二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.24 )
日時: 2012/04/29 00:07
名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)

 おお、と妖たちがどよめく。どうするどうする、行くか退くかとざわめき立つ中、程なくして暗がりから四足で歩み出た大猿の尾は三つに割れていた。
「……探している妖、とは?」
 夏目に代わり、白瀬が答える。
「この山の、中腹から山頂にかけてのどっかに封じられている妖なんだけど。それで、周りに沢山のお地蔵さんがいるらしいんだ」
 声が上がったのは暗闇の中だった。
『それならばここから近い。
 もう少し上がれば、石段の縁に赤い幟が見えまする。我らが分かるあなた方なら見えましょう。それを左に曲がり、あとはその先に転々と並ぶ紅幟の見える方向へと歩けば、七つ目で封印の場へと着くはずにございます』
「! そうか。ありがとう!」
 ぱっと明るくなった顔を声の主へと向けると、大猿のすり潰したかのような声が頭上から落ちてくる。
「されど気を付けるがよい。封印の祠の前には人の子はおろか、妖でさえも踏み入られぬよう、名のある術師によって強い呪いが施されておる。お主らとその」
 右の人差し指がニャンコ先生を指す。
「丸餅のような物体如きに破れるものではないぞ」
「なー!! 言ってくれおるなこのマシラめが!」

「できるよ」

 山奥まで貫くかのような通る声が、場に前振りなしの静けさをもたす。蝉たちでさえ、瞬時に鳴き止んだ。
 振り返る。
 夏目の後ろに立つ白瀬は、大猿を見上げると共に不敵な笑みを浮かべていた。静かな焔の宿る両眼は鋭利に細まり、吊り上げられた口の端は刃のよう。
 その表情に在るのは、己への絶対の自信。
「できるさ」
 そう、彼女は復唱した。
「少なくとも、私にはね」
 にい、と。
 挑戦的に向けた笑みの中に、疑念の欠片は一つたりとて存在しなかった。
 ——山に音が戻ってくるまで、数十秒。
「…………そうか」
 大猿は、呟くようにそう言って。
「ならば、成るように為すがよい。小娘」
「最初っからそのつもりだよ」
 返す言葉にこもるあまりの力強さに、茂みの奥から感服のため息が漏れた。