないし、明日かもしれない。百年後かもしれないし、千年後かもしれない。わかりません。妾は…それが怖い…』
泣きながら言った、その言葉に周りの妖怪たちは何かを言う力を失った。
《この娘は…何者だ?》
誰もが最終的に辿り着くのはこの質問。
ただ、一人を除いては。
「それはお前の意思なのか?」
『え?』
「月とか…力とか関係ない…ワシは素の輝夜の気持ちを知りたい」
そう、ぬらりひょんはそんな質問には辿り着かないのだ。
輝夜は輝夜として、見ているのだから。
『妾は…』
自分の事なのに、全く知らない人の気持ちを伝えろ、と言われている様な気がした。
自分が背負っている、「過去」が自分自身を押しつぶして、本当の自分を見失っていた。
輝夜はそれに気づかず、何年も何年も生き続けてきたのだ。
『少し…時間を下さい』
『自分を見つめなおしてみます。本当の自分で、ぬらりひょん様に本当の気持ちを伝えたいです』
どこかすっきりとした表情の輝夜に、ぬらりひょんは安心したと同時に、待たなければいけないのか、という残念な気持ちも湧いた。
今すぐ答えを聞きたかったのもあるし、輝夜に本当の気持ちで答えてもらいたいのもあるしで、いろいろ複雑な気持ちだが、ぬらりひょんは輝夜の頭を撫でるとニッと笑った。
「自分の気持ちに嘘は吐くなよ」
『ハイっ!』
妖怪の時間は終わりだとでもいうように、
月は見えなくなり、太陽が昇ろうとしていた————
『『『『馬鹿な輝夜姫…』』』』
下界を見ながら、〈月〉に住む女は呟いた。
その声は女がいた部屋全体に響いたが、次の言葉は響かず、ただ宙に消えていった。
『『『『そこが終わりの始まりだなんて…思ってないんでしょうね…』』』』