二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【リク開始】KAMISAMA!【銀魂】 ( No.68 )
- 日時: 2012/04/05 14:25
- 名前: 帚木ちづる ◆iYEpEVPG4g (ID: ycpBp.uF)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?mode
影空さまリクエスト/新選組女隊士/切甘/銀時/攘夷戦争参加経験者
※名前の読み方見落としてました、ごめんなさい(´・ω・`)
こんな感じで宜しかったでしょうか。女隊士の割に戦闘とかしてないですすいません。
(◆午後七時の別れ際)
真選組、お江戸と将軍を御守りする、人を「斬る」ことを正式に許された部隊である。女中や遣いの女は存在するが、基本的に隊士に女の存在は認められない。局中法度にその記述は無いから、とくに罰せられることはなかったのだけれど。統制を取る事ができないからなのだろうと今は勝手に思っている。確かにこの全体の乱雑ぶりと水場の汚さといったら女の来る場所ではない。と言うか耐えられなくて発狂しそうなものだ。当初からの経験からして、たとえ剣の腕が秀でていようと充分な能力があろうと、ただ一人の異端は誰よりも強くあらねばならない。その集団に属す資格が無いも同じなのだから、奨励援助金然り、持たざる者はそれ相応の努力をしなければいけないのだ。何故そこまでして隊士になったのかは、わたしにだって大きなメリットがあったからだと言って置く。たとえ世界がわたしを赦しても、わたしの居場所は、此処しかない。
——彼女、犬飼空は、真選組唯一の女隊士である。
屯所の真上を烏が枯れたような声を挙げて迂回して行く。くるくると螺旋を描いて、それから一羽の黒は西の方角へ飛んで行った。オレンジ色の陽に呑み込まれ、やがて烏はふわりと夢の様に消えた。縁側に座りそんな光景をひとしきり眺めて、膝を揺らして俯いた。部屋は相室でいいと近藤さんには言ったけれどそれっきりで、配慮してくれたのだろう一人部屋はただっ広く思える。
「……誰? さっきからずっと居るけど、用が無いのなら帰ってくれない。」
返事は無い。冷たく低い声が辺りに響いた。
「出てきたくないと言うのなら、こちらにも手があるけれど。」
くるりと振り返って立ち上がり、足袋が擦れ合って音を立てた。着物の裾を少し直すと、そのままゆっくりと歩きはじめる。少し間が開いてから、戸の向こうに居る銀時に話しかけた。
「全く、飽きないんですかそれ。」
「あれ?喜んでくれないの?銀さんかなしー。」
「女は待たされれば待たされるほどあとの喜びが増すと言います。ストーカーのように付けられては気持ちが悪いだけでは。」
「すみませんねそこまで頭が回らなくて。」
ふうん、相槌をしてゆっくり引き戸を開ける。いつにもまして間抜け面の男が立っていた。挨拶も無しに歩いて行けば、丁度机のあるところへ座り込んだ。開いたままの縁側は光を刺し、伸びる影とのコントラストが綺麗だ。くすりと笑みをこぼして戸を閉め、自分も向かい側に腰を下ろした。茶菓子を欲しがるだろうと踏んでいたので、ざるに飴やら餅やらたくさん積んでおいたのが幸いした。無言でそれらを頬張っている。お茶持ってきますね、と笑いかけ、水場へ歩いた。女中さんに鉄瓶の場所を聞き、お湯を沸かして葉を入れた。待つ間に客人用の湯飲みを準備して、火から上げた瓶を持って部屋へ帰った。
「そういやァさ、この前……。」
身勝手に喋りはじめた。わたしは銀時からたくさんの話を聞く。それの中には、わたしの昔の友達だとか、会ったことは無いけれど、面白くて優しい人たちがたくさん描かれている。きらきらと光っていて、カラフルな世界。わたしの世界には無かったもの。羨ましい半面、妬ましいと思うこともある。わたしが欲しくてやまない全てを持っている彼が、時折とんでもなく憎くなるのだ。どうしてわたしだけがと、ぐるぐるぐるぐる、終わりの無い、入り混じった感情だけが渦巻くのだ。ひとしきり話を終えると、押し計らったように。目を丸くした銀時を今度はわたしが押し倒した。きっと重さなら負けてしまうけれど、純粋な肉の密度ならわたしの方が高い気がする。ずっしり身体を乗せてしまうと彼はもう動けない。皮肉たっぷりに微笑むと、狐につままれたのだと理解したようで彼はいつもの下品な笑みを浮かべた。あんたにほんとは気なんて無いんですよ。当たり前でしょそんなの。言いたいことは分かっている筈だ。白銀のさらさらでふわふわな髪の毛に指を通した。
「わたしのこと愛してる?」
今度は髪の毛を思いっきりくしゃくしゃにした。それでも直ぐ戻ってしまうのが気に入らない。
「愛してる。」
「ありがとうわたしも。」
「・・・・・・笑っていい?」
「いやだわそんな、どうせなら君のためなら死ねるぐらい言ってきなさいよ。それぐらいの度胸も無いの?」
「言って欲しいか、切実に。色んなもんがゲシュタルト崩壊するわボケ。」
「本気にしないでよ。」
「してねーよ。」
「重い?」
「重い。」
馬鹿らしい。こんなデリカシーの欠片もない男をどうして好きになったのだろう。時折自分の思考を疑う。今一度赤いひとみを咎めるように見つめて膝を曲げると、彼は夕日の眩しさから顔を歪めて腕で目を覆った。仰向けに横たわる彼の傍で小さく吐息を吐いた。皆大人になった。桂も銀時も。みいんなみーんな。わたしだけがあの頃のまま、時計は動かず心もあの場所に置いて来てしまったようだ。どんなに羨ましいかあなたにはわからない。人斬りのまま生きていくことを選んだわたしの苦しみは、あなたにわかるはずも無い。その罪をあなたが清算しなくても構わないのにね。だってとんだ門違いだもの! 理解されたくないから理解することを拒否しているの。愛しいから憎いから、生きていくためにどうしようもないからそうするの。ずるくたって何だっていいから、身勝手だって何だっていいから。
「そろそろ帰らなくてもいいの?万事屋の皆が待ってるんでしょ。」
「え、ああ、そうだな。じゃあ空、俺もう帰るけど、今度はいちご牛乳置いとけよ。」
「また来てね、寂しいから。」
ぶっきらぼうな返事が返ってきた。また、だよ。遠ざかって行く彼の背中を見送った。お願いだからもう二度と来ないで! 心の一番弱くて悲しい場所が叫ぶ。本当はわかっているんでしょう。彼があなたをあの場所に留めているの。彼があなたの時間を止めているのよ。もうたくさんもう嫌よ。わたしの生きる意志を邪魔しないで。
それができないというのならいっそこのままわたしを引っさらってくれればどんなにいいだろう。そうしたら、何も考えず、あなたのことだけを愛して生きていけるのに。