二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【参照800】月下で交わる二人のオレンジ【現在三章途中】 ( No.78 )
日時: 2012/03/16 09:47
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Uo0cT3TP)
参照: ランボ&クローム&了平VS鈴音風花

「さっきの爆発音、何だったのかしら?」

 闘いの最中、突然周囲に響き渡った爆音に、風花は顔をしかめた。もうもうと立ち込める、真っ黒な爆炎が、そこで爆発が起きたことを表わしていた。それを見た了平はすぐに気付いた。獄寺が持ち前のダイナマイトで戦闘をしたのだと。突然向こう側から炎圧が届かなくなっているので、相討ちにでも持ちこまれたのかと、クロームと了平は危惧していたが、そうでもないと判断する。
 それっきり、ダイナマイトの爆発音も収まる。おそらく、さっきので決着は着いたのだろう。勝敗は分からないが、それを確認するためには目の前の敵を倒さなくてはならない。しかし、開戦から長らく経った現在でも、三対一であっても、苦戦を強いられていた。
 三対一と言っても、全くもって話にならない三対一である。実はというと、一人一人の性格を考慮してみると、戦闘面に全力を注げる人間がいないのだ。そんな状態で、雲雀にも肩を並べ得るような実力の相手と闘うのだ、勝てる由もない。
 なぜ三対一が上手くいっていないのか、それはまず戦力が足りないのだ。元々、常時戦士として活躍できるのは、それなりに年を重ね、なおかつ腕力のある了平一人だ。クロームは幻覚によるサポートの方が適している。つまりは、元々闘いにはあまり向かないタイプだ。その上、ランボはまだ幼すぎて、戦闘に集中なんて到底できそうにもない。さっきから必死に、普段リボーンから逃げる時同様に、回避に徹するしかない。
 そして、最後の理由に、了平が闘わないということだ。先刻の山本のセリフから察せられる、『甘さ』を持った人間は、山本一人ではない。沢田にも、了平にもある。中々女相手には手を出しづらい。沢田が篠原相手に、炎を吸いきって気絶を誘うやり方を取ったのもこのためだ。そして、了平は当然、信条の一つとして“女は殴らない”というものがある。時折例外として起こるかもしれないが、基本的に女子に手を上げることを彼は嫌う。彼の凝り固まった思考回路では、『女=男性が護るもの』とでも定義されているのであろう。

「それにしても、三人がかりでなさけない」

 翡翠色に透き通った二枚の刃を重ね合わせて彼女は三人を挑発する。出会った瞬間に浮かべていた、穏やかな笑みは二つの短剣を手にとるや、すぐさま消えてしまった。いつの間にか膝まである長い髪が、邪魔にならないように後ろでくくっている。背は対して高くなく、右目が燃えるような赤色で、左目には不思議な色で、不思議な模様の義眼がはまっていた。
 笑みが消えただけでなく、そのプレッシャーからも、ピリピリとした威圧感を、了平は常時感じていた。その気配が、今になって一層強くなっている。今までは、拳圧で炎を飛ばす程度にしか攻撃していなかったが、そろそろ不味いと明瞭になってくる。
 同じような攻撃スタイルしか取らないにしても、やはりやるしかないと判断した了平は深く溜め息を吐き、アニマルリングに炎を注ぎ込んだ。現れたのは、アーマーを纏ったカンガルー。

「形態変化<カンビオフォルマ>」

 次の瞬間、カンガルーは了平の全身を覆いこむような装甲に、その姿を変える。その装甲に身を包んだ彼の体は、晴れの炎で黄金に輝いていた。ただし、この状態には厄介な短所があり、三分しかそのコンディションを維持できない。
 三分以内で決してみせる、その覚悟で一歩を踏み出す。一気に実力が上がったと、即座に判断した風花は、二本の剣を構える。彼女の武器は、雷の炎を纏った双剣だ。湿気た樹木が火の粉を破裂させるようなパチパチという音がする。軽くその剣を彼女が振るうと、剣圧が生じる。微弱な、弱すぎる風でも雷属性の“硬化”の能力を受けると一気に鋭利な刃となる。何度も何度も、空気と擦り合わせるように両手の刃を振るう。次々に風の斬撃を作り上げていく様子は、まさに舞のようだった。
 近づいて行く了平の頬に一筋の切れ筋が入る。鎌鼬のような攻撃が頬を掠めたのだろう。顔の側面を垂れる赤い液など意に介さずに了平は接近する。さすがに脚力を最大活性させた彼のフットワークはかなりの速さであり、対応は困難。すぐさま懐に入り込まれる。

「拳自体は当てはせん! 極限太陽<マキシマムキャノン>!」

 彼が高速で一閃させた拳からは、光り輝く炎が一直線に放たれる。回避できないのか、しようとしなかったのか、彼女は真正面から直撃する。手ごたえありかと、了平は思ったが、それは間違いだった。
 鈴音風花は、文字通りかすり傷一つ負っていなかった。それどころか、微弱な風を浴びた程度にしか感じていなかった。もはや、爆風の領域に突入するほどの、拳の圧力によって生まれた衝撃すらも、意に介していない。
 一体、どのような策を講じたのか、彼の弱い頭では、全く分からずに、反撃に備えて後退する。だが、そんなもの許すはずもなく、風を纏った彼女は突撃する。

「六花風斬!」

 鋭い空気の刃を剣で起こし、了平に向かってその双剣を振り下ろす。剣を取り巻く、渦を巻くような斬撃は剣を離れて独立した遠距離攻撃へと変わる。脚についた靴型の装甲に炎を注ぎ込み、空中に浮き上がり、了平は回避する。次の瞬間、舗装された道路は風によって粉々に切り裂かれた。切り裂かれた後に宙を浮かぶコンクリート片でさえも、微かに吹き荒れる風で刻まれる。
 了平が前線で闘っている間に、クロームは自分の魔レンズで、相手の闘い方を解析していた。ランボはというと、狙われなくなったその瞬間に緊張が解けて、座り込んで観戦していた。

「晴れの人。その人、雷の炎で肉体を硬化させています……! だから、もっと強くしないと……」
「雷の炎だと? こやつ、剣から出る炎は全て攻撃に回しているぞ!」
「違う……左目の、義眼!」

 そう言われてハッとした了平は、風花の左目をよく観察する。長い前髪に隠され、剣から迸る炎圧にカモフラージュされて、大分分かりにくいが、確かに左目から緑色の炎が奔っている。あれによって鈴音風花は強固な防御力を手に入れているという訳だ。了平の、炎を込めた攻撃を受けても、一切ダメージを受けないほどの。
 しかし、それほどの防御力があるならばということで吹っ切れる。手加減などしていては勝機は無いと。かといって、やはり女子を殴るのは絶対拒否の彼は、ランボの力を借りることに決め、声をかける。座り込むランボの耳元にまでしゃがみこみ、耳打ちする。するとランボは得意げな表情を取り、頭から二つの指輪を取り出す。
 だが、普段の彼は火を点けることなど、決してできない。彼の戦意を引き出す方法は、少し前にリボーンから、聞かされていた。そして了平はランボに向かって、叫ぶように話しかける、「沢田の母親に、会いたくないのか」と。それを聞いたランボは、目から大量の涙を流し始める。初めは小さく嗚咽するようなものだったが、次第にボリュームは大きくなり、号泣となる。その瞬間、ボンゴレリングから、強い炎が放たれる。突然、幼子が強力な炎を放ったのだ、風花は勿論の如く目を丸くする。
 ゾッとするような、鋭い電撃がもう一つのリングを覚醒させる。そこからは、巨大な牛がその姿を現した。咆哮するような、大きな鳴き声を上げてその巨体を振るわせる。その瞬間に、宇木から聞いた情報を彼女は思い返した。実戦で使われてこそいないが、あの牛の突進の威力は凄まじいものだと。
 どうにかして、ランボを叩いて、炎の供給を絶たねば、今度こそ自分が敗北する。それが分かった彼女はすぐさまランボを先に仕留めようと駆け出す。しかし、それ以上走ることはできなかった。焦燥が彼女の視野を狭めていたのだ。いつの間にか了平が後ろに回り込み、風花の両腕を押さえこんでいた。残った隙で剣を弾き飛ばしてそこいらに飛ばす。

「なっ……このままじゃあ……」
「行け、ランボ。俺ごとだ!」
「突っ込め牛丼ー!」

 もはや、鳴き声を上げるランボに理性は残っていない。元から無いに等しいのだが、それ以上に無くなっていた。ただただ了平の言うがままに自分の匣アニマルの牛丼を走らせる。助力をつけるようにして、蹄で地面を擦り上げるその仕草は威嚇のように見えた。
 風花は、自分にできるのは防御力の上昇だけであって、身体能力は上がらないことは分かっている。だからこそ、完全に諦めに入り、できる限り体を硬化させる。少しでも敗北の可能性を減らすために。
 もうすでに、牛は走りだしていた。背後には砂煙を上げて、凄まじい速度で。刻一刻と間合いの詰まる中、了平はタイミングをうかがう。自分は回避でき、風花は回避できない限界点を。
 途端に、衝突した地点から四方に衝撃波のようなものが飛び散る。軽々とランボはそれに飛ばされ、道路上を転がる。クロームも、必死でそれにこらえる。
 一通り爆風が収まり、落ちついた頃に了平が出てくる。かろうじて回避はできたのだが、そろそろ三分が近づいているためか、炎が弱くなっている。そして限界が訪れたらしく、形態変化は溶けてしまった。
 砂煙が払われたそこには、風花が倒れていた。しかし、まだ意識はあるらしく、立ち上がろうと腕を地面についている。

「まだ……終わってはいませんよ……」

 今にも倒れてしまいそうな彼女を、これ以上傷つけないためにも、クロームは幻覚の縄で動けないように縛ろうとした。しかし、できなかった。突然現れた一筋の閃光が、了平を撃ち抜いたのだ。

「がはっ……」

 弱々しく、漫画によくありそうな呻き声を上げて、彼は倒れる。今発射されたのは、大空属性のレーザーだった。何事かと思って鈴音風花のさらに向こうの方を見つめると、一人の男性が立っていた。体中の至るところに、見たことの無い幾何学的な模様や言葉が羅列して、紋章を織りなしている。そしてそれら全ての紋章が、それぞれ赤橙黄緑青藍紫のいずれかの色で輝いていた。

「虹宮……道山……」

 虹宮道山(にじみや どうさん)と呼ばれたその男は、得意げな嘲笑を浮かべて、炎の枯渇した四人に語りかける。さも、弱者を見下すように鬱陶しげな感じで。漁夫の利であるというのに。

「よう、鈴音。随分やられてんじゃねえか。後は任せな」





出てきました、炎圧組の中では唯一の自分で作ったキャラクターです。
どういう風に闘わせるかは、次回分かります。
ていうか……こんなにボロボロで勝てるのだろうか……?