二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.127 )
日時: 2012/05/22 19:02
名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
参照: 「Irregular」始動!


「Irregular」

episode 1 「ニンニクと筋肉」







むしゃむしゃと、一心不乱に餃子を食べるスーツ姿の女性。
辺りには大皿にのった餃子。

餃子まみれのその女は、餃子を食べている橋で分厚い本のページを捲った。普通の人なら汚いといところだが女はお構いなしである。


「ウケる……」

そう言いながらまた捲られたページ。相対性理論についてのその本を、女、月城氷歌は餃子を食べながら面白そうに笑いながら読んでいた。






     * * *




積み重なった二つの段ボールを持った男が警視庁の廊下を闊歩していく。かなり重そうなそれを軽々と持っているから、見るからに体力勝負の警察官である。


「……第五捜査係……」

そう呟きながら、辺りを見るその男、鬼道有人は元SITの捜査官である。ちょっとおかしな事件に巻き込まれて左遷されてしまった。しかも、部下に発砲し、重傷を負わせた、という理由で。もちろん、鬼道は発砲などしていない。だが、誰が撃ったのかは鬼道も分からない。だからこそ、おかしな事件なのだ。


「ねぇじゃねえか……」

苛立ちをにじませたその声。眼差しにも明らかに呆れた色が見える。
はっきり言って、第五捜査係は普通に探していると見つからない。何せ、ある場所がまずおかしいからだ。



「あぁ、あそこなら向こうですよ」

近くにいた婦警がそう言って指差したのは貨物用のエレベーターの入り口だった。
俺は第五捜査係の場所を聞いたんだが、ともう一度言えば、行けば分かると言いきられてしまった。なぜ、貨物用エレベーターに行けばその場所が分かるのか。


何が何だか分からないままそこに行ってみれば、赤いエレベーターに妙な張り紙。


第五捜査係へご用の方は上へ


ご丁寧にも右端には上を向いた矢印付き。
ますます意味が分からん、と心の中で呟きながら、正直に乗ってみることにした。

赤い床に段ボールを置いた鬼道は素直に掛けられていたボタンの赤い方、上に向かう方を押した。




ういいぃん、と古い機械らしい起動音と共に。ゆっくりとエレベーターが上昇していく。上に向かうにつれて明らかに蛍光灯の光が漏れてきた。白々とした光がどんどん増していく。そんな中、その光の元になっているらしい場所の床が見えた。

と、同時に誰かの足が視界に入った。
どうやら、本当に第五捜査係はここにあるらしい。


敬礼をして、その人に対面する。
そこにいたのは明らかに定年を迎えていそうな白髪の老人だった。


「どうも」

優しそうな低い声が鼓膜を揺らす。


「警視庁公安部公安第五課未詳特別捜査係 係長、響正剛です」

人の良さそうな笑顔を振りまいたその人はそう名乗った。なぜか右手に抱えているのは柿ピーがこれでもかというほど入った瓶。なぜ初対面でそれを持とうと思ったのかはまるで謎である。



「本日付でこちらに配属されます鬼道有人です、よろしくお願いいたします」

「あぁ、いいよ、そんな堅苦しくなくて。自由にやってね」

そう言って響は自分の席らしい一番奥の椅子に座った。


「あ、鬼道君の席はそこね、そこ」

指差された机は何も置かれてなかった。とは言っても、七個ほどある机の大半は何も置かれていない。失くした方が広くなってよさそうだが、それは言わないでおく。


「あの、ここは係長だけなのでしょうか」

初めから持っていた疑問をぶつけてみる。気になっていたのだ。いくらなんでも一つの課に係長だけなんて、おかしすぎる。いや、この課は公安部、いや、警視庁の中でも一番馬鹿みたいな課ではあるのだが、一人は流石にないだろう。せめて五人とか。


「あぁ、もう一人いるんだよ。優秀な子でね、あの京大を出てるんだ」

井戸端会議のおばさまよろしく、係長が手を招く様に動かす。

京大、ねえ。頭がいいのは確かにいいことかもしれないが、それはそれで大丈夫か?射撃とかが心配だ。

と、その時。


「ちゃーっす、みかわ屋でーす」

国民的アニメの中の台詞が、部屋に木霊した。
どちらかと言えば、女では低いであろう声。こいつか、そう思って振り返って、なぜか動けなくなった。

ぼさぼさの髪に、灰色のスーツ。メイクはそこそこしているが言うところのナチュラルメイク。三日連続の徹夜明け見たいな格好に、もう何処か京大だ、と詰りたくなった。


「あれ?新しい人っすか?今日でしたっけ?」

語尾が全部疑問形なのがむかつく。なんとなくむかつく。というか、この女をなんとなく認めたくない気がした。
如何せん、うざい。あと、臭い。ニンニク臭い。


「お〜、この人が、この人がっすか、例の怪事件の人」

近づいて来た女の口から、もうニンニクの香りしかしない。というか、体臭がニンニクと化している。何で朝っぱらからこんなにニンニク臭を漂わせているんだこいつは……!!


「臭い」

気がつけばポロリと口から零れていたその言葉。それを聞いた女が聞えよがしに舌打ちをした。
何なんだこいつホントに。


「うっわ、うっぜ」

「近寄るな」

もう関わりたくない。何でこんな奴と同じ職場なんだ。
その理由が、変な事件のせい、としか言いようがないのがまた悲しいところだ。


「あぁ、はいそうですか、こっちも近寄りたくなんかないんで」

ニンニク女はそう言って鬼道の席と言われたところの斜め前の席にドカッと腰かけた。