二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【薄桜鬼】 死神少女と約束の桜 ( No.19 )
日時: 2012/01/21 18:48
名前: 雛苺 (ID: X9g0Xy3m)
参照: 元・悪魔ビビでございます。


 第8話

 「あの・・伊織さん」

 「伊織で結構よ千鶴ちゃん」
 にこりと人懐こく笑う伊織に千鶴の警戒心は完璧に無くなっていた。
 「じゃあ伊織ちゃんで・・。伊織ちゃん、傷の方は大丈夫?」
 「えぇ。全然平気。昴はちょっと過保護で心配性なの」

 「伊織は自分に無頓着すぎるよ」

 いつの間にか背後にいた昴に千鶴は驚いたが、伊織はいつもの事で慣れていた。
 「随分と遅かったのね、昴」
 「えぇ、ちょっと土方さんにお願いを・・」
 「お願いですか?」
 「はい。あ、雪村さんもぜひ僕の事は気軽に昴とお呼びください」
 穏やかに笑う昴につられて千鶴も微笑む。
 「はい。どうぞ私の事も千鶴と呼んで下さい、昴さん」
 「ありがとうございます。千鶴さん」
 手渡された救護用具を受け取りながら昴はにこりと笑った。

 (なんて穏やかな人たちなんだろう)

 千鶴は穏やかな空気に包まれながらそんな事を思っていた。伊織たちの本当の気持ちなど予想もせずに。


 「素直ないい子だね。千鶴ちゃんは」
 「そんな事思ってもねぇくせに」
 まあねと伊織は小さく笑う。所は伊織たちの部屋。昴が伊織の顔から包帯を丁寧に外し、膿を生まぬように丁寧に消毒していた。
 「ッ・・・もうちょっと優しくしてよ」
 「充分丁寧だろ。ちっとは我慢しろ・・・」
 「?昴どうかした?」
 伊織の左目に貫くように出来た傷を見て昴は黙る。そんな昴を伊織は不思議そうに見上げた。

 「あの野郎・・俺の妹にこんな傷おわせやがって」

 「昴・・別に平気だって!こんな怪我----------あろうがなかろうが関係ないよ」

 意志の強い瞳で伊織は言い切った。そんな妹を見て昴は苦笑する。昔から伊織はそうだった。あの”約束”を守るためたくさんの事を犠牲にしてきたのだ。先ほど千鶴が居る前でも言った「自分に無頓着」という事にもそれは現れている。
 「んじゃ、ちょっくらこれ返してくるわ」
 「ん。ありがと」
 救護用具を持ち立ち上がった昴に伊織は小さく微笑んだ。障子を小さく開けた昴はあ、と思い出したように立ち止まり伊織を振り返った。

 「包帯、薬乾くまですんじゃねぇぞ!」

 「はいはい」
 ビシッと指を差して言う昴に苦笑しながら返事をする。昴が部屋から姿を消して数分後。静かに障子が開いた。
 「おかえり、すば・・・」
 昴と言いかけて伊織は固まった。

 「ひ、土方さん!?」

 障子を開いて部屋に入って来たのは不機嫌そうな顔をした土方だった。