二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.94 )
日時: 2012/05/06 10:40
名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)


「Family」

episode 8  「最後の情け」




重々しい空気が辺りを満たす。向こうも、少しばかりこの雰囲気に呑まれている感じがする。当然だろう。仲間のユウト達ですらこの雰囲気にさらわれかけている。

それほど、今のヒョウカから発せされるオーラは、空気はお世辞にもいいとは言えないものだった。


「……塵どもが、群がるな」

その言葉の語尾が消えるか消えないかの時に、ヒョウカの手のオートマチックから弾丸が弾き出された。バンバンと、発射された弾の軌道は真っすぐ、敵の二人の右足と左足を貫く。擬音にしがたい、耳触りで鈍い音。肉を貫き、壁にのめり込む音が辺りを駆け抜けた。


「逃げるなら今のうちだぞ」

どちらかと言えば忠告と言うより宣言じみたその声が敵、そして味方の背筋を冷やす。声色が只でさえ怖さを感じさせるものなのに、表情までもが狂気的。これが、「革命女帝」の本性か、と敵は思っているのではなかろうか。

数拍、ヒョウカは動かず、じっと敵を見据えていた。しかし、それはあくまでもほんの少しの情けに似た余白。逃げるための微量の余裕を与えていただけだのだ。これで逃げなければ……


  殺される。そう言うことだ。


「……逃げる気はなし、か」

相変わらず絶え間なく聞こえる銃声にヒョウカは溜息をこぼす。そんなに死にたいのか、そう言わんばかりに。

そんな中、敵はヒョウカに標的を定めたらしく、ヒョウカに銃口が向いた。しかし、ヒョウカはそれを気にするわけでもなく、ぼんやりと空を見上げ始めた。

バンバンと、銃声が轟き、銃弾がヒョウカに向かって回転運動をしながら進んでいく。その様子をヒョウカは見ようともしない。ただただ、空を見上げていた。

しかし、まずい、とは誰も思っていなかった。少なくともフィロメラの面々は。

銃弾の軌道に、何かが割って入ってきた。よく見るとそれはナイフだったり、同じ銃弾だったり。様々なものが銃弾がヒョウカを射止めるのを見事に阻んだ。


「……全く、もう少し危機感を持ってください」
「そうだな。まあ、この人を狙うあっちもあっちだが」
「両方に非はあるってことですね」

そう言ったのは銃弾を銃弾で止めたユウトとレイナ。そしてナイフで弾いて見せたユンカだった。
三人は敵とヒョウカの間に割り込み、敵を見据えていた。

そして、やっと空を眺めるのを止めた氷歌は今度は三人の背中を見ていた。凛々しく、すっと伸びた背中。女帝を護る、クェーサー、と呼ばれるだけはある。

「おまえらがいるんだ。ぼんやりしたっていいだろう?」

ヒョウカは当然と言ったような顔で三人を見る。この三人は、戦闘部隊最強の隊、「アポカリプス」に属している。アポカリプスの仕事はボスであるヒョウカの警護を主とする戦闘だ。こういう交戦の時に最前線に出る隊でもある。そんなアポカリプスの中でも最強を争うこの三人は、ヒョウカが絶大な信頼を寄せている人たちでもある。

彼らがヒョウカを護りに来た、と言うことはもう、敵に逃げるすべはないと言うことを表している。



「我らが女帝に跪け、従えば、少しの情けはかけてやろう」

ユンカが鎌を構え、淡々と宣言する。


「我らの女帝の視界の中で眠りにつくと言うせめてもの情けを」

レイナは剣の切先を敵に向けて言う。


「一瞬の苦しみのうちに、旅立てると言うせめてもの情けを」

ユウトが引き金に指をかけ、ひどく低い声で言う。





        「「「愚かなる族に、最後の情けを」」」





銃声が肉を貫く音と、軽く地を蹴る音、空を切る音が反芻して、綺麗とも言うべき音を響かせた。