二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

さくらのくちづけ ( No.3 )
日時: 2012/04/24 19:12
名前:  めーこ ◆RP5U9RTa.. (ID: RmDYGEG2)



 もう、大丈夫。

 彼女はそう言ってふんわりと微笑んだ。愛らしい笑顔に、安心していく自分が居るのが分かって、溜息ひとつ。
 ゆっくりと彼女の頭に掌を乗せ——そうするのが精一杯で——綺麗な黒髪を撫でてやる。彼女は少しだけ嬉しそうに、少しだけ悲しそうに、複雑そうな表情をして目を伏せた。
 アメジストみたいに透き通る紫の瞳が、憂いを帯びて、ゆっくりと私を捉える。
 仕草の一つ一つにドキン、と胸が高鳴り、それを悟られないように、気付かれないように彼女を引き寄せて抱き締めた。
 細い腕、細い脚、細い体。

「もう、大丈夫だよ。ねえ、涼野」

 嗚呼、折れてしまいそうな彼女の体は。

「あいしてる、涼野」

 私なんかより強くたくましく、全てを背負いきる覚悟が見え隠れしていた。
 紫水晶の瞳が、私を捉えて離さない。

「……待ってるよ、待ってる。だからどうか戻ってきてくれ」
「、待っててね待っててね、私は涼野を置いていかない」

 彼女の表情が、翳る。
 抱き締めて、強く強く抱き締めて。苦しいと言わない彼女を、ただただ抱き締めて、離さない、離したくない、離すものか。
 ふわりと彼女は笑って、私の背中に腕を回した。

「怖い?」
「……嗚呼、怖いさ。愛しい人が居なくなるなんて、怖いに決まってるだろう?」
「ふふ、それもそうだね」

 彼女を抱き締めたまま、そっと上を向かせる。潤んだ瞳と、視線がかち合ってまたどきりと胸が高鳴った。

「あいしてる、」
「私も、あいしてるよ、涼野」




さくらのくちづけ
 叶わない願いと共に散る桜の木の下でそっとキスを交わした。





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