二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【オリキャラ募集】KAMISAMA!【銀魂】 ( No.48 )
- 日時: 2012/04/01 21:26
- 名前: 夏雲あざみ ◆iYEpEVPG4g (ID: Y8mt6fGX)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?mode
11 あなたがこんなにも小さいことを知ったとき 【過去編】
「ゆーきの、降る夜にーはー、あーかいー緋ともーしましょ」
「鯨の油ー波打てばー、ちーいさな灯火にー朱花咲けるー」
「はるーまちどおしとふーけりてはー、今はまだゆーめ見る季節」
「揺ーれるほのおのいとしきよー、たーだきうせーること無かれー」
遠い昔の遠い唄。わたしの一番好きな歌。松陽先生が教えてくれた詩。決まって思い浮かぶ、自分と重ねた少女の姿。どうして今頃になって、別れを惜しんでしまうのだろうか。
窓の外は白銀で、迫り吹く風に白が舞っている。この辺りは乾燥しているから毎年雪もあまり降らない、と聞いていたが、この有り様を見るとあの善良そうな村人が嘘を付いたのではないか、と思えてくる。天人は決まって雨や雪を好まない。ご自慢の最新兵器とやらが水やら寒さやらに弱いからだ。戦火は、水無月や霜月、師走、そして年初めの睦月のころはぱったりと途切れてしまう。その間にこちらからも攻められれば良いのだが、生憎江戸にも大阪にも京にも宇宙に飛び出せるような技術はない。天人達は、あのお星様の煌く空の彼方へと空を飛ぶ船で帰るのだ。まるで御伽噺のような、現実味のない話。そういうわけで、この時期は人間も休戦している。そうするしか、しようがない。
それは私達も例外ではなく———、何処か故郷を思い出す、人口300人余りの小さな村の民宿「いろは」に寝泊りながら、つかの間の休みに身を投じている。「いろは」は40を過ぎた気の良いミヤコおばさんと、その一人娘の7歳になる雪路ちゃん。そして甥の健太郎君とその彼女の杏さんが手伝いに来てくれている。廃れたような外見の木造民宿だが、中は手入れも行き届いているし、部屋の畳だって虫食いひとつ見当たらない。瓶は毎日花が取り替えられている、そんな民宿なのだ。
「まだ起きていたのか。」
ふと、声が掛かる。
「あらまあ、晋助くんではないですか。ところであんたって暗いところで見ると顔真っ白で病人てか幽霊みたいね。彫り深いし。」
やたらと明るい声で言った。こわばった唇が震えている。から元気で押し通そうと思っていたのだけれど、晋助には無理そうだ。小太郎や銀時は扱い易い。辰馬は深いところやたらとざくざく刺してくるし、晋助に至ってはごまかしが通じない。モロ直球な感じなのでいつも返答に困る。今、大広間に居るのは二人だけ。空が薄明になるのはまだ先であろう。
「銀時がどうなろうが知らないが、戦線にまで異常を来して貰われると困る。」
「そのびみょーにツンデレちっくな所、わたしは好きだけどね。」
「生きる覚悟の無い奴は戦場では役立たずの塵でしかない。アイツはもう———無理だ。」
「無理、か。」
「お前も、留まりたいのならここに居ればいい。」
なんでもない、なんでもないよ。使命感に突き動かされていた心臓が酷く痛む。本当は悲しみなど枯れては居ないのに。消えることはないのに。護ろうと決意して気付き上げたそれがぼろぼろと崩れ落ちてくる。
「先生がさ、死んだって聞いて、もうわけわかんなくて、かなしくて何か大切ななにかがどこかへ行っちゃって。なんにも無いからっぽで。冷静になろうと考えはするんだけどもうただ悲しくって。わかってるんだけどわかってなくて。それが何なのか理解できてる大人になりたくて。それじゃあダメだって言い聞かせることも全然、これっぽっちも聴こえないの。からだが押し潰されるみたいに重くて、痛くて、寂しい。もうなんだか、ごめん。言えなくて、ごめん。」
止め処なく溢れる、生暖かいもの。ぼろぼろと零れ落ちる涙は視界を濁らせる。手で覆えど、透明な雫は指先からこぼれ落ちた。晋助は黙ったまま背を向けている。彼なりの優しさなのだろう。
「ありがと。聞いてくれて。なんか元気出てきた。けなしてんだか慰めてんのかよく分かんないけど。」
「うっとおしいから元気は出なくていい。」
「……よし。」
下を向いているのは、わたしには似合わない。いつだって、強く、明るく、咲き誇る一輪のヒマワリのような。そんな存在で在らなくてはならない。人に護られるのではなく、人を護れる自分に。涙は止まった。
「お前……。」
呆れ気味に晋助が言った。心なしか寒さも弱まっているような気がする。よっこいせと立ち上がってこう呟いた。
「銀時叩き起こしに行って来る。止めんじゃないわよ。」
「俺が止めようが、アンタはやるだろ。」
「それほどでも。わたしはね、よーく分かってるつもりなの。あの子の辛さも、嫌になる自分の弱さも。それ全部背負って生きてけなきゃ。」
さっきまで泣いていた女と比べると幾分も可愛げがない。元気付けに殴りこみに行くような女など聴いたことが無い。
いつもの笑みを浮かべる。さあ銀時、覚悟してなさいよ!ごきり、と指の骨が嫌な音で鳴った。
***
「はあいご機嫌麗しゅうー!死んだ魚のような目をしないでくれるかなあ銀時くん!」
民宿の2階南館の、客室。朝の挨拶にはまだ随分早い。星はきらきら光っているし、銀時の寝室の前まで廊下を通ったが薄暗くて何も見えず苦労した。身を起こしてた様子の銀時がこちらをちらりと見た。にいと笑ってみるものの表情は固く、なるほどこの状態では晋助がああ言うのも仕様がないと思った。
「突然夜にうっせえなあ頭沸いてんのかってうーん、まあ、とりあえずだな。」
金属同士がぶつかり合う、高い音。きいん、と脳裏に響く、こすれあう音。右手に持ったふたつの鋭い刃を、ベッドの上、銀時の顔面すれすれに突き立てた。ごめんよミヤコおばさん、と心の中で呟くのだが、本気だということを見せつけにゃあならんのよ。そうでもしないと、引っ叩くぐらいじゃ目ェ覚めないバカだからね。
「———真剣勝負と行きません?」
月が満ちている。刀はその刀身を今使われるこそとも言わんばかりにその刀身を煌かせている。鈍い光を確認し、手で合図をしてきびすを返し、向かい側の引き戸を開ける。この南館には、使われて居ない娯楽室、というものがある。昔はおもちゃやおやつにお茶なんかも出していたそうだが、めっきり客が減り、今は埃の積もるだだっ広いだけのフローリングの床とぼろぼろの土壁となっている。始めて見た時は、滅び行く先々に、とその後のことを考えそうになったものだが、寂しさや懐かしさや、そんなかなしいもののことを儚いと言うのだと、わたしは改めて思ったのだった。
衝撃。例えるのなら、何か人間ではない大きなものに弾き飛ばされて、まるで自分が小さな存在かのように錯覚するような。全身全霊のこちらに対し、手のひらだけでいとも簡単に押し返されてしまうかのような。心臓まで響く音と震え。刀で受け止めると、ぞくりと背筋が寒くなった。火花が燃える。ゆっくりと、やがて見える景色がスローモーションのようん遅く垣間見える。後ろへ下げられた刀の起動が白い線となって見える。寸での所でかわし、ぐるりとその身を反転させた。——まだ遅い。
「く、そッ」
途切れがちに銀時が零した。きらきらと光に反射して銀色が舞った。髪の毛だ。仕留めそこなった獲物へと再度切りかかる。無茶をした右腕にに熱い物が奔る。
空気が静止した。はあ、と息をつく。白い水蒸気が見え、また奔る閃光。研ぎ澄まされた鋭利な刃のような。こころを忘れた夜叉のような。それでいい、と思った。生半可にちいとばかし痛めつけてやろうとは残念ながら思っていない。殺すつもりで行かなきゃ勝てない。本気の本気。わかってはいたのだけれど、ようやく決心が付いたよ。
防御に回り軸がずれた刀に横から薙ぎ払うように打ち付けた。円を描いてくるりくるりと空へ飛んでいく。
「勝てるわけ、ないだろ」
どん、と腰を打ちつけた鈍い音がした。
「・・・・・・あんたが、どう思っただとか、何を感じただとか。人に話して納得するような奴じゃないし、アホだから空気の抜き方ってもんも知らない。
でもそんで仲間にどう顔向けしようと思ったわけ?男ならどーんと、何回へし折られようが何度でも立てばいいじゃないの。」
「そんなの、放っておけば良かったのに。逃げようとして、お前らなんて別にどうなってもいいって…」
「いーえまだ許しちゃいないわよ。謝んなさい皆に。心配かけたこと。あんた一人の命じゃないってこと。
わたしは覚えてる。わたしが逃げようとした時、あんたが教えてくれたことも。
松陽先生はねえ、そんなこと望んじゃいないわよ。あの人の誇りも正義も、全て水の泡にする気?」
「わたしたち置いてひとりだけ逃げてんじゃないわよ!」
「——帰ろう。みんなのところへ。」
刀を地面に刺して銀時をぎゅっと抱きしめた。辛かったね、痛かったね、ひとりで頑張ったね。皆が待ってるよ。浴衣の裾を濡らした何か。きっと気のせいね。だって泣かないって約束したでしょう。はやく帰って、その間抜けなツラ皆に見てもらいな。
「ごめん、あかね。」
「礼は晋助のヤローに言いな。全く手のかかる子だこと。」
夜は明けた。陽が、今日もまた昇る。