二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ボカロ [悪ノ娘]現在進行中! 【短編集】 ( No.71 )
- 日時: 2012/03/26 21:44
- 名前: 麻香 (ID: 5fqeGTW2)
シルヴィアナが帰ってきたのは、それから数日後のことだった。
いつの間にか帰ってきて、何事もなかったかのように居間で食事をしていたのだ。
その笑顔からはなにも読み取れない。
ミリアの葬儀を終えてきたセレシュとフィーラは、それでも、なにがあったのかどこへ行ってきたのかシルヴィアナに聞く勇気はなかった。
シルヴィアナがあまりにも日常的で、かえってなにも聞いてはいけないように感じたからだ。
「あの‥‥‥シルヴィアナさん」
セレシュがシルヴィアナに声をかけたのは、それからさらに数日後。
シルヴィアナは快く本を読む手を止め、顔を上げた。
その瞳は、大きな鞄を持っているセレシュを面白がっているように輝いている。
「なあに?」
「えっと‥‥使用人辞めても良いですか」
シルヴィアナは表情を動かさない。
それはなんとなく予想していたので、なぜか安心する。
「どうして?」
「‥‥‥旅に出たいんです。ミリアの代わりに、色んな世界を見たくて‥‥‥その‥‥‥」
「ふーん‥‥‥」
シルヴィアナはセレシュの嘘に気づいただろうか。
そう。セレシュは旅に出たいわけではない。
ここにいるのが辛いのだ。
屋敷の扉。居間。見るたびに、あの赤い血を思い出す。
「いいわよ。今から?」
「え、あ、はい」
思ったよりも簡単にシルヴィアナが納得したので、セレシュの方が逆に驚いてしまった。
そんなセレシュに気づく素振りも見せず、シルヴィアナは屋敷の門までセレシュを送ってくれた。
「あの‥‥‥楽しかったです。さようなら」
適当に礼を言って立ちさろうとしたセレシュの肩を、シルヴィアナが掴む。
ふんわりした笑顔が間近に迫った。
「セレシュ、聞いて」
「は、はい?」
「別れのない人間関係なんてないの。どれだけその人を大切にしていても、結局は死別という形で別れは来るわ。それは神様にしか変えることはできない。でもね。“別れ”を儚く美しく飾ることは、その人自身にしかできないことなのよ」
シルヴィアナの言っていることが一瞬わからなくて、黙り込んでしまう。
別れのない人間関係はない‥‥?
だが、次にシルヴィアナが呟いた言葉には、思わず聞き返してしまった。
「美しい散り方だったわ。ミリアも、悪ノ娘も」
「え?」
悪ノ娘。それは、誰のことなのだろう。
だがそれを聞き返す前に、シルヴィアナの身体が離れる。
「じゃあね。God bless you!」
セレシュの目の前で、門がガチャリと閉まった。