二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.15 )
日時: 2012/04/13 17:53
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)

 木々の葉が日光をある程度遮断してくれているが、それでも首筋をあぶる紫外線はすでに熱さを通り越して痛みを感じる。苔むした石造りの階段は気を許せば足を滑らしそうだし、山の入り口に踏み入った瞬間から周りを飛び回っている蚊は追い払うのさえ疲れてしまい、今となってはむき出しの腕等々食われ放題である。

「ちょ、ちょっと休憩……」
「なぬう!? お前は天邪鬼か! 歩けと言った途端にこれか!」

 返答する気にもなれず、たまらず石段に座り込んで長い息を吐いた。膝小僧の上に両腕をのせ、そのさらに上に汗に濡れた額を押しつける。
 ぽてんぽてんとマリのように弾みながら降りてきた先生が、自分の脇を何度も前足で叩く感触も、どこか他人事のようだ。熱で溶けてしまった意識が眠気を感じ、誘惑に負けかけ目蓋が降りていく。

「とおりゃっ!」

 ぺチッ

 首筋に当てられた冷たい何かが脊髄に電撃のような刺激を与えた。
「うわあああぁああ!?」
 反射的に飛びのく。身を反らすといつの間に距離を詰めていたのか、半分以上が空になっているペットボトルを後ろ手に持ち、もう一方の手には湿った水色のおしぼりを握っている白瀬が笑っていた。右と左、頭の高い位置で二つにしばってある長髪が横へ揺れ動く。右耳のイヤリングの石が青く光る。
「どうせ全部は飲みきれないだろうし、冷たいうちに使った方がいいんじゃないかな〜と思って。どう? 気持ちいいでしょ」
 よいしょと夏目の隣に座り込んで、今度は額に押し付ける。さっきは不意打ちだったので驚いたものの、こうしてその冷たさに感じ入るとため息が出る程に気持ち良かった。
「トンちゃんの分も作るからね〜。ちょっと待ちなよ」
 夏目におしぼりを持たせて、下ろしたかばんの中をかき回しながら言う。
「ぬ? 何だ、その珍妙なあだ名は」
「深い意味はないよー。猫ちゃんなのにブタみたいだからさ、豚《トン》ちゃん」
「なっ、……何をぉおおー!?」
 飛びかかってきたトンちゃん、もといニャンコ先生の右フックを大げさな身振りでかわす白瀬が弾けるような笑い声を上げた。
 ……きっと、内心は先を急ぎたいと思っているのだろうに、こうやって先生と戯れながら自分を待っていてくれている。そのちょっとした気遣いが胸に染みた。