二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師パラレル現代版★短編集【参照数800突破】 ( No.106 )
- 日時: 2012/05/31 20:03
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: 4dKRj7K1)
参照800突破記念小説★紅蓮と晴明
「 …眠いなあ、寝たいなあ、寝ようかなあ」
昌浩の部屋で丸まっている物の怪は、欠伸をしながらそんなことを呟いていた。
「こんなに眠いのは、毎晩行く夜警のせい」
物の怪は、ジロリと横にいる昌浩を見た。彼は今、学校の勉強をしている。 物の怪の視線に気がつくと、それまで一心不乱に動かしていた右手を止め、物の怪を半眼で見てきた。
「 …あのねぇ、俺に何か文句でもある?」 「あるよ。たっくさん」
物の怪は、わざと嫌みったらしく言う。 「何だよ」
昌浩は苛ついているが、それを必死で抑えている。そんなことが手に取るように解る物の怪は、おかしくて仕方がない。
「だからー、昌浩がもっとしっかりしてたらー、夜警なんかちゃっちゃっと終わらせちゃってー、夜中は寝る時間 がたっぷりできるはずなのにー。昌浩が頼りないからー」
「うるさいな、もっくん」
昌浩の声が刺々しくなる。
「何だよ、本当のことじゃんよ」
「そーだね」
昌浩が棒読みで答えた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
昌浩が返事をすると、扉が開き、彼の祖父である、晴明が立っていた。
「お祖父様、何か用ですか?」
ムッとしながら昌浩が訊くと、晴明は笑って答えた。
「 …いや、わしが用があるのは紅蓮の方じゃ」
「俺?」
まさか自分に用があるとは思っていなかった物の怪がポカンと口を開けた。
「ちょいと、おいで」
ひょいひょいと晴明が手招きするので、物の怪はそれに従って晴明のもとへ歩く。
「わしの部屋で話そうか」
そう言うので、物の怪は晴明のあとを着いていく。
「 …で、何のようだ?」
昌浩の部屋から離れたところで物の怪が訊いた。
「 …じゃから、わしの部屋で話そうと——」
にこにこと笑う晴明に、物の怪は首を傾げた。
——晴明の部屋に、何かあんのか?
物の怪は、 晴明の部屋で話すというのは口実で、実際は昌浩に聴かれたくない話でもするのかと思った。しかし、読みが外れたようだ。
晴明が足を止めたので、物の怪も足を止める。
そこは、晴明の部屋。目の前には、——将棋盤。
「おい、晴明、これは——」
「将棋でもしようか、紅蓮」
ポカンと口を開ける物の怪に、老人はニマリと笑った。
「なんでだよ !?」
「暇じゃから」
そう言って、晴明は将棋盤を前に胡座をかいた。
「さ、紅蓮、座って」
「…………」
取り敢えず、将棋盤の前に座る物の怪。
「先手は紅蓮で良いぞ」
そう言うので、物の怪はパチリと音をたてて、駒を置いた。
「 …ほぉ」
晴明も、パチリと音をたてて、駒を置く。
「なぁ、晴明」
チラリと晴明を見て、物の怪が言った。
「なんじゃ?」
晴明は、将棋盤を見つめたまま、返事をした。
「こんなことなら、玄武とかでも良いだろ」
パチリと駒を置く。
「いや、玄武は少々弱いからのぅ… 」
つまりは相手にならないと。
「なら、強い奴——白虎とか」
パチリ。
「白虎は、ちと強すぎる」
つまりは歯が立たないと。
「それに対して、紅蓮は丁度良い強さ」
「なんだよ、それ!」
物の怪が声を荒げる。
「ほっほっほっ。 …まあ、良いじゃないか」
愉快に笑う老人を軽く睨んだ物の怪は、溜め息をつきながら、駒を置いた。
「のう、紅蓮」
パチリ。
「なんだ?」
パチリ。
「 …………いや」
パチリ。
「?」
ずっと将棋盤を見ていた物の怪だが、顔を上げて、晴明の顔を見た。
肩を震わせて、笑っている。必死にこらえて、笑っている。
「何がそんなに可笑しい !?」
物の怪が問うと、晴明は笑いながら答えた。
「じゃって… 、将棋をする物の怪——」
「くっくっくっ」と、実に楽しそうだ。しかし、物の怪にとっては、気分が良いものではない。
一瞬の後に白い物の怪の姿は消え、代わりに一人の男性が不機嫌な表情をして胡座をかいていた。
「なんじゃ、人身をとったのか」
冷めた声で言う晴明に、紅蓮は半眼になった。
「なんだ、その反応は」
「 …せっかく、面白かったのに」
「こっちの気持ちも考えろ」
「はいはい」
苦笑混じりに晴明が返すと、紅蓮は溜め息をつき、駒を置いた。
「王手」
「何 !?」
「俺の勝ちだな」
紅蓮が勝ち誇ったような表情で言った。
「ずっと笑ってるからだぞ」
晴明はそれを聴いて、口を尖らせた。
「じゃって、紅蓮が——」
「とにかく、俺は戻るぞ」
そう言って立ち上がった紅蓮を晴明が引き止めた。
「もう一回しよう!」
「 …は !?」
紅蓮は思わず目を見開いた。
「このままだと、腹の虫が悪い!」
「 …負けず嫌いかよ」
「ほらほら、はやく!」
急かす晴明に嘆息して、しかし紅蓮はその場に胡座をかき、彼の相手をする。
「次も勝ってやるよ」
「勝つのはこっちじゃ!」
時は、ゆっくりと過ぎてゆく。