二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

その8 ( No.25 )
日時: 2014/06/06 10:56
名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: nrbjfzgl)



「人間界の食文化だって国によって違うでしょ。長い年月をかけて、どうすれば一番都合良く食べられるかって工夫されて、みんなが食べてるモノが食文化となるわけ」
キョーカちゃんはそう言ってケラケラ笑う。キョーカちゃんの周りに灯った黄緑色の火の玉も一緒にゆらゆら。
辺りは暗くなって、殆ど夜って感じ。魔界も、冬は日が落ちるのが早いんだね。あまりにも暗いから、キョーカちゃんが魔法で明かりをつけてくれたわけ。
で、なんでキョーカちゃんが食文化の事を語り出したかというと、あたしが、トカゲとかヘビってぶっちゃけどんな味するの?とか言っちゃったからです。
そしてあたしは、キョーカちゃんの歩く速さと言葉の難しさについていくのに精一杯。いや、後者の方は、既に置いて行かれてる…。
「だから、何が言いたいかっていうと、トカゲとかヘビとか、現代日本人が嫌うぬめりものってやつも、慣れちゃえば美味しい、って事なのよお!」
あ、はいはい。言いたい事は分かった。
でも、それはキョーカちゃんが魔界の人だからでしょ。やっぱりあたしには、理解できません…。
「ちがーう!違うの!確かに生は抵抗あるかもしれないけど、料理されてればそんなこと無いよ!ピーマンが生だと美味しくないけど、料理したら美味しいのとおんなじ!うちに来たら、美味しい魔界料理、食べさせてあげる」
キョーカちゃんはずんずん歩きながら、またケラケラ笑う。
あたしは、料理されたピーマンも、あんまり美味しいとは思いませんけど…。
…ってあれ?うちに来たらって、あたし、キョーカちゃんちに行く事になってるの?
「あれ?言ってなかったっけ?」
キョーカちゃんは立ち止まって首を傾げる。いや、聞いてないよ…?
「そっか。そういえば、ワタシ、キミの事知らないフリしてたんだっけ」
…ん?
「キミは、ワタシの妹になるんだよ、黒鳥千代子」
キョーカちゃんはそう言うと、笑顔で振り返りながら、掴んでいたあたしの手首を更にぎゅっと握った。
………はい?
ちょっと待って、そういう、難しい例えは、理解に時間がかかるの。もう少し、簡単にお願いします…。
キョーカちゃんは軽く頭を左右に降った。一緒に揺れた黄緑色の長い髪から、ふわりと甘い香りがする。
「例えじゃないよ。そのまんまだよ。キミは、ワタシの、妹になるの」
………どういうこと?
「んふ、あのね、ワタシのお父様、魔界を支配したいんだって」
笑顔で、さも当然、みたいにキョーカちゃんは言う。
……………いきなりとんでもないことを明かされたんですけど。
「あのね!詳しく説明するとー…」
以下、ちょっと長めのキョーカちゃんの話をまとめると。

・キョーカちゃんのお父さんは、魔法生物の研究者で、その力を使って魔界を支配しようと考えた。
・魔界の4つの国を攻め落とすには、沢山の部下が必要。
・そこで、魔法がかかりやすい人間界の子供にコントロール魔法をかけて、魔界に連れてこようと思った。
・第一小五年一組もそのターゲット。
・魔界と人間界の移動が出来なくなっていたのは、沢山の子供を運ぶ為に無理矢理空間を歪めたため。
・とりあえず第一段階として、火の国を支配する計画が進行中。

「…なんか、聞き捨てならない事が混ざってるというか、全体的に聞き捨てならないんですけど」
「まあまあ、人間界の事なんて、どうでもいいじゃん。チョコは、ワタシの妹になるんだし」
いや、だから、それも意味わかんないって!
キョーカちゃんは作ったような困り顔を浮かべて、んー、と唸った。
「しょうがないなあ、じゃあ、特別に教えてあげる。あのね、さっきも言ったけど、チョコが住んでる町の子供達を魔界に連れて来る為に、全員一気にコントロール魔法をかけたの。でもね、大人数に一気にかけるから、1人ひとりの支配力は当然薄くなるわけ」
…は、はあ。
「で、ワタシが漏れた子供を探して、コントロール魔法をかけ直して行ったら、なんと、影響が全く無い子供が2人もいたの。そのうちの1人がチョコね」
…まあ、あたしは一応、黒魔女さんですから、弱い魔法なら、かかりにくいかもね。
ということは、もう1人は、大形くん?
「名前は知らないけど、男の子だったよ。でもほら、やっぱりワタシは妹が欲しいからさ。仲良くなって、コントロールせずにこっち側に来てくれるようにしようと思って」
…つまり?
「ワタシの妹になって、一緒に魔界のお姫様やろう!!」
キョーカちゃん、あたしの手を両手でがしっ。
真っ青な瞳を輝かせて、あたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。
あたしはもちろん、はいそうですか、なんて言えないわけで。
「いやいやいや、そんな事、許される訳ないじゃん。魔界警察とか、4国の王様達が黙ってないよ」
「大丈夫!お父様が黙らせるわ!お父様は誰にも負けないんだから!」
キョーカちゃんは自信たっぷりに言い切る。
うーん、そうじゃなくてさ。
「なんで、なんでよぉ!きっと楽しいよ!」
キョーカちゃんはぶんぶん首を振って、更に詰め寄ってくる。
あたしは逆に後退りながら、苦笑いをするしかない。
なんというか、キョーカちゃんが言ってる事は物凄い事なんだけど、あまりにもあっさり言われたせいで、イマイチ信じられないというか、現実味がないというか。
キョーカちゃんの目からは、大形くんの時のような、危険な意思は感じられない。
もしかして、お父さんに協力しろとか言われただけで、どういう事なのかわかってない?
…いやいやまさかね。キョーカちゃんが、あたしの何倍も頭がいいって事は、いままでの会話で十分わかってるし。
あたしが返事に困っていると、キョーカちゃんはいきなり、あたしから一歩後退ると、ポケットから何か取り出した。
「じゃあ、これあげる!」
取り出したそれをあたしに差し出す。これは…お花?小さくて白い花が、幾つか固まって、ひとつの花のようになっている。
「これ、ジンチョウゲっていうの。いい香りでしょ」
確かに。ほんのり、キョーカちゃんの髪と同じ、いい香りがする。
「それ、持ってて。チョコが、こっちに来たいって思う頃に、また会いにくるから!」
え、それどういうこと…。
あたしが聞き返そうとすると、キョーカちゃんはぴょんと後ろに跳んであたしから離れて、ポケットから今度は小さな棒を取り出した。
キョーカちゃんがそれを軽く振ると、棒はびょんと長くなった。どうやら携帯箒みたい。
「じゃね、チョコ!また今度!」
ちょっと待ってよ!街まで一緒に行くんじゃなかったの?
キョーカちゃんは応えずに、箒に乗って一瞬で空高く舞い上がると、あっという間に見えなくなった。
取り残されたあたしは、唖然、呆然。
「………何これ…」
なんとかそれだけ呟いて、深呼吸をした。
冷たい夜の空気が、混乱しかけていた脳みそを少し落ち着かせてくれる。
あたしは、キョーカちゃんに貰ったジンチョウゲをじっと見つめた。
…キョーカちゃんは、何を考えてるんだろう?