二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【オリキャラ募集】KAMISAMA!【銀魂】 ( No.51 )
- 日時: 2012/03/04 13:46
- 名前: 夏雲あざみ (ID: WPJCncTm)
12 世界を攫う足音
右足の指先がぴとりと床に張りついている。そのつま先から頭のてっぺんまで、研ぎ澄まされた純粋でうつくしい透明な液体が循環しているのがわかる。空気の揺れひとつ。塵や埃の舞いひとつ。視界は「何か」の臨界を越えて、スローモーションの世界へ。何か、それが何なのかは言葉では言い表せない。言うなれば自己の限界のようなもの。切り詰めて突き詰めて、おかしくなってしまいそうなそのぎりぎりの一線。死にたくなるぐらい性格でぶれがない、針に糸を通すような、ささいな動きさえ芸術に見える、抜刀。張りがある強靭な糸で吊られているよう。構えるだとか、抜くだとか、そんな行動の向こう側。電子機器の精密さを備える剣の精度は、何万回と威を振るってきたその証し。色は無く、音すらも、無い。けれどすべて鮮明としている。刃を握りしめた両腕に汗がつたった。
ひとつのものに狂うということは、それ以外のすべてを捨ててもいいという決意。時折わたしは、刀を振る自分がとても愛しい。自己陶酔に陥ってしまうのだ。人間として最低だ。幸せだと、楽しいと。闘うという事は、どうしてこんなにも美しいものなのだろうと。きっとわたしはどこかおかしいのだろう。
人を斬るのに、良心は痛まないかと聞かれれば勿論そうだ。理由が無ければ、誰も殺したくなんかない。痛くて悲しい死。けれどあんたらは殺すじゃない。そんな理不尽なことってあるものか。遠い国のお偉いさんは、無抵抗を盾に、理不尽に抗った。それでも、武器を取って闘う事の方が、少なくともこの場所に居る人々を護ることができるから。それぐらいしか、わたしにできることはないから。その上で、だ。悪寒と鳥肌がたつ。ねえ、わたし、今なんて思ったの?仲間が死んでるのに?あの子共は親を奪われてひとりになったのに?若く未来のある青年が四肢をバラバラにされていったのに?頬に飛び散った生暖かい鉄の臭いのする液体は何?あんた、人を殺したのよ?ああどうして、
人生の中で一番、愉しいだなんて。
スポーツ選手やF1レーサーには、しばしば「ゾーン」と呼ばれる現象が起こる。例えば、命の危険に逢ったとき、周りの動きがすべてスローモーションに見えるのと同じ。色や音が消え、誰が何処へ動こうとしているのか、はたまた見えないものを目でとらえる、1ミリの感覚さえ手に取るようにわかる。そんな風に、脳が必要なものだけに情報を絞る。彼らは命を懸けているといってもいい。極限の状況に陥ったとき、人を超える能力を、人が作り出す。もし、だ。その驚異的な人を越えた能力を、人為的につくりだすことができたのなら?それは人と言えるのだろうか?緊張の高まりから、生きるか死ぬかの瀬戸際のように、すべての意識をそれのみに向ける事が可能なのだろか。
みえる。白い軌道になって。
みえる。すべてが鮮明に。鼓動の響きが、空気の声が。
斬るということは美しい。型も全てにおいて何よりもすばらしい。その対象が人だったということに、特に意味は無い。そんなことがたまらなく、嫌だ。わたしの剣は、そんなことのために。そんなちっぽけな理由の為に、存在している訳じゃあないのに。剣術だけなら最高を名乗る自信がある。けれど、けれど。必ずしもそれが人を斬ることに繋がるとは限らない。
護るためなんかじゃなくて、生きる為なんかじゃなくて、殺す為なんかじゃなくて。ただ純粋に、剣術のみが支配するそんな世界で生きていきたい。でもきっと、夢と現実は違うでしょ?きっと平凡な、それこそわたしみたいな子供が、叶わない夢を語るのと同じ。できないなら、叶わないなら、だから、わたしは生きる事にした。この人たちと一緒に。自由を。媚びないへつらわない。夢ではなく、今を。守る。生きる。ようやくやっと、命を掛けられるようなものに、出合えたのだから。わたしの生きる意義は、それのみにある。
藤色。そう、藤色だ。綺麗な紫で、派手でなくしつこくなくて、それでいて華やか。内なる強さを秘めた色。そんな色の、さらさらの髪。彼女の髪は惚れ惚れするほど滑らかで指どおりも良いから、ついうっとりしてしまう。美しいものって、綺麗なものって、どうしてこんなに価値があるんだろう。
お庭番衆の彼女は、転職してから出来た初めての友人だ。最近はめっきり愛だの恋だの色ボケしているので少し心配だ。楽しいことや命の危機に晒されたとき、決まって叫ぶのは組んでいる私達ではなく、「銀さん!」。そこはかとなく聞き覚えのある名前だ。いや、知らない知らない。きっと銀皿ーだとか、銀色ーだとか、きっとそんな名前だ。うん。あかね、しーらない。
「久しぶりっちゃあ久しぶりだけど、案外濃い奴って忘れらんないからそういう感じでもないね。」
「私は濃くなんかないって言ってるじゃない。ただ恋愛に純粋なだけよ!」
「さっちゃんはバカはんぞーが似合うと思うのにぃ。」
「気色悪いこと言わないでちょうだい。私の心は銀さんだけのモノよ!しかもちゃっかりバカって何?え?私はバカがお似合いってことかしら?つまるところバカ同士つっつきあってりゃいいんじゃないのって事かしら。」
「金星人かお前は。意思の疎通ってもんを知らないのか。ダイレクトするぎるのよさっちゃんはねえ。こう、もっとしおらしく・・・乙女っぽく可愛らしーく。媚びりゃいいってもんでもないからね。そうねえ今フ○テレビで現役バリバリの一番人気結野アナみたいなのを目指したらどう?」
「ああ、わかってないわねえ!」
「わたしもサッパリわからんわ。」
と、いった風に。彼女の思考は時折よくわからない。合うのは美的センスと男の好みぐらいである。畳張りの部屋の中。屋敷の一番奥の、主人以外は入れないように、厳重な護衛と整備が張り巡らされている場所。「召集」されてから三十分間が、私達の集まるリミット。それが不可能な者は、組織には必要ない。
「しっかし、ご苦労なことだねー全く皆。あのクソジジイ、須らくどうでもいい用件で呼び出したりなんかしたらただじゃおかねえぞ。——あ。」
耳元の小太刀。思わずぞくりと背筋が震える。
「忍びたるもの、ってやつですか?生憎わたし、忍びなんて大層なモンじゃないんで。」
「この辺りで、そんな大口を叩けるのはお前ぐらいだよ。」
「お褒めに預かり光栄でーす。」
男の名前は五木。将軍直轄特殊部隊、一葉の最高責任者。つまるところ、将軍の命の確保に重点を置く、最高の技を以って世界を敵に回したとしても「将軍を護り抜く」。それのみに必要とされる部隊である。忍、武士、伝達。すべての道の頂点のみが集められる。最高の、道具。
樹木は利口だ。ずるがしこい。けれどとっても純粋で、穢れない。どこか狂っている。こちら側の人間だ。勿論、わたしも。
「朝桐。」
一葉の人間は、互いを本名で呼ぶことを許されない。コードネームこそが、一葉の証。一葉の誇り。五木もそれは例外ではないのだ。何の疑いも持たず、執行すること。それが私達の役目なのだから。
「はい。」
「お前達に召集を掛けたのは他でもない。また、だ。将軍様に害を及ぼす危険性が1パーセントでもあるものは徹底的に潰して行くのがうちの方針だからな。大多数の大まかな奴らは真選組だとかお庭番衆にくれてやってるし。真選組が幕府の犬なら、差し詰め俺達は将軍の番犬ってところだ。ま、思うに運が相当ワリぃなそいつは。ご愁傷様ってトコだ。だが今回のは大人数で動かにゃならん。相手が相手だからな。」
「————を、殺せ。」
ぴくりとも動かない、その瞳の奥で。何一つ動じないかのように、ただ佇むその体の全身全霊が。打ち震える。鼓動が叫ぶ。のた打ち回る感情が、今にも溢れ出しそうだ。こらえろ、こらえろ!、わたし!
「ひとつ。無礼なこととは承知ですが。」
「理由を教えては、くださいませんか。」
「愚問だな。俺達は何も考えなくていい。ただ与えられら指令のみを実行するだけだ。」
自責の念が、わたしを見つめている気がした。強く握り締めた手のひらに血が滲んでいた。鋭い痛みの中で、世界中全てが敵のように思えた。襖は開けられ、顔を伏せたわたしの背後を去り行く五木。まっさらな、憎むほどまっさらな畳の床に、紅い汚れが滲んだ。頭にがんがんと鳴り響く足音。いつまでも、いつまでも。鳴り響く、彼の言葉。ならわたしの応えは決まりきっている。
ふざけんじゃねえよ、誰が。例え世界を敵に回したって。今わたしが、この世界で、すべてを護って生きていこうと決めたこの未来を。
お前らに潰される権利なんて、ありゃあしない。