二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【REBORN!】白銀の風、黒の舞姫【標的4.5更新】 ( No.122 )
- 日時: 2012/11/01 21:16
- 名前: 月那 ◆7/bnMvF7u2 (ID: IsQerC0t)
「Cosi sei gentile—こんなにもキミは、優しかった—」
それは私が、まだ小さかった頃の話————。
10年前————、日本。
私は母の故郷でもある日本に来ていた。
「あーあ、つまんないなー」
私はすぐ傍の河原の土手に寝ころぶ。せっかく日本に来たっていうのに、父さまと母さまは仕事でいなかった。
「まあ、そう言うなって」
聞き慣れたアルトトーンの声。声のした方を見るとそこには兄さんがいた。兄さんは私と同じ格好になるように寝ころぶ。
「父さんも母さんも忙しいんだ、って。それに、すぐ戻るって言ったじゃないか」
「そりゃーそうだけど・・・」
でも最近、仕事が忙しくなったのか、全然会いに来てくれない。私は少し、孤独感を感じていた。でも、いつも兄さんが傍にいてくれる。だからさびしくなんかはない。ふと、隣を見ると、
「んー。いー天気だなー」
伸びをしたかと思うと、今度は欠伸をし、兄さんは目を閉じた。
「ダメだよー! 外で寝たら風邪ひくって、母さまが言ってたじゃん」
私は兄さんの体を揺らす。しかし、兄さんはのんびりとした口調で、
「だいじょーぶだって。今日は日が当たって暖かいじゃないか」
そう言った後、寝息を立てて眠ってしまった。
「兄さん、兄さんってば! もう・・・」
兄さんの体を一所懸命揺らすが、起きる気配はない。諦めて私は上を見ていた。今気付いたが、確かに空はよく晴れていて、10月の肌寒い時期にしては暖かい気候だった。
「ふ、わあぁぁぁーー」
思わず欠伸をする。すると、瞼が重くなり一瞬で私は眠りについてしまった。
目を開ける。どれくらい経ったんだろうか。日が暮れ始めていて、空は先ほどまでの青空とは違い、夕焼け色に染まっている。
「ねぇ、兄さん。今何時かな・・・」
隣を見る。すると、さっきまでの寝ころんでいる姿はなく、ただそこに最初から何も無かったかのように芝生が広がっているだけだった。
「に、兄さんッ。どこ!?」
私は突然恐怖に襲われる。ひとりはイヤだ。ひとりにしないで。こわい、こわい。孤独感に襲われ、涙が出て来そうになった。すると、
「ほいっ」
目の前に現れたのは、銀色の物体。いや、銀紙に包まれたチョコ板だった。
後ろを振り返ると、兄さんがチョコを持って私を見下ろしていた。
「もう、どこいってたの!?」
私が怒り口調で言うと、兄さんは、
「いやー、そろそろ鈴がチョコを欲しがるかなー、と思って。ちょっと近くのお店で買ってきたんだよ」
私は言葉が出ずに、口をパクパクと動かすだけだった。
突然いなくなったと思ったら、私のためにチョコを買ってきていた!?
クスリと笑う。私の様子に兄さんは「な、なんだよ!」と照れくさそうに言った。
まったく、なんてこの人はお人よしなんだろう。
まあ、そこがいいんだけど。
「では、ありがたく・・・」
私は兄さんからチョコを取ろうとしたが、ひょいっと上に上げて、それをさせなかった。
「あの言葉を言わないとやらないぞー」
・・・あの言葉ってなんだろう?
「・・・ありがとうございました?」
「それは当たり前」
「えぇー。分かんないよー!」
口をとがらせる私。その反応を見た兄さんは、私にヒントを出した。
「じゃあ、”今日“は何の日だっけ?」
「今日? 今日は10月31日だから・・・・・・、あっ!」
10月31日。それはハロウィンの日。だから・・・。
私は”あの言葉“を元気よく言った。
「『dolcetto o scherzetto 』!!」
【dolcetto o scherzetto (ドルチェット・オ・スケルツェット)】、つまりは英語で言う「Trick or Treat(トリック・オア・トリート)」のことだ。
すると、兄さんは微笑んで、
「はい、どうぞ」
私にチョコを渡す。私はそれを受けとり、素早くかつ丁寧に銀紙をはがすと、現れた焦げ茶色のチョコ板に噛みつく。
————パキッ。チョコの割れる音。いつ聞いてもいい音だと思う。私は口の中に広がる甘さを楽しんでいた。
クスッ。よほど私は幸せな顔をしていたのだろうか。兄さんは私の顔を見ながら満足そうに微笑んでいる
「おいしいか?」
兄さんの問いに私は「うん!」と元気よく言う。すると、
「よかった。やっと鈴の喜ぶ顔が見られた」
そう、まるで小動物のような愛らしい笑顔で言う。私を喜ばせるために買いに行ったりして・・・。まったく、兄さんはお人好しなんだから。
兄さんの優しさを感じながら食べるチョコレートは、いつもと同じ味のはずなのに、今日のは今まで食べた中で一番おいしく感じられたんだ。
黄昏色に染まる空の下。私たちはふたり、手を繋ぎながら歌を歌う。
「「夕やけこやけで 日が暮れて
山のお寺の 鐘がなる
お手々つないで みなかえろ
からすといっしょに かえりましょ 」」
淡いオレンジ色の光に包まれながら、歩いていく私たち。まるで夕焼けの中に吸い込まれて消えていきそうだった。
〆 11月1日