二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.136 )
- 日時: 2012/06/03 14:52
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
「Family」
episode 10 「ライフルと襲撃者」
奇妙な音は周囲の建物に反射して繰り返しくりかえし響いた。
否、轟いた、と言った方が正しいだろう。
そして、何が起こったのかを把握する間もなく、それは訪れた。
「ヴ、ッぁアァぁあぁッ——!」
ひどく濁ったその声に、ヒョウカは弾かれたように辺りを見渡した。
そして、ヒョウカとユンカの背後に、戦闘部隊の隊員が十数名、地面に付していた。その身体が、ほんの少しだけ震えている。痙攣らしいその動き。しかし、何がどうなっているのか、とてもこれだけの情報では判断できない。
「何でこんなっ!」
ユンカは絶句しつつ、後ろから浴びせられる銃弾を巨大鎌を振り回して防いだ。鉄と鉄がぶつかる、金属音とも言い切れない音が、何度も何度も聞こえた。
と、————————
「ボス!上です!!」
ユウトの血を吐くような、切羽詰まった叫びが、ヒョウカの鼓膜を揺らした。
その耳に入った必死な声が聞こえ終わるかどうかのところで、ヒョウカが上を見上げた。
一番初めに視界に入ったのはひどく眩しい太陽。そのせいで一瞬視界が白く染まるが、お構いなしに辺りに立ち並ぶ煉瓦創りの建物を凝視しした。
その時、フィロメラの事務所とは反対側にある確か印刷所だったはずの建物の屋上に、一瞬、黒い影。
それをヒョウカが見逃すはずがない。一瞬目を守るために下を見て瞬きする。その度に強い光で刺激された目がちかちかする。目を開けているはずなのに視界に黒い穴のようなものが出来てしまうほどに。
しかし、それを気にしている場合ではないのだ。
これ以上、被害を出してたまるか。
銃を両手でもち、影があった方へと銃口を向ける。
が、影が見事に太陽のせいで出来てしまった黒い穴に重なっていた。
「くっそ……!」
忌々しげにヒョウカが吐き捨てる。
目を細めて、何とか視界にとらえた影。それは何かごつごつとしたものを片手にしていた。
それは、明らかに
—————————ライフルで。
「あ……れ、って……」
目を凝らし、そのライフルの全貌を把握したヒョウカは、構えていた銃を気がつけば降ろしてしまっていた。
驚愕のにじんだその表情。光によって強い刺激を受けた瞳。その二つはしっかりと、その少しばかり大きなライフルと、それを持つ人間に向けられている。
「ボス!!」
ユウトの必死な声に、はっとした。
何をやっているのだ、と自分を叱りつつ、もう一度、両手で銃を構える。視界の中で、ライフルを構える影に照準を合わせた。
ライフルをもった影が、もぞもぞと動いている様子が、はっきりと分かる。
撃たなくては。私の、大事なものを守るために。
バン、と一発だけの銃声が辺りを制した。
ヒョウカの放ったその銃弾は見事にライフルを持つ影を貫いたようだ。影がぐらりと揺らいで、地面に影を作る。そのまま屋上の縁に糸の切れた人形のように凭れかかっている。
そして、構えられていたライフルは影の元を離れ、支えをなくして地面にただただ落下していく。
ガシャン、と鉄くずを叩き付けた耳障りな音。それに何より反応したのは、フィロメラではなく襲撃者たちだった。
「うわ、…やられ、たっ!最後の砦だったのに……!」
「ウソだろ、もう無理だ!退けッ!」
「まずいぞ!早くしろ!怪我人は置いていけ!!」
罵声じみた声が飛び交う中、苦し紛れに弾丸を放ちながら襲撃者たちが帰っていく。
波のひくような、ものすごいスピードで。
飛び交う会話から、奴等の頼みの綱が先ほどヒョウカが打ち抜いた影とライフルだったらしい。
「……ユウト」
「なんでしょう、ボス」
ユウトはヒョウカに向き直ってそう聞いた。しかし、ヒョウカはユウトのほうを見ようとはしない。彼女の視線の先には、ひどく傷ついた建物があった。
「修復、最速でやれ。あと怪我人は完全に治るまでちゃんと管理するように」
「はい。もちろん」
「……あと……」
ヒョウカは小さく続けた。
「…襲撃者の置いてった怪我人、ちゃんと怪我治してやってから、入る意志のある奴はうちに入れろ」
吐き捨てるように言ったあと、ヒョウカは髪を翻しながら颯爽と事務所に入って行った。