二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二章完結】月下で交わる二人のオレンジ【キャラ募集】 ( No.58 )
日時: 2012/02/24 16:00
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)

第三話 開戦





「何じゃと? 現世が?」
「やっぱりそう来たか。予想通りだな」

 いきなり予想外の所に攻め込まれて狼狽する隊長達をさておき、リボーンはと言うと沢田に向けて得意げな笑みを作る。自分の推測は当たっていたではないかと。こうまでなると、とある事実が確定する。相手が狙っているのはリング、自分たちは挑発されていると。
 冷や汗が流れ、背筋を冷たい何かが伝う。またしてもこれを賭けて闘わないといけない、そう思いながら指輪を睨みつける。もうこれで三度目だ、大きな力を手に入れたい連中と闘うのは。

「総隊長、現世監視を行っている班員からの伝言です。相手からは霊圧どころか一切の霊力が測れないとの事です」
「何じゃと……手出しができないという事か……」

 突然、奥の方の巨大な建物から顔を笠で隠した痩身の男が走ってくる。そして総隊長、隻腕の老人、山元元柳斎に報告をする。その内容は相手から霊力が感じられないとの事で、それを聞きつけた一同からはざわめきが上がった。
 一切の霊圧が無い者は、霊的濃度の高い存在、死神や虚に対して触れることはできない。つまりは干渉できないのだ。人間が死神に触れられない、だとすると裏を返せばこちらからも手出しができない。むざむざと目の前で人が死にゆく様を見届けないといけないのだ。
 どうするものか悩む彼らに、報告のため走ってきた彼は立方体の装置を床に置いた。そこから立体的な映像が飛びだす。

「これが敵の姿です。五人組で全員女のようです」
「そうか。それにしてもこの妙な色の炎は何じゃ?」
「それが……未だに解明できずにいるのですが……」

 不味そうにして黙り込んでしまった男に対して、その沈黙を破るようにして沢田が口を挟んだ。

「それ……死ぬ気の炎です」
「初めて聞くな、何なのだそれは? 黒崎一護の付き人よ」
「俺達の世界で、闘う時に使う物です。色は属性を表わしていて、属性が違えば効果も違います」
「貴様らにはそれが使えるのか?」
「はい、一応」

 そうか……、余韻を残してそのように呟き、髪飾りを付けた男性は黙り込む。何か考え事をしているようで、ぶつぶつと独り言を漏らしている。
 そしていざ、覚悟が出来たとでも言いたげに口を開いた。彼を知っている者としては信じがたいような言葉だったが。

「こちらから手が出せぬと言うのならば仕方ない。恥を忍んで貴殿らに頼む。我らの代わりにこの者たちをどうにかしてくれぬか?」
「どうすんだ、ツナ?」

 ニッと笑いながら沢田の肩の上でリボーンは問いただす。目の前で傷つきそうな人がいる、そんな映像を見せつけられている沢田が行かないと言う結論を下す訳が無かった。

「行こう、皆」

 そう答えると、待っていたと言わんばかりに各々が答えだした。各自の意思表明のために。

「勿論です、十代目」
「待ってました、って感じだな」
「では行くかぁ!」
「了解……ボス」
「コラー! ランボさんを置いていくなー!」
「ヤダ」

 順調に了承の言葉を述べる中、ただ一人だけ行く気の起こさない者が現れる。最後の一言に皆が反応する。誰が輪を乱しているのかと思ったら、そこに居たのは雲雀だった。

「こっちに来てからどれだけ群れたと思ってるの? そろそろ限界だよ。行きたいなら勝手に行ってきて」
「てめえなあ! 何言ってんだ、十代目の命令に従え!」
「前々から言ってるだろ? 僕は従ってるつもりはないし君たちと群れるつもりもない。邪魔するなら咬み殺すよ?」

 挑発するように雲雀はトンファーを取り出す。それに対して獄寺も手元から自分の武器を取り出す。
 学ランの男子と爆弾魔の男が今にも内輪もめを始めようとした時に、雲雀のやる気を高めるためにリボーンは口を挟んだ。

「おい雲雀、これ見ても黙ってられるのか?」
「ん、どうしたんだい?」

 呼びとめられた彼はさっきの立体映像を凝視する。すると、どこかの学校の制服姿の黒髪長髪の女子が、壁に『小鳥はこちら』と、明らかな挑発文を刻み込んでいたのに敏感に反応した。
 さっきまでの群れたくないがために脱力感はどこかへと吹き飛び、彼の中に本来の闘争心が戻ってくる。自らをコケにする者は許さないと言いたげな眼光、相当に怒りが溜まっているようだ。

「予定変更だ、彼女から咬み殺そう」

 彼が戦闘に参加するつもりになったのを見届け、一同は安堵する。雲雀がメンバー内で一、二を争うのは周知の事実。居ると居ないのとでは全く士気が異なってくるだろう。それ以前に居なかったら負ける可能性だってある。
 一人ずつ、覚悟を決めたところで一気に顔つきを変える。気合いは十分であり、充分強い炎も灯せそうだ。

「では、穿界門を開く。急いで拘突を止めよ」
「現世に現れた時点ですでに完了しています」

 元柳斎の命令に、伝達の男は返す。既に大半の用意は整っていると。それを聞いた面々は沢田達を現世へと戻る入口へと案内する。戦闘に立つ隊長達に、すぐさま彼らはついて行った。

「なあリボーン、変なことがあるんだけど……」
「どうした? 何かあったのか?」
「実は、さっき普通の人には死神は触れないとか言ってたけど俺達を襲った奴らは、普通に雲雀さんのトンファーが当たったし、マントで光線を防げたんだけど……言ってる事が違うっていうか……」
「……確かにな。ダメツナにしてはよく思いついたな」
「それに、襲ってる人達も死神が見えないっていうのに死神の味方っていうのも変な話だし……」
「流石は超直感だな。まあでもそこは俺にも分からねえ。とりあえず攻めこむ奴らを片付けるだけだぞ」
「うん……それもそうだね」

 疑問が解消されたとまでは行かないが、相談して軽いものになり、安心した沢田は歩調を速める。肩の荷が下りる前に大分置いて行かれているのだから必死で今から追いつかなくてはならない。
 目指す先には階段があり、宙に障子が浮いていた。障子の向こう側には微かに、つい先ほど通ってきた空間が口を開けていた。
 先程は、無事にたどり着くために急がなければならなかったが、今度は違う。より多くの人を護るために急がないといけない。
 それならば得意分野だとでも言いたげに、彼を初めとする数人の仲間はしっかりとした顔つきで歩んでいた。






                             〜現世〜

「何か……女の子扱いされた気がします」

 青みがかった銀の長い髪の少年は、あからさまに不機嫌な顔をしてポツリと呟いた。ただしその声は周りの誰にも聞いてもらえなかった。

「あー、っもう! まだなのかしらあいつらは……」
「本当だぜ、もう五、六個ビルぶっ壊したっていうのによ」
「その割に死人は出てませんけどね……」
「無用な殺しは精神の教育に悪影響をもたらすと教わったのよ。あなたみたいな甘ちゃん達にも無理でしょう」
「甘ちゃんって……闘ってる時は私甘ったれたこと言ってないわよ」

 倒壊した後のコンクリート片を眺めながらグチグチと呟く五人組は、被害者から見たら化け物のようだった。いきなり現れたかと思うと五人がかりでいきなり建物を襲撃し始めた。風にさらされ水流に揉まれ、炎に焼かれ冷気に叩かれ……三十分も経てば二十階程度の建築物が半壊していた。
 そんな中で人一倍愚痴を洩らしているのは、元来の口が悪い時空だった。八つ当たりだと言わんばかりに詩音や風花に罵声を浴びせるも、冷静な二人には対して効果が無かった。
 そろそろ退屈も限界で、一気に半径五メートル程度吹き飛ばしてやろうかと思ったその時に、ついに扉は開いた。彼らの腕時計状のレーダーに、霊界へと繋がる道が開いたという信号が現れる。ついに向こうからリングを携えた沢田達が戻ってきたのだ。
 よし来たと言わんばかりに、いきなり篠原と時空は駆け出した。それぞれ、沢田と雲雀という自分の見定めた標的と闘うために、他の者にターゲットを奪われないように。ただし、同じく標的を定めているはずの詩音は穏やかにしていた。分かっているからだ、鈴音風花も姉の紅蓮も自分の意思を尊重してくれることが。
 紅蓮と風花に、誰と闘いたいという願望は無い。よって詩音には焦る必要が無かった。

「ちょっと篠原さん? ストーキングするのやめてくれないかしら?」
「五月蠅い。私が行こうとする方向にあんたも行ってるだけだぜ」
「屁理屈は良いから、離れなさい」
「そっちこそ、私は向こうに敵がいるから急いでんの。雲雀だったら待ってても来るから我慢しなさい」

 醜い口論を続けながらも二人は相対する者の出現地へと向かって走る。現に相手との距離はもうすでに大分詰まって来ている。向こうもこちらと同様に探しているのだとしたら、遭遇するのも大分早いはずだ。
 ふと、炎の気配が彼女達のすぐ近くから感じられた。壁一枚隔てた所に誰かがいる。誰が現れるかと思っていたら、いきなりそれは上空に飛び上がった。

「当たりじゃん! じゃあな未来、私は先に交戦しとくぜ!」
「ちっ、ついてないわね……さっさと出てこいよ弱虫小鳥……」

 嬉々とした表情で上に飛び上がった篠原を見て、聞こえるように時空は舌打ちをする。ただしそれは、歓喜する少女の耳に入っても特に嫌悪感は無かった。
 どうしようもない苛立ちをさっさと人にぶつけてしまいたくて、愚弄の言葉を交えながら雲雀を呼ぶ。するとそれが願ったり叶ったりか、紫色の死ぬ気の炎が視界に入った。あの属性でかなりの量、それを扱えるのは雲雀しかいない。自分だって幸運が舞い降りているのだと、彼女はその方向に飛びだした。
 そこには、案の定雲雀がいた。

「ようやく見つけたわ」
「ああ、君かい? 僕も探していたんだ。風紀委員を愚弄するなんて校則違反だ、咬み殺す」
「別にあなたの学校の生徒じゃないんですけど?」


                             ◆◇◆


 見せつけるように雨の炎を上空に向けて燃やしながら、詩音と紅蓮の双子は敵を待ちかまえていた。下らない世間話で談笑しながら、誰かが近づいてくるのを待つ。
 もうすでに風花の方は先にどこかに行ってしまった。ここで固まっている訳にもいかないという事で。そういう訳で姉弟の二人組で待っていた。
 そしてその時ようやく、足音が聞こえてきた。数えてみると二つ、二人組で行動しそうな残りのメンバーを考えるとおそらくはあの二人。

「おっと、双子の姉妹か? しかも何気二人とも剣士なのな」
「適当な事ってる場合かよ。ちゃんと準備しな、強ぇぞこいつら」

 現れたのは獄寺と山本。二人ともすでに準備は万端のようで、獄寺はベルトにいくつもの匣を付け、山本は抜き身の日本刀を持っていた。
 詩音は紅蓮に対してアイコンタクトを取った。銀髪の方の男は任せると。口にはしていないが充分意思疎通のが取れるので、紅蓮は了解の意を込めて頷く。
 こちらも、戦闘に向けて、お互いに万全の態勢は整った。


                              ◆◇◆

「うーん、三対一か……。でもま、そんなに強くなさそうだし大丈夫でしょ」

 鈴音はと言うと、残った了平、クローム、ランボの三人組と一挙に鉢合わせていた。クロームとランボに至っては時空や篠原の敵ではない宣言を思い出して安堵する。事実上ほとんど一対一と変わらないと。
 得意げな顔でさらりと挑発されるも、相対している三人はというと、怒るどころか緊張を感じていた。


次回に続く。