二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【フリーダム】ボカロ曲短篇集【解釈】 ( No.4 )
- 日時: 2012/03/08 21:19
- 名前: 悠 ◆D0A7OQqR9g (ID: w0.JbTZT)
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カゲロウデイズ 2
「だから夏は嫌いなんだ」
「ッ……!?」
目を勢いよく開ける。息は乱れていて、額には汗が滲んでいる。
俺は携帯を開けてデジタル時計は食い入るように見つめた。
8月14日、午前12時04分。外はまだ暗い。今さっきのは夢なのだろうか。頬を汗が伝う。
やけに煩い蝉の音と、彼女と鉄の臭いを生々しく覚えていた。まるで、夢ではないのだというように。
「はあ、はあッ……」
息があがる。どうしようもなく悲しくなって、もう一回寝ようと布団へ潜る。
馬鹿みたいだ。夢は所詮夢でしかないというのに。
ほんとう、馬鹿げている。彼女は死んでいない。否、死なない。
それでも不安になる心を押し込めて、目を強く瞑った。
***
「どうしたの?今日は遅かったね」
「え?う、うん。寝過ごしちゃって」
嘘だ。一睡もしていない。けれどそんな事いえずに、食い入るように彼女を見つめた。
息をしている。当たり前だろうが、どうしても気になった。
その膝の上には黒い猫の姿。どくんと心臓が跳ねる。
「あ、」
黒猫が、彼女の膝から飛び降りた。
彼女が追いかけようとする。
あ、れ……?これって夢と同じじゃないか……?
同じ公園で昨日見た夢を思い出した。俺は不安になって、彼女の手を掴んだ。
「もう今日は帰ろうか」
「え?でも、猫……」
「いいから。帰ろう?」
「……そうだね、暑いし。」
縋るようにいえば、彼女は笑って俺の手を握り返した。
これで、もう大丈夫だ。不安が消えていく。
けれど、また何か来るかもしれない。そう思って注意しながら青に変わった信号機を見据えながら横断歩道を渡る。
よし、渡りきった。これでもう大丈夫だ。
ほっと息をついて周りを見れば、町の人たちは皆上を見上げ、口を開けていた。
ざわざわと騒ぎたて、空を指差している。なんだろうか。
すると、彼女がゆるゆると手を解いて、俺の前を走る。
「ちょ、え、待って」
その途端、コンクリートに影がつくられる。
え、と思って上を見上げれば、鉄柱。ビルの工事の最中に落ちてきたのであろう、太くて長い鉄柱。
それは、彼女の身体を貫いて突き刺さる。
紅い血が雨のように降り注ぐ。これは、誰の血?——紛れも無く彼女の血だ。
思わず目を疑う。劈く悲鳴と何処からか聞こえてきた風鈴の音が空へ響き渡る。
血がどくどくと目の前であふれ出す。
吐き気と嗚咽がこみあげてきて、手で口を押さえた。
「夢じゃないぞ」
あの夢の中で感じた気配がした。
背後を振り向けばニイと笑ってワザとらしく「夢じゃない」と、もう一度ゆっくりと言って見せた。
夢じゃ、ない?じゃあ何で彼女は血を流して倒れている?
「嘘だァアアァアアァ!!」
世界が、眩む。
ただ泣き叫ぶことしかできなくて、情けない。
眩む視界の片隅に、笑う彼女の横顔を見た。
——ような気がした。
(また彼女は死んでゆく)
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