二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Legend 『物語』ターン ( No.53 )
- 日時: 2012/05/07 20:25
- 名前: 舞雪 (ID: y8CEVwdx)
(9)少女は世界を捨てた
「落としましたよ?」
風のように捉えどころのない動きで現れた女の子は後ろで手を組んだまま、にこっと微笑む。
あからさまに驚いた様子の円堂はぎくしゃくとした仕草で女の子の足元のペンと書類を———いや、心持どちらかといえば書類のほうを指差した。
「ああ、ごめんごめん・・・それ、取ってくれないか?」
「いいですよ。」
再び淡い水色の大きな目を細める沙耶。
そよ風が王宮の制服のスカートを揺らしてゆく。
美しい庭を背景にして、その光景は一枚の絵のようだった。
数秒後の変貌を予想だにさせない程に。
腰を屈め書類を手に掴むときも、少女は左手しか使わなかった。
慣れない御箸を持たないほうの手にある書類の下半分に弄るような視線を絡める少女の口元が、歪んだ。
———いったい誰が想像できただろう?
「・・・聖なる森、ですかぁ。なんでもっと早く教えてくれなかったんです?」
立ち眩みにふらふらとしながらも、少女は震える言葉を放った。
滴る雫など気にしないで。
否、なんで雨も降っていない今、雫が頬を伝うのかを知らなかったからかもしれないが。
使い慣れない左手は字ばかりの書類を芝生の上に落とした。その上に水が零れた。
沙耶は苦笑する。
“もっと早く知っていたとして・・・君に何かできたことはあったの?”
さっきまで途絶えていた小鳥の囀りが彼女の耳に心地よく響いた。
「・・・そんなことはもうどうでもいいや———わたしは此処で貴方を殺す、それで御仕舞い。」
瞳に後悔の色を湛えて、青年は椅子から立ち上がり少女の元へと歩み寄る。
「おまえは誰だ?」
「わたしですか? そうですね、別に———、」
少女は右手のモノを円堂に向けて構えた。
「名前なんぞに意味は無いと思うんですけどっ!?」
おまえはプログラミングされた人形だ———どこからか、昔、一緒に暮らしていた老人の話が甦る。
「ぷ、ろぐらみんぐ?」
「・・・ああ。抜け出そうにも抜け出せんのだよ。」
可哀想に、とお爺さんは皺くちゃの手で幼い少女のあたまを撫でた。
だが、その表情は、『自分の娘が選ばれた』という事実に対して誇りを感じているようでもあった。
鋭利なナイフを突き出そうとした刹那———円堂はふっと何時も通りの笑顔で言った。
「おまえが誰であろうと、おまえに俺を殺すことはできない。違うか?」
沙耶の顔が曇る。
「ま、俺はおまえに殺られる程にやわじゃあないんだよなっ!!」
彩やかな太陽の下。
青年こと円堂守は、そう言い残すと姿を消した。
「ふーん、瞬間移動ですかぁー・・・。」
ナイフを人目に触れない花壇のなかに投げ捨てる。
「王宮から追放されたくせに魔法をつかうとか、粋じゃないですねえ。
また捕まりたいんなら・・・勝手に捕まっとけばいいんですけど。」