二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- その6(1) ( No.18 )
- 日時: 2012/08/19 22:44
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
☆
目を開くと、紫がかった深い色の空が見えた。
ぼーっとしたまま上半身を起こして、座ったまま考え込むこと数十秒。
さっきまでの事を思い出して…。
「…っわああ!!!」
うん。ばっちり目が覚めた…。
あたしは急いであたりを見回す。
一方には赤茶色の荒野、一方には黒々とした森が見える。あたしが居るのは、森と荒野の境目みたい。
ギュービッドと桃花ちゃんはどうなったんだろう。飛ばされてきたのはあたしだけかな…。
それにメグ、よくわからないけど一体どうして、呪文なんか。まさか、大形くんみたいに、誰かに無理やり黒魔女にされちゃった…とか?
とりあえず、あたしはどうすればいいかな。多分、魔界のどこかに居るんだと思うんだけど。
「………。」
もう一度辺りをきょろきょろ見回す。ほんとに何にも無い。森は真っ暗だし、荒野は、岩がまばらにあるだけ。
森に入っても荒野を歩いても、多分迷子になるよね。
「こういう時は…」
あたしは、木の枝を拾って、地面に垂直に立て、指で支える。
「ルキウゲ・ルキウゲ・アドラメレク!どーちらにしようかな!」
運気上昇魔法。こういう時に効果があるのか分からないけど、的確な方向を示してくれる確率は上がる…と思う。多分。
言い終わると同時に、あたしは枝から指を離した。
支えを失った枝が倒れた方向は、右。
そうそう、それでいいよね。森に進んでも荒野に進んでも迷子になるなら、境目をずっと歩いていこう。
「頑張れ千代子!!立ち止まってても何も解決しないぞ!!」
大声で不安な気持ちを誤魔化し、あたしはずーっと続く赤茶と黒の境い目に沿って歩き出した。
★
森川が言ってた跡地は、すぐに見つかった。
地面と周りの木々に、ちょっと黒いコゲが残ってる。
まあ、それはいいんだけど…。
「なんだこりゃ…」
店の跡地の隣に、シンプルなログハウスが建っていた。
森川がここに行けって言ってた理由は、これか?
あたしは、ログハウスの扉をノックする。
「はいはぁーい」
中から間伸びした声が聞こえてきて、扉が開いた。
長い睫毛、ピンクのチーク、ぐるんぐるんに巻いた金髪が扉のスキマから顔を出す。
「桜田か。お前らちゃんとこっち来れたんだな」
「ギュービッド!無事だったのねぇ!!良かった、心配したのよぉ〜」
大きなピンクの目がぴかぴかしてる。
「悪い、何か妙な事になっちまった」
「とりあえず、合流できて一安心よぉ。さ、入って」
桜田にコートの袖を引っ張られて、あたしはログハウスの中に入る。
「うわ、すげーなこりゃ」
ログハウスの中は、壁に沿って木箱とか袋とかがごちゃごちゃ積み上げられてる。なんか、ちょっと衝撃を与えただけで崩れ落ちそう…。
部屋の中央には、小さなテーブルと、チェアがいくつか。淡い水色のテーブルクロスがかけられている。
…何だここ?
「森川がね、“モリカワ”の売り上げがなかなか好調だからぁ、在庫を置いておける倉庫を建てたらしいのよぉ」
部屋を見回すあたしに、桜田が説明してくれる。
じゃあこの積み上がってるやつは全部商品か?すげえ。
「倉庫だけど、一応生活はできるようになってるのよぉ。奥の部屋にベッドもあるしねぇ」
ふーん。じゃあ森川のやつ、今日までここに居たのかな。
「なにそれぇ。森川はずっと“モリカワ”に居たわぁ。在庫整理は、時々、暗御留燃亜がやってたみたいよぉ?」
……は?
「ちょっと待て、どうなってんだ」
「何が?」
あたしは、桜田に今までの事を話した。森川に会ったこと、森川に言われたこと。
「うそぉ、森川は行き先不明の誰かを捜しに行ったわよぉ。偶然会ったっていうなら、嘘つく必要は無いし。ちょっとホントに妙なことになってきちゃったわねぇ」
行き先不明?誰だそれ。
「消えたギュービッド達を捜しに行ったのよぉ。2人分は見つけたんだけど、後の1人は手掛かり無いのよねぇ。ギュービッドがその行き先不明さんだったら、手っ取り早いんだけどぉ。とりあえず、黒雷に電話して訊いてみれば?」
あ。なるほど。バタバタしててケータイの存在をすっかり忘れてた。
あたしは魔界ケータイを取り出して、黒雷のケータイにかける。
呼び出し音が止まって、繋がったと思ったら、
『おいこらギュービッド!ケータイあるならそっちからかけろよ!繋がんねーから何かヤバい事になってんのかと思ったじゃねーか!!』
いきなり怒鳴られた。
「あはは…わり、忘れてた」
『ったく…で、お前は無事なんだな?何処に落っこちた?』
「モリカワ倉庫がある森の中」
『あたしが追ってんのはお前って事か…。で、今何処だよ』
「モリカワ倉庫」
『お前な…』
いやほんと、なんか、ごめん。
『まぁ、無事に着いたんなら、いいや。あたしもそっちに戻る』
そう言って、いきなりプツンと電話は切れる。
切るなら切るって言えよ…。まあ別にいいんだけど。
ケータイをコートのポケットにしまうと、桜田がマグカップを手渡してきた。
「お、サンキュ」
「ミルクティーよぉ。…黒雷は何て?」
「こっち戻って来るって。行き先不明者はどうやらあたしじゃないらしい」
「そっかぁ。…心配ね。あとの2人…」
桜田の言葉に頷いて、あたしはマグカップの中身を一口。
…とりあえず、黒雷が戻って来たら、あたしも捜しに出かけるか。