二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.150 )
日時: 2012/06/24 13:09
名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
参照: 「flower」




「アネモネに似た恋の味」



そこにある、何かに繋がった細いほそい糸を断ち切りたい様な、縋りたい様な、どうとも言えない感覚が心中で渦巻く。
いっそ、本当にそうしてしまえば楽になるのだろう。

でも、断ち切ることも、縋ることも出来ないのはこの感情の正体がどうしても分からないせいだ。


渦巻くこの感情の正体を知ることが出来れば、きっと、きっと、あなたにこの感情ごと手渡してしまえるだろうに——。




「……なんで、こんなに……」

秋は強く服の胸のあたりを握った。
いつからだろうか、こんなに胸が重くなったりするようになったのは。

そうだ、確か彼があの人とよく笑うようになってからだ。あの太陽のような、向日葵のような笑顔が、その煌きを一層輝かせて彼女を見るようになってからだ。


「いっそ、ひと思いに嫌いって言ってくれればいいのに」

その言葉は、本心だ。
嫌いだと、俺が好きなのはあいつなんだ、と。そう言ってくれればいいのに。

でも、彼はそう言ってくれない。嫌い、ではないから。私のことを、大切だ、思ってくれているから。好きではなくとも、大切だとは。
その線引きが苦しみを生む。焦燥を生む。期待を生む……




                               あ、———————……  そうか、



この感情は、縋りたい様な断ち切りたい様なこの感情は、“期待”だ

彼が私に与えてくるひどく優しくて、ひどく残酷な、期待だ。



私は、そんな彼の与えてくれる感情を、気づかぬうちに律儀に受け取って、大切に大切に心の奥底にしまっていたのだ。

持ちたくないのに、でも彼がそれを与えてくれるから、どうしたらいいか分からなくて。



      持ちたくないから縋りたくても縋れなくて、

                            でも、断ち切るには彼の思いが優しくて嬉しすぎて———————


だから、こんなにもどかしくて、ぐしゃぐしゃに絡まった糸のように、心中で蟠っていたのだ。




「そ、っか、だから……」

儚い夢のような感情。初恋はレモンの味、とはよく言ったものだ。
でも、私のこの恋の味は、レモンのような可愛らしいものではなく、薬とか、食べられない花とかを食べたような、そんな味な気がする。儚い恋の味、だろうか。それとも、薄れゆく希望の味だろうか。

どちらにせよ、この恋に対して私が持っている感情が、悲しい、切ないものであることに変わりはない。




春特有の、強く少し暖かい風が吹く。ひゅうっと小気味いい音を立てて、秋のブラウンの髪が揺れる。



それと同じように、すぐそのこの花壇で色とりどりのアネモネが揺れていた。





                            アネモネに似たこの恋の味


  *


                       




                 アネモネ <<期待  薄れゆく希望  儚い恋>>