二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.139 )
- 日時: 2012/06/10 14:41
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
「Family」
episode 11 「シレジアからの一報」
例の襲撃事件から、四日。
襲撃者たちが置き去りにしていった怪我人、そして、怪我をした住民たちが回復に向かいだした。
フィロメラの医療技術には目を見張るものがある。今回も、随分とそれが発揮されているようである。
「……よし、明日からはベットから動いていいですよ」
聴診器を耳からはずし、微笑みながらそう言ったのは救急部隊隊長のシュウであった。
「これで終わったか。あとはカルテを……」
シュウは手慣れた手つきである書類を取り出した。
その書類はカルテらしく、人の名前や怪我の状態が事細かに記されている。
「……やっぱり、ボスが見たって言うのは間違いなさそうだな」
溜息交じりにそのカルテに目を落としたシュウは、ひどく苦々いし顔をしていた。
* * *
「襲撃者のうち、怪我をして治療をしたのは13名。こちらに入ると言ったのは13名。全員に契約書を書かせました」
報告を淡々と続けるユウトを後目に、ヒョウカは書類に延々とサインを続けていた。
「で?あいつらの正体は結局何なんだ?」
サインをし終わったらしいヒョウカは、鋭くも彼女らしい眼差しをユウトに向けた。どうやらサインをしながらもしっかり報告を聞いていたらしい。さすがは、一つのマフィアを束ねる女と言ったところだ。
「どうやら、最近出来たばかりのマフィアだったようです。バルバラファミリー、とのことです。あと……」
数泊の間の後、ユウトは少し躊躇うように視線を泳がせてから呟くように言った。
「リブッサの傘下とのことです」
ユウトがそう言ったとたん、ヒョウカが聞えよがしに舌打ちをした。
憎々しげな表情が浮かんでいる。
「そんな顔をしないでください。綺麗な顔が台無しです。それにあなたらしくない」
「馬鹿を言うな。お前にそんな冗談は似合わん」
ユウトの言葉をそう言って切り捨てたヒョウカは、書類をトントンと整える。
そして、その書類の束をユウトに手渡し、はあ、と溜息とは少し違う、疲れを表したような息を吐きだした。
「あの、屋上にいた奴は?」
「あいつは戦闘部隊が現場に行った時にはいませんでした。ただ、怪我人の話だと、雇った天才スナイパー、だそうです」
「……で、あいつが持っていたライフルは?」
「逃げていく際に奴らが持って行ったようです」
そうか、とヒョウカは背凭れに背を預けた。
その天才スナイパーとやらが持っていたライフル。ヒョウカの脳裏からは、それが焼き付いて離れていない。
全体は、日の光の強さで分からなかった。ただ、影になって見えただけで、それがなんなのかははっきりとわかった。
それが、ベーゼであるということは。
ベーゼは、ウニタスファミリーを筆頭とした、昔の凶悪マフィアがこぞって作った、異常な殺傷能力を持った武器だ。
ただでさえまずい力を蓄えた武器であるにもかかわらず、それをもっと強化し、特性を持たせた、ベーゼ・シュラークは、もう武器と言うべきか、悪魔と言うべきか分かったものではない。
ベーゼには様々なタイプがあるが、今回、そのスナイパーが持っていたのはライフル。そして、シュウからの怪我人の症状を聞けば、感電と同じ症状が出ているということだ。どうやら、ヒョウカが見たライフルは強化されたベーゼ。ベーゼ・シュラークで間違いないらしい。多分、電気を帯びた弾丸を発射できる、そんなベーゼ・シュラークなのだろう。
「……ベーゼが出回っているのなら、もうあの手紙が冗談である可能性はゼロだな」
頭痛でもするかのようにこめかみに手を当てる。
その動きに、大丈夫ですか、とユウトの心配そうな声が上がった。ヒョウカは、ちょっと疲れた、とだけ返してユウトを見ようとはしない。
マフィアのボスである彼女にかかる重圧が、彼女の近くにいるためよくわかるユウトにとって、力になれない自分が、ひどく情けなる瞬間だった。
「とにかく、詳細の捜査を頼む。街の復興は、あらかた終わったんだろう?」
「はい。戦闘部隊にも手伝わせたので明日には完了です」
「では、書類を提出してきます。ついでにユンカに頼んで何か菓子と紅茶でも持ってきますので」
報告が終わったユウトが、そう言って部屋を出ようとした時、ヒョウカの目の前にある机にのった固定電話からけたたましい音が鳴った。
ヒョウカがすぐに出ると、内線だったしくハルナの声が聞こえた。
「どうした?」
『シレジアファミリーから、緊急の連絡だそうです!』
その声を聞いた途端、ヒョウカの眉間にしわが寄った。不穏な雰囲気を察したユウトも、部屋を出て行くのをやめ、ヒョウカに近寄ってくる。
「……繋げ」
吐き捨てるように言った後、分かりました、と了承の声が電話から漏れた。しかし、それはもうヒョウカの意識から外れていた。
頭の中は、シレジアに何があったのか、でいっぱいなのだ。
一度受話器を置き、つながったことを確認してから、ヒョウカがあるボタンを押した。
そして、受話器を取らずとも、向こうの声が聞こえ始める。どうやらユウトにも聞こえるようにしたかったらしい。
『すみません。こんな忙しい時に』
聞こえた声は、まだ少し幼く聞こえる男の声。シレジアファミリーの首領、タクト・シレジアの声だった。
そこまで緊急という感じのしない声に、ヒョウカはすこしホッとする。まさか彼らまで襲撃を受けたのかと思っていたからだ。
「いや、大丈夫だ。どうかしたのか?お前が直接連絡をよこすなんて」
『少し厄介なことが起こっているらしいので。もしかしたら、そちらの襲撃者たちとの関係もあるかもしれません』
「……何があった?」
『違法のカジノを見つけたんです。そちらを襲撃したバルバラファミリーの領地の近くで』
随分と厄介だな、とユウトが口をはさむ。タクトはヒョウカが一人でいると思っていたらしく、随分と驚いた。
『アルケステさんもいらっしゃったんですね』
「まあ、な」
そう返したのが何故かヒョウカだったためだろう、タクトは電話の向こうでくつくつと笑った。
二人はそれを気にするでもなく、質問を投げかける。
「で、どうしてほしいんだ?」
『我々だけでそのカジノに乗り込むのが、少しばかり心許無いので応援を頂けないかと思いまして。何せ、そこで武器の密輸が行われているかもしれないという可能性があって、そうなれば我々、新興ファミリーだけでは難しいと思った次第です』
ヒョウカが少しだけ、考えるようにしてから口を開く。とは言っても考えていたのはものの五秒だ。こういうところの決断の速さは誰もが目を見張る。しかし、その一方で浅はかなのではと思う奴もいる。ユウトもはじめのころは後先考えずに決断しているのだろうと思っていたくらいだ。でも、彼女はその数秒のうちに信じられないほどしっかりとした決断を導き出しているのだから、そんなこと思うのほんの少しだったのだが。
「……分かった。私が直接行く」
『えっ!?』
「私が行くと言ったんだ」
「ボス!!」
ユウトの窘めるような声が聞こえるが、お構いなしだ。
ヒョウカは無視してタクトとの話を続ける。
「ユウトやレイナも連れて行こう。その方が、カジノのやつらも驚いて尻尾を出しやすい。それに、密輸なんかになるとした奴らじゃどうのしようもない。ユウトとレイナはそういうことには強いし、私がいれば、そういう馬鹿な奴らに権力振りかざし放題だ。そうは思わないか?」
タクトは存外しっかりした考えに、圧倒されつつも、では、お願いします、としっかりと返事をした。
さすがは、一ファミリーの首領だ。
「じゃあ、詳しいことはあとでまた伝えてくれ。出来るだけ早めに行動する」
『分かりました。ありがとうございます』
「いい。そんなにかしこまるな。こっちは奴らをつぶすチャンスをもらえてうれしいことこの上ない気分だしな」
『いえ。では』
電話が切れた音の後、ヒョウカの部屋には沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは
「あなたらしいですね」
というユウトの声だった。
先ほどとは真逆のその言葉に、ヒョウカは
「そうだろう?」
と、肩頬を上げて自慢げに笑った。