二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【オリキャラ募集】KAMISAMA!【銀魂】 ( No.46 )
日時: 2012/02/05 17:14
名前: 夏雲あざみ ◆iYEpEVPG4g (ID: WPJCncTm)
参照: http://loda.jp/kakiko/?mode

 

09 遺され爆ざる硝子の破片 【過去編】





    
 酷く空は濁っていた。遮られた太陽がその身を覗かせようと、淀んだ曇天から少しばかり顔を出す。戦場は飛蝗がその大地を舐め尽くしたように閑散としている。重々しい静けさがあった。人っ子一人見当たらない。今は天人達は息を潜めているが、いまに江戸へと向かっているに違いない。——今朝ばかり、幕府は最終防衛地区を改め、江戸の南西部の一部を切り捨てた。幕府は怯えきっている。脅威はもう目と鼻の先にまで迫っている。終わりが近いことは、もう誰にでもわかりきっていた。
 
「銀時!」
 
 砂の舞う荒野は視界が狭い。小太郎と銀時を、川岸の向こうに僅か見つけた。銀時は小太郎に肩を支えられて、右肩の少し下辺りが酸素に触れて黒ずんだ血液で染まっていた。慌てて駆けつけると、小太郎も銀時も、どこもかしこも傷だらけで痛々しかった。乾き切りもうほんの申し分程度に残る川の岸に座らせた。
 
「小太郎、何が。」
 
 自身の着ている服の裾を噛み千切り、傷口に当てる。幸い出血は抑えられており微々たるものだったことに安堵し、巻きつけた布はしをきゅっと結んだ。銀時は痛がりもせず、無言で虚ろな眼をしている。いつもなら腑抜けてんじゃないわよ、と毒づいているところだ。
 
「俺が話そう。今は戦える状況ではない。」
 
 俯き加減で小太郎が言った。何か重い事情でもあるらしい。そして、場所を変えるように催促した。あかねが、銀時をこのままにしてはおけないと小さく零す。白い手を伸ばし、座り込む銀時の頬に触れようとした。
 高い音が、鳴った。指先がじんじんと熱を帯びて痛む。右手がぶらりと宙に垂れ、驚きを隠せずただ呆然とした。敵意に似た、拒絶。すまぬ、と小太郎が何か後ろめたいことでもあるかのように申し訳無さそうに言った。ここまで来て、やっと事が尋常ではないことに気付く。そしてそれを問う暇も与えられず、憤りを含んだ声は銀時によって掻き消された。
 
「うるせェな。はは、何?もしかしてお前、知らなかったの?」
 
 低く冷たい、地を這うような、声。吹き荒れる風が、空を覆う雲が、しきりに何かを連れ去ってしまおうとしている。ずっとずっと何かを呼びかけて、その何かが私達であったかのように、叫び続けている。
 
「やめろ銀時。」
 
 訊いてはいけない、そんな気がした。もう本当は、取り返しの付かないことになっているのかもしれない。恐ろしく嫌な予感が背筋をちりりと総毛だたせる。
     
「松陽先生が、死んだ。」

 うそ、嘘、嘘、嘘、だって。違う!とだれかが胸の内で叫ぶ。否定したい言葉ばかりが陳列されている。どれを取ろうときっとおなじなのだ。否定しているのだ。何を。死を!嘘でなければおかしい。きっと銀時は嘘をついている。ちがう、分かっている。あの子はそんな嘘を付く子じゃあない。では、何故?せんせいが、死んだ。せんせいが、死んだ。言いようの無い、例えようのない、世界が終わるとしても比べることのできない感情。混乱はあるひとつの事実へと終息へ向かう。      
松陽先生が。あの優しく尊い人が、死んだ。
  
空っぽになった脳みそに、鳴り響くのは。
頬を伝う悲しみと、漠然とした喪失。