二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

その9 ( No.26 )
日時: 2012/12/23 10:57
名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)




しばらくジンチョウゲを見つめていると、微かに、何か音が聴こえた気がした。
…いや、これは音というより、声?花が喋る訳ないし、じゃあ、森の中から…?
音に耳を澄ます。森からでもないみたい…。
ぐるりと周囲を見回すと、紫色の空に、小さな黒い点を見つけた。
ありゃ?キョーカちゃんが戻ってきたのかな?でも、キョーカちゃんが飛んで行ったのとは逆方向。
あたしが目を凝らしている間にも、黒い点はどんどん近付いてきて、形が判るようになってきた。
…ん?……あれは…。
「チョコーーー!このっ、へちゃむくれーーー!!」
聞き慣れた、女の子にしてはちょっと低めの声が、あたしの耳に響いた。
やっぱり。
「ギュービッドさま!」
あたしは応えて、手に持ったジンチョウゲを、とりあえずポケットに突っ込んで、空に向かってぶんぶん手を振った。
飛んできたギュービッドは、少し離れた所にばっ、と着地した。
あたしはそこに駆け寄る。
「ギュービッドさまー!」
「う、ゎ」
あたしは駆け寄る勢いのまま、ギュービッドに突撃して、ぎゅっとくっ付いた。ああ、なんか凄く安心する。
「ギヒヒヒヒ!なんだ、迷子になって怖かったのか?チョコ」
「むっ、そんなことないもんね!」
ニヤニヤ笑っているギュービッドからぱっと離れる。
なんか、言われると認めたくないんだよね。実際凄く不安だったんだけど。
「どうだかな、ギヒヒヒヒ。ま、怪我もなさそうで良かったぜ。なんも無かったんだろ?」
えーと、確かに怪我はしてないんだけど何も無かったかと言われるとそうでもなくて…。
あたしは、キョーカと名乗る女の子に出会ったことと、キョーカちゃんに言われたことを、思い出せる限りギュービッドに説明した。
お父さんがとりあえず火の国を支配しようとしてるらしい、まで話し終わったところで、ギュービッドは苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、大形かよ、と呟いた。
「ひょっとしてその親父って大形じゃねえよな」
大形君は一応小学生です。
「いや、変身魔法とかでキョーカとかいうやつの親父に化けてさ。本物の親父は豚とかにされてんじゃねーの」
あー…。
考えたくないけど、それなら、ありそうかも…。
「死霊が増えてんのもその計画のせいだろうな。何させてんのか知らねーが、魔界警察とか、ちゃんと対策とれるところに伝えとかないと…」
そこまで言って、ギュービッドは急に黙り込む。
ぐるりと周りを見回して、あたしの肩を掴んだ。
どうしたの?ギュービッドさま?
「ちょっと静かにしろ、チョコ……何か来るな」
え?何?何かって何?
あたしも慌てて周りを見回したけど、変なものは何も見えない。
「……こりゃ逃げらんなそうだなー」
ギュービッドがぼそっと呟いた。
だから、何の話?
首を傾げたあたしの肩を、ギュービッドはぽんと叩いて、ポケットからポケットから何か取り出し、
「チョコ、これ持ってそこの茂みに隠れてろ。魔酔うっつっても深く入らなけりゃ酔わないから」
そう言って、銀のコンパスをあたしに持たせた。
え、なんで?ていうか来るって何?
説明してよギュービッドさま!
「うるさいな、いいから早くしろよ」
ギュービッドはあたしの背中をぐいぐい押して、森の茂みの中に放り込んだ。
ちょっと、葉っぱがちくちくしてくすぐったいんですけど。
「出て来るなよー」
あたしの抗議の声にも応えずギュービッドはそう言って、また荒野の方へ出て行った。
一体何が起こるんだろう?
茂みの隙間から覗こうとしても、暗くて何も見えない。
目を凝らしても…真っ暗だ。
ちょっとだけ頭を出しちゃおうか、と思ったそのとき、視界の端にちらりと黄緑色の光が見えた。
ん?何だろう?
あたしが茂みの中で目を凝らしていると、だんだん光は増えてきて、葉っぱの影越しにギュービッドの姿が見えるようになってきた。
ギュービッドは森と荒野の境目の延長線、さっきまであたしが向かっていた方向を睨んでいる。
その方向から、黄緑色の光を発する火の玉が、ふわふわ漂ってきていた。
ん?黄緑色の火の玉?これって…。
ギュービッドは傍を通り過ぎる火の玉を一瞥すると、それを片手で払った。
同時に、その手に黒い焔が灯る。
「妙な事やってんのはお前らか?こっちは迷惑してんだよ」
ギュービッドが何処へともなくそう言うと、その途端、辺りに漂う火の玉が一斉に破裂し、黄緑色に発光する死霊達が現れた。
目の穴の中に黄緑色の小さな炎が灯っている。手に持っているのは細い槍。
うわあ…なにこれ、どうなってるの?
破裂した火の玉は再び集まり、またふよふよと漂い始め、辺りは明るく照らされる。
それらに遅れて、一際大きな火の玉が漂ってきた。
それは死霊に囲まれたギュービッドから少し離れた位置で、ぼん!と破裂した。
煙の中から、黄緑色にほんのり発光する、ごっつい骸骨が現れた。火の玉が大きかったから、大きいかと思ったけど、大きさは周りの死霊たちと同じ。
かわりに、角のついた重そうな鎧を身に纏い、ちょっと長めの槍を持っている。
「……黒魔女。邪魔をするな。我々は探しているのだ」
低いガラガラ声。多分、鎧骸骨の声。
「別にあたしは何もしてないぜ。迷惑だって言っただけだ」
ギュービッドが応える。
「嘘をつけ。先程まで、ここに居た筈なのだ。我が主はそれを気に入っている。早く、出せ」
「何の話だ?あたしは何も知らねえよ」
「……ふん、どうだかな」
そう言って、鎧骸骨は、槍を軽く持ち上げた。
その途端、周りの死霊達が、一斉にギュービッドに襲いかかる。
えええ!?ギュービッドさま!!
危うく声が出そうになって、あたしは口を押さえる。
ギュービッドは、黒い焔をもう片方の手にも灯すと、それを襲いかかって来る死霊達に向かって振るった。
ぼっ、と音がして、黒い焔は死霊に燃え移り、あっという間に灰になった。
え!?何あれ!?
「…喧嘩売ってきたのはそっちだからな!」
ギュービッドそう言うと、さらに黒い焔を大きくして、目の前の死霊を右手で殴る。
その灰を右手を返して払うと、隣で槍を振りかぶった二体の死霊を続けて灰にした。
それが崩れ落ちると同時に、後ろから来た槍を躱して、後ろの死霊にも焔をぶつけた。
飛び交うのは死霊の悲鳴。それから、黄緑と黒の火の粉。
ギュービッドが動く度に、黄緑色の火の玉と灰が揺らめく。
あたしの心配をよそに、ギュービッドは襲いかかってくる死霊を片っ端から灰にしていく。
す、すごい…。
上級な黒魔女は、呪文を唱えなくても黒魔法を使えるらしいけど、こんなにかっこいいなんて。
あたしが唖然としている間に、黒い焔はあっという間に広がって、ほとんどの死霊を灰にしていた。
残ったのは数体の死霊と、ボスの鎧骸骨。
「…こんな雑魚ばっかりで、あたしを狩れると思うなよ!お前もかかってこいよ、一瞬で土に返してやる!!」
ギュービッドはそんなふうに言うけど、少し息が荒くなってる。
さすがに、あれだけの死霊を相手にすると疲れるんだ。
「ふん…生意気な黒魔女だな…たった1人で、我を倒せると思うのか」
鎧骸骨はそう言って、くっくっく、と低く笑った。
絶対に倒せるもん!ギュービッドさま、がんばれっ!
邪魔をしないように、心の中で応援する。
「…ああ、見つけたようだ」
「なっ」
え?
いきなり、あたしは肩をぐいっと掴まれた。
掴んでいるのは、人体模型のような筋ばった手。死霊の手だ。
うう、見つかっちゃった。
反対側の腕も、ぎゅっと強く掴まれて、ぐい、と引っ張られた。
気持ち悪いよーっ。
そのまま、あたしは茂みの中から引っ張り出された。
「チョコ!!」
ギュービッドがあたしに気づいて声をあげる。
その途端、鎧骸骨が動いた。
ごっつい見た目からは予想出来ない素早い動きで、ギュービッドとの間を詰めて、長い槍を引いた。
「…っ!」
ギュービッドが気づいて、躱そうとしたけど、間に合わなかった。
黒コートの中から、紅く染まった槍の頭が顔を出す。
「おわ…っ!?」
ギュービッドが驚きの声を上げた。
……嘘っ、そんな。
あたしは、目の前の光景が信じられない。
信じたくない!
くくくっ、と、鎧骸骨がまた笑った。
…長い槍が、ギュービッドの身体を貫いていた。
「ギュービッドさまああぁ!!!」