二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【オリキャラ募集】KAMISAMA!【銀魂】 ( No.36 )
日時: 2012/01/20 16:04
名前: 夏雲あざみ ◆iYEpEVPG4g (ID: WPJCncTm)
参照: http://loda.jp/kakiko/?mode



08 そこに居ることがわかっているのなら、ここに居るのと同じでしょう


            


 どこか古く懐かしい、80年代の香り漂うテンポの曲がほんの小さく、耳を傾けなければ聞き取れない程度の大きさで聴こえた。炬燵の傍で蹲っていた銀時は、今も尚愛され続け、今をときめく寺門通でさえ憧れているという某江戸初期年代トップアイドルに敬意を称し、めったに換気などしない為空気が乾いてがらがらになった喉でその歌を口ずさんだ。青春の一ページが甦る……とありもしないドキドキのロマンチックの恋だの熱く激しい友情などを脳内で構成してジオラマのように流してみる。炬燵の上の木板に突っ伏して、今はもうお母さん、いやおばあちゃんになっているかもしれない彼女を想像し虚しさを覚える。掻き消すようにノリノリで歌い続けるが、それにしても酷い歌声である。丁度、Bパートの辺りからサビメロディへ、最高潮へと一気に駆け抜けようとしている瞬間。
 
 ぶちぃっ。
 
「あ、はいもしもしー?え、前原さん?どしたんですか?ええマジでえ仕事終わらなくって職場に寝泊り?きっついねー。ほんと今の雇用先ってさあ労働者の最低賃金とか労働基準法とか見たことないんじゃないのかな。えー?あー、やっぱり?部長と今年入社してきた結子ちゃんてデキてんだよねー可愛い顔してあの子もさあやることがえっぐいって言うか……。」
 
パートの主婦か。お前は。

 声の主は東雲あかね。自称16歳の年齢詐欺(外見詐欺?)女だ。マシンガンの如く言葉を発し続けるさまはさながら見境がなくなったお妙のよな喋りっぷりだ。夢見心地で半開きだった瞳も今や怒りで醒めた。そのまま閉じられていた襖を勢い良く開き、

「テメーふっざけんな!!俺の高井麻○子さんを返せェェッ!!」
 
 当の本人はさも気にも留めないように客人用のテーブルに持たれかかって不安定な体制を取りながらくっちゃべっている。珍しく赤毛は三つ編みにして垂れており、服装もパジャマのように薄い布着れが大分余裕の在る大きにデザインされていた。シャツも引きずりそうなズボンも同じ生地。チープでこんな子供っぽいものが好きなのも年齢不相応と言うか、何と言うか。
   
「え?なに?ごめんごめん、ほんっとごめんってばー。ちょっと今うちの甥っ子が戸棚の上のサラダせんべいがとれないって喚いてるんだー。うんうんまた後で掛け直すー。じゃあねー前原さん。」
 
電源を切ってシャツのポケットに携帯が突っ込まれた。そ知らぬ顔をしたあかねは非を詫びるはずもなく見当違いなことを言い出した。
   
「で、えー○ーびーふぉーてぃえいとがどうだって?」
「知らねーよあんなきゃっきゃきゃっきゃポニーテールだとか騒いでる小娘ども!俺の青春は高井麻○子以外にありえないの!」
 
「押しメンは麻里子様〜!」
 
「惜しい!限りなく惜しい!一字ちがいィィ!まみこ!」
「ごめんねえ銀時わたしおばちゃんだから最近の子のこと良くわかんないや。」
 
「都合の良い時だけ年寄になってんじゃねェよ!今あきらか麻里子様だとか言っただろ篠原だろォォォオイ!」

 そんな叫びを嘲笑うかのごとく無視して寝室へと入っていくあかね。何をするかとスリッパでぺたぺた走って追いかけるが襖をぴしゃりと閉められてしまった。手で無理矢理開けようとしても開かない。くそう、どんだけ怪力なんだコイツは。
 
「着替えるから、覗かないでね。」

「は?!誰が見たいんですかァあんたの裸なんか見たら吐くわ!」
 
口の悪さは相変わらず、とあかねは小さく笑みを零した。
 襖に背を向けて柱に持たれかかっていると、ほどなくしてあかねが出てきた。いつもの服装に身を包み、三つ編みは解かれている。
 
「お前いつもそれしてから出てきてんの?」
指を刺して言った。するとあかねは何が何だがさっぱりといった表情で聞き返す。
 
「え?それって?」
「えーと……あれだよあれ、朝してた髪の毛ぐるぐるーって縄みたいにしたやつ。」
「アレとは何だ失礼な。折角ふわふわにしてるのにー!」
「そういやお前昔はそんなのしてなかったような。」
 
 あかねが自身の髪を手にとった。昔、は。あかねの髪と言えば近所でもきらきらしててさらさらで、評判の真っ赤で綺麗な髪だった。でも娘さんといった風貌でもなかったし(どちらかというと男子に混じって野球だの喧嘩だのしているような)、そんなに特別顔が美人だった訳でもなかったから、皆あまり言わなかっただけで、俺はできたての飴細工みたいに美味しそうだとか、それでも子供ながらに綺麗だとは思っていたのだ。今でも悪くはないと思うけど。思い出は美化されるものと言うし。

「うん、昔はうっとーしーから肩まで来たら即はさみで切ってたし。真っ直ぐに降ろしてたら、髪の色が陽に透けて色が濃く出ちゃうでしょ。そうすると目立つのなんのって。」
 
「昔の方がマシ。」

ぎゅう、とあかねの背中の髪の握る。
 
「いたたたたた。痛い!陰湿な嫌がらせ?さっきの仕返し?」
「両方じゃね、あと今までの報復?みたいな。」
   
そんなに言うなら、たまにはそのままで出ようかな、とあかねが言ったので、髪を放してやったらぎゃあ!と間の抜けた声を出して前にすっころびそうになっていた。びっくりするじゃないのと言うので俺もお前の声に驚いたわと言っておいた。
途端に聞き覚えのある曲が鳴った。先程炬燵で聞いたあの曲だった。今度はすぐさまあかねは携帯を開いて電話に出た。暫くは持ち前の明るい声で喋り続けていたが、途中から小さく相槌しか打たなくなった。
 
「ぎんとき。」
 
ふいに、声が掛かる。あかねはこちらを向いて
 
「ちょっと、お仕事行って来ます。」
 
と言い放った。にんまり笑った顔だった。それが余裕から来る物なのか、強がりなのかはわからない。そんな声だけで安心できるのもアホらしいが、あかねなら大丈夫だろう、とつい、いつも軽い気持ちで見送ってしまうのだ。きっとこんな風に、簡単に死なないと宣言できるような相手なんか、そうそう居ない。そしてその言葉を信じさせてしまうような奴なんて、それこそ本当に。だから俺はいつもの様に、ああ、行って来いよ、と味気なく言葉を返すのだ。