二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: KAMISAMA!【銀魂】 ( No.21 )
日時: 2012/03/04 13:59
名前: 夏雲あざみ ◆iYEpEVPG4g (ID: WPJCncTm)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

酷い人
(短編沖田夢、軽く失恋)



 嫌いだ嫌い、お前なんか顔も見たくない。ずけずけと土足で人の内側を踏み荒らしやがって図々しいにも程がある。それでいて自分を認めてくれだって?アホらしい。大体昔からお前の我侭に振り回されるのはいつも俺だ。イラつくほど鈍感だからきっと気付きやしないだろうと思ってた。でもこんなことになるなら最初から拒絶すりゃあ良かったんだ。理解して欲しいんじゃない、そんなの求めてない。ただありのままで居て欲しかったのに。何だよ結局分かってたんじゃねえかみっともねえ。嗤えよ、なあ。
 俺の姉上はそんな甘ったるい声じゃない。だから無駄なんだって。代わりになろうとしているのが余計にウザい。お前のしてることは優しさなんかじゃない、ただのエゴ。疲れたって嘆くんならいっそやめちまえよ。あんな男のところに行かないでさ。
 
 2ヶ月程前だったか、夕凪がいつになく嬉しそうにはしゃいでいて、何かあったのかと訊くとそりゃあもう満面の笑みで彼氏ができたなんて言ってきた。嘘だろ、と思った。悲しむ前に嫉妬する前にただただ現実であることを否定した。
 
「総悟にしかまだ言ってないんだ。」
ああ、そう。俺に言ってきて何が楽しいの?昨日一昨日出合った奴に告白されて付き合って、どれだけ安っぽいんだよ。俺の方がもっと夕凪を知ってる。コーヒーは砂糖を何杯も入れて甘くしてやらないと飲めないことも、くせっ毛だから毎日朝に時間をかけてヘアアイロンで丁寧に真っ直ぐにしてから出てくることも、雨の日の土の匂いが好きなことも、何倍も何倍もよく知ってる。
 自由奔放で誰構わず親切に助けるから厄介なことに巻き込まれる。で、結局俺が後始末。でもそんなところが好きだった。自由で鳥のような存在に憧れた。
 
「恋愛経験とかほぼないんで、ここは遊び慣れしてそーな総悟くん、アドバイスよろしくね。」
 シカトを決め込んでいると、少しおどけた様子でからかい気味に夕凪が言った。夕凪は優しいから、ここで別れてくれなんて言ったら言葉の通り別れてくれるかもしれない。情けない、何で俺が未練がましく思うことがあるんだ。冷静に考えれば別に付きあっちゃいないし特に何があったわけでもない。惨めったらしくなるのが厭だった。
 
「せいぜい彼氏とよろしくやれよ。」
 平静を装って、いつものように夕凪と話すように。ポーカーフェイスは得意だから、何もそこまで傷付けてやることはない、と思ったのだ。
その答えに納得したのかどうかは知らない。その時、どんな表情をしてたのかも、わからなかった。

 
 夕凪と最初に会ったのはまだ実家に居た頃だった。刀は扱うは喧嘩っ早いは、それまであった俺の姉上みたいな優しくて綺麗な女のふわふわしたイメージは吹っ飛んだ。人一倍負けず嫌いで、努力することも惜しまなかった。俺はそんなところが気に食わなくて、一度大喧嘩をした。手加減としたつもりは毛頭ない。木刀での勝負ではあったけど、夕凪はそれなりの腕前はあったように思える。それから一緒に居るようにもなった。近藤さんがやたらと囃し立てたけど、別にその時は一人の人間として夕凪を認めただけだって思ってた。
 だけど夕凪が事故で大怪我をしたと近藤さんから聞いたとき、本当に心配した。これでもかって程。見舞いに行ったらへらへら笑ってるもんで、大丈夫そうに思ったのだけれど、夕凪は右肩から下を事故で失くしたらしかった。丸くなった肩には包帯が巻かれていて、浴衣の裾が寂しそうに揺れていた。俺は何も言うことができなくて、見舞いの林檎をベッドの傍の机に置き去りにして病院を出た。
 
それきり夕凪は来なくなった。
刀は左手だけでは握れない。俺には考えられなかったけど、相当ショックだったのかもしれない。俺は病院に行くことも直ぐ近所の夕凪の家に行くことも、あんな逃げ方をした後だから気まずくてできなかった。
 
 再会したのは2年前の5月で、声を掛けられた時は誰だかわからなかった。でも、そこにない右腕を見て、ああ夕凪だ、と。ずっとずっと出合った頃より大人びていて、それこそ明るさとか無鉄砲さは変わらないけど女らしくもなっていた。思ったより気楽に、それこそ昔のように他愛も無い話をした。近所の猫がどうとか、屯所の廊下が汚いだとか、そういう風の。夕凪は江戸へ一人で上京してきたらしかった。それからは屯所に頻繁に来るようになった。

 姉上が死んで、そのことを伝えた。大変だね、と言われた。多分、結局何を言っても嫌味ったらしく聞こえただろうから、それだけしか触れない夕凪が嬉しかった。俺がそうやって適当に言葉を紡いでも、夕凪はちゃんとそのことを理解してくれているのが好きだった。そんな空間が特別だと思えた。
それから同情するように夕凪は俺のところに来る回数が増えた。一週間に5日は来る。来れない時は、大抵仕事の関係で止むを得ない時くらいだった。なんだか夕凪を振り回しているように思えて、いたたまれなくなった。何度もそんなに気を使わなくていいと言ったけれど、そうしたら心配しないでとぎこちない愛想笑いで流してしまう。まるで罪滅ぼしみたいに見えた。俺はそんな時の違和感みたいなのがどうにも嫌いで、それまで暖かいオレンジ色だったそれが日に日に侵食されていくのが辛かった。

そしてあの言葉だ。心底憎くなった。
     
 やっと気付いた。夕凪は、俺のためにずっとずっとこんなことをしてくれてたんじゃない。自惚れだった。でも向こうも自己満足の為にやってるんだからお互い様。嫉妬?ああ、した。相手の男を探し出して首を絞めてやりたかった。でもそんなことよりずっと夕凪が憎かった。勝手に罪悪感感じて姉上の代わりになろうとする夕凪が、とても安っぽくてちんけに見えた。冷え切った心だった。それまで大切だった感情が途端にゴミに見えた。
 それからも回数は減ったものの変わらず夕凪は俺のところに来た。大半は、彼氏と喧嘩しただの、彼氏に何か言われただの。たまに、姉上の墓標に墓参りに行く。辛く当たれないって知っててお前は俺のところに来るんだろうか。優しい言葉を掛けたりなんかしてやらないけど、それでも俺は夕凪のことを否定できない。一通り吐き出すと、屈託の無い笑顔でありがとうだなんて思っても無い言葉を言う。俺を気遣ってるのか知らないけれど、姉上の真似事のように優しく。
 
 何でもいいからこのまま夕凪の傍に居たかった。よっぽど夕凪の親切心と嫌悪する自尊心に甘えている。
そしてこれからもずっと2番目で居ることに俺は満足するのだろうと思うと、酷く気が重くなった。