二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.38 )
- 日時: 2012/04/14 10:54
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
- 参照: 高校始まって忙しい……
円秋大好きだったので未だにイナゴの円夏にもんもんしています。あと、ゲームごとに奥さん違うとか聞いて円秋ルートも確保してるのか!と思ってたらまさかの円冬。辛いです。
もうこうなったら自分で円秋書く!!っていう突発的な感じで御座います。
時間的にはイナゴのちょっと前。まだ二十歳くらいと思ってくださいませ。まだ円堂さんは夏未さんと付き合ってますけど結婚してませんので。
イナイレGO 円秋
「君といた時に」
久しぶりに帰ってきた雷門が、ひどく懐かしくて、そしてなんだか嬉しくて円堂はいてもたってもいられず、気がつけば鉄塔広場に足を運んでいた。
円堂たちの活躍で有名になった雷門中の活躍は、遠くにいても届いていた。見るたびに、たまには帰ってみたいなと思って結局忙しくて来られなかったのだ。
そして、今日。久しぶりに帰ってきた。
階段を登りきったところで見えたのは一つの人影だった。
ワンピースに身を包んだその人影。夕焼けの中にたたずみ、不意に吹き荒れた風に靡く髪を抑えるその姿は、綺麗の一言だった。眩しくて自然と顔をしかめてしまうが、その姿はひどく鮮明に見えた。
不意に、その人影が振り返る。
こちらに気づいたらしく、少し驚いたようなしぐさをする。
見られていたのが嫌だったのだうかと円堂は思いつつも、その人影から目を離すことはできなかった。
「円堂……君?」
聞こえたその声には聞き覚えがあった。そして、同時にそこにいた人が誰なのか一瞬にして分かった。幼かった頃、自分を陰ながら支え、励ましてくれた優しい声が、耳を通っていくのが、懐かしいと思う。
「……久しぶり、秋」
そう言って笑ったときに、やっと眩しさが少し和らいでやっと彼女の顔を見ることができた。
その顔は驚きと、嬉しさに満ちて見えた。
* * *
気がつけば日がすっかり沈み込むほど話し込んでしまっていたらしい。
話すことはたくさんあったから、自然なことなのかもしれない。
秋も楽しそうに聞いてくれていたし、話していたこちらも楽しくてしょうがなかった。
辺りは真っ暗で、街灯の光と薄ら見えている月だけが辺りを照らしていた。とはいっても明るいとはとても言えない状況。
どうするか、送って行こうかと考えていると、秋がじゃあ私行くねとベンチから腰を上げた。一人で帰るつもりだろうかと焦って円堂も腰を上げる。
「送ってくよ」
「いいよ、忙しいでしょ?」
「このまま返すの心配、秋、可愛いし」
そう言えば、秋が冗談はやめてよ、と苦笑いをする。
いや、冗談ではないのだ。はっきり言ってあの夕陽の中の秋はびっくりするくらい美しかったのだから。昔は口うるさい母親のようだったから、昔は可愛いとは思ったが美しいと思ったことはなかった。だからだろうか、あの秋をあんなにも美しいと思うのは。
そう言えば、と一之瀬のことを思い出した。今、一之瀬はプロリーグで活躍しているはずだ。
そして、秋と付き合っているはずだ。
円堂も、夏未と付き合っているから、口出しすればそっちはどうなのと聞かれそうで聞こうにも聞けない。
でも、気になってしまったらどうしようもなくて、階段を下りている途中に、気がつけばポロリと口から言葉が零れていた。
「一之瀬と、どうなの?」
聞いた途端に秋が目を丸くした。そして、数拍おいてからぽつりと秋が言葉を紡いだ。
「たまに、電話するくらいだよ。あっち忙しいみたいだし……」
「……そ、っか、上手くいくといいな」
そう言って笑って見せた時に、秋がまた口を開いた。可聴域ギリギリではあったが、何とか聞こえたその声。
「夏未さんと、どうなの?」
やっぱり聞かれるかと思って苦笑いをする。順調だよ、とそのまま返せば、元気のない、秋らしくない声でそう、と声がした。
どうしたのだろう。秋らしくない。何かまずいことでも言ったのだろうか、一之瀬のこと聞かない方が良かっただろうか。
「円堂君」
次に聞こえた声が、秋らしい、凛々しい感じの声でほっとする。でも、その声は何処か改まったような響きを持っていたので、なぜか緊張してしまう。
「あたし、今言わなきゃホントに後悔しそうだから、言っとくね」
そう言った秋の目があまりにも真っすぐで、口を出せなくなってしまった。
円堂の方に向き直って、深く息を吸ってから、秋は言葉を紡いだ。
「私ね、円堂君のこと、好きだったの」
少し途切れつつも、しっかりと紡がれたその言葉を円堂はすぐに理解できなかった。
そんな動けなくなっている円堂に気も使わず、秋は続ける。
「雷門が弱かった時から、ずっと。でも、今は違うから。今は一之瀬君が大切だから」
真っすぐな声、真っすぐな瞳。昔と変わらないそれのはずなのに、その声を聞くことが、その瞳に映されることがこんなにもきつかったことはない。そのくらい、今秋と話すのは円堂にとって苦しかった。会話の内容のせいなのだろうが。
「でも、ね。やっぱり円堂君も大切なんだよ。一之瀬君の方が大切だけど、やっぱり円堂君のことも、まだ大切だから」
そこまで一気に言って、秋はまた深く息を吸う。
その間にも、円堂は何も言えなかった。
何せ、円堂も秋のことが、好きだった頃があったから。
しかも、それは秋が先ほど言った、円堂を好きだった時期と同じ頃に。
だからこそ、円堂は何も言えなかったのだ。
「今言わなきゃ、一生心の中に残っちゃいそうだから、言わなきゃって思ってて、そ、れで……」
尻すぼみに小さくなっている声に、どうすればいいか分からず、おどおどしていると、秋が急に階段を駆け下り出した。
ワンピースのすそが彼女の動きに合わせて揺れる。髪もゆっくりと揺れていた。目の近くに手の甲を当てながら走っていく姿から、秋が泣いていることにやっと気付く。
何か言わなければ、俺も本当のことを伝えなければ、きっと後悔するから。何もしなかったことを後悔なんてしたくないから。
「俺も!!」
秋に届くように大きな声を上げる。
それに気付いたのか小さくなっていく背中が、止まった。それを確認してからまたのどが張り裂けんばかりに。
「俺も好きだった!!秋のこと!!」
背中が振り返る。
「でも、今は夏未のこと思ってるから!!でも、秋のことも思ってる!秋が俺を思ってくれてるのと、同じように!!」
秋が、口に手を当てているのが見える。
「ありがとうな!言ってくれて!」
首を横に振る姿が見える。
「ホントに!ありがとう!!大好きだったよ!!」
そう言い終えた後に、秋の声が響いた。
「円堂君も!ありがとう!!大好きだったよ!!」
そう言った秋は、また背を向けて歩き出した。泣いているのかは分からなかった。
でも、少なからず、俺と同じようにすっきりしているはずだ。
ただ、少し思うのは、あの時秋に正直に思いを伝えていたらどうなっていたのか、だ。もしかしたら、結婚でもして、一緒に笑って過ごしていたかもしれない。それも幸せだっただろう。
でも、今も幸せだから、きっとよかったのだ。
次に会ったときは、また、笑顔で会えるだろう。
一緒にサッカーを楽しんでいた、あの頃と同じように——————