二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【リボーンと】月下で交わる二人のオレンジ【BLEACH】 ( No.33 )
日時: 2012/01/28 13:44
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: iKemwK0t)

「ソウル・ソサエティ……?」
「あ、そこの不良な坊ちゃんにはそこから説明した方が良いでしょうか?」
「誰が不良だ! それって確か死んだ者が行く先だって言ってたよな」
「何だ、理解が早いじゃないっすか。その通りです」

 不良とからかわれた獄寺は浦原に食ってかかった。別に自分は不良ではないと、それにソウル・ソサエティの事は簡素な内容だがすでに聞いているとも。
 それならば手っ取り早いと、依然怪しげな店長はその通りと手を打った。褒められたかもと思いこんだ銀髪の少年はまんざらでもないように頬を掻いたが、ふとここで妙な事に気付いた。彼の言い草からすると、少々どころか大問題が起きる。

「てめえ……俺達に死ねって言ってんのか?」
「いやいやいやいやいやいや!! そんな事はこれっぽっちも言ってないっすよ!」
「だったらどうやって死後の国なんて行く気なんだよ、言えよ!」

 瞬間的に服に忍ばせていたダイナマイトを彼は取り出した獄寺は、咥えている発煙式の着火装置、要するに煙草型の着火装置に導火線の先を付けた。脅しのつもりだろうが、それにしては本気すぎる。

「ちょっ、お前何してんだよ」

 前に立っている一護も止めようと動き出す。しかし、間一髪間に合いそうになく、今にもその爆弾は手元から解き放たれようとした……その瞬間だった。
 耳に聞こえるいくつかの空を切る音、それと共に真っ二つに切り離される導火線、ダイナマイト本体にも切れ込みは入り、真ん中の断面から火薬は舞い散った、勢い余った斬撃は薄皮一枚破って獄寺の頬に傷を付けた。
 足元にサラサラと、こぼれ落ちる砂のように火薬が落ちる。それを見ている獄寺はただ呆然と、何が起こったかを理解しようとしている。一瞬、刹那の時間、彼の認知できないほどの短時間に浦原は剣を抜いた。そんなものどこに忍ばせていたのだろうかと思ったがすぐに分かった。柄の部分が傘の持ち手のように折り曲がっていた。つまりはあれは、ステッキの中に隠されていた。
 だがここで最も納得できていないのはそんな事ではない、あり得ないほどの斬撃のスピードだ。誰一人としてその動きは目で追えなかった、黒崎一護以外は。雲雀でさえも、沢田でさえも、最強の赤ん坊でさえも誰一人として————。

「店の中で暴れるのは止めてもらえますかねえ?」

 背筋にぞくぞくと寒気が走った。この男、実は相当な実力者、ふざけているフリして……その実真剣さをその中に抱えている。並はずれた実力と共に。

「悪……かった……」
「なら良いっす。じゃあ勉強部屋行きましょうか」
「勉強部屋?」

 途端に山本と沢田と了平の声が重なった。勉強のさっぱりできない三人組だ。いや、それだけでなく足元でさっきからずっと無視されている牛がらの幼い子供もあからさまに嫌そうな顔をしている。
 勉強とか言われただけでこんなに拒絶反応を起こすとは情けないと、家庭教師の赤ん坊は黙り込んだが、それよりも重要な事の方に頭が行っていた。
 この世界の人間の実力の程だ。さっきから幾度か接してきた、この世界の者たちは誰もかれもが凄まじい力を誇っていた。宇木良平しかり、黒崎一護しかり、この浦原という男。そして雑多な雑兵のような存在のさっきの化け物たち。何もかもが自分たちの常識が通用しない世界に、驚嘆するばかり。その誰もに自分すらも敵わないだろうと感じていた。
 本当にこの世界から脱出などできるのだろうかと、リボーンは思いなおす。仮にそれの条件が敵を倒すことなら数十年かかっても不可能な可能性もある。

「じゃあこっち付いて来て下さい。ソウル・ソサエティの行き方の説明しますから」

 手招きする浦原に一行は従う。一護はまたあそこかと、小さくため息を漏らすも、向こうに行くためには仕方が無いと諦めて下に向かった。




                         ◆◇◆



「うわ……凄いなあ。まさかあの部屋の下にこんな場所があっただなんて……」

 長い長い梯子、それを下りた所には大層広い空間が広がっていた。その景色は岩盤の上に岩がいくつも転がっているただの荒野のようだった。しかしその面積は相当なもので、沢田達一行の学校の敷地よりもはるかに広いだろう。
 日本の法律では、地下も数十メートルは地上に住む人間の領地なので一応犯罪に踏み込んでいるのだが、そこはばれないように工作しているらしい。
 そんな事はさておいて、ここを見た沢田は驚きを露わにし、今までこんなの見た事が無いと、とても幼い子供のように心が浮き立つような感覚にかられた。
 そんな風に反応する彼を見ながら浦原はぼそぼそと一護に耳打ちした。

「ほら……やっぱり誰でもあんな反応を取るものなんですよ」
「あのなあ……そこいらの高校生がこんなので目を光らせてた方が奇妙だったろ」
「いーやいやー、井上さんも結構大げさに反応してくれたっすよ」
「あーもう、分かった分かった。まさかまた断界を通って行くんですか、浦原さん?」

 断界、それは戸魂界と浮世を繋ぐ、橋や境界線のようなもの。特殊な道具で体の構成を原子から、霊子と呼ばれる成分に転換してそこを通り抜ければ生きているまま戸魂界に行くことができると言う訳だ。
 過去に一護はこのやり方で戸魂界に殴りこみに行ったのだが、その時には本当に酷い目にあったものだと思い返す。そうこう回想に耽っているうちに、浦原は沢田に説明を終えていた。

「という訳で、立ち止まると不味いんで一気に走りぬけて下さいね。ここにいる全員が地獄蝶持ってないんで」

 地獄蝶、それは戸魂界と現世を行き来する際に当たって“安全に”死神がそこを通り抜けるために必要なもの。しかし、かつてそこから追放された浦原しかり、元々ただの人間だった死神代行の一護は共にその地獄蝶を持っていなかった。よって、向こうに行くためには多少のリスクを冒さないといけないと言う事だ。
 どのようなリスクが付きまとうかというと、その断界には拘突と呼ばれる汽車のようなものが走っていて、それに触れると脱出は不可能となり、永久に閉次元に幽閉されるといったところだ。

「何だ、ただ走れば良いんだろ? 簡単な話じゃんか」
「話ちゃんと聞いてたか野球バカ! 絶対に気を抜くなっつってたろ!」
「そうだな、悪い悪い」

 案外単純に向こうに行けるもんだなと笑ってみせた山本に獄寺は噛みついた。少しでも気を抜いて、拘突にからめとられるとジ・エンドだと言われた事をそのままもう一度言ってのける。
 そう言えばそうだったなと、屈託の無い顔で山本はまた笑う。

「この能天気野郎、捕まったらマジでタダじゃおかねえぞ」
「何だかんだで一応心配してくれてんのな」
「てめえがいなくなると十代目が悲しむだろうが、そんぐらい察しやがれ」

 それもそうだと、やはりまたしても笑みを浮かべる。まあ、下手に緊張して自信を無くしているよりも遥かにマシなのでそこでもう説教はやめた。

「はーい、準備、できたっすよー」

 羽織を揺らして浦原が呼ぶ。そこには、びっしりとお札の張られた門が立ちそびえていた。その内部は空間が捻じれているようで、ぐにゃぐにゃと曲がっていた。

「今回はすぐに準備できてんだな。俺の時は何日も時間かかったのに」
「いやー、あれをそのまんま残してるだけっすよ。ささ、こっちこっち」

 その門の前に立つと、ようやく能天気そうにしていた全員がプレッシャーというものを感じ取った。中のおどろおどろしい感覚が伝わってきたんだろう。だが、怯むわけにはいかない。ゆっくりと、一歩ずつ近づく。
 一護を筆頭にその中に入ろうとしたが、その前に浦原が一護を止めた。

「ちょっと黒崎さん、まずは死神化しないと」

 そういえばそうだったと思いだした彼は、後ろ側のポケットから五角形の木片を取り出した。その中心には虚のような、髑髏のようなものに、大きくバツ印が付いていた。
 それを握りしめた一護は瞬時に意識が抜けたように倒れ込んだ。何事かと思ったが、すぐに分かった。死神の姿は一般人には見えない。魂が抜けたから体が倒れ込んだのだと。

「それではみなさん、行ってらっしゃい」

 いざ、戸魂界へ————。ついに眼前に迫ったその重要なスタート地点にボンゴレファミリー一行は息を呑んだ。