二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 少年陰陽師パラレル現代版★短編集【参照900突破】 ( No.111 )
日時: 2012/06/23 01:07
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: iP.8TRIr)

参照900突破記念★物の怪には聞かれたくない、昌浩の車之輔への相談

「ねぇ、もっくん」
「何だ? 昌浩」
「もっくんは車之輔の言葉が分かるんだよね?」
「……………まぁな」
 ある日のこと、昌浩が突然そんなことを言い出した。
「 …そうだけど、それがどうした?」
 訝しげに問う物の怪に昌浩はこくりと頷いて答えた。
「ほら、だから、車之輔と話がしたいけど、話が出来ない」
「だったら、いつも通り、俺が通訳を——」
 呆れながら言う物の怪の言葉を昌浩は遮った。
「だけど、もっくんに聞かれたくない話がしたい」
「気になるな、それは」
 物の怪の言葉を無視して昌浩は言う。
「そういう場合はどうすれば良い?」
「『どうすれば良い』って——」
 物の怪は昌浩の左肩に助走をつけずに飛び乗った。
「お前は車之輔と何を話すつもりだ」
「……………別に」
 明らかに目線を反らす昌浩を見て、物の怪は半眼になりながら言った。
「まぁ、俺以外の奴でも分かるだろ」
「おぉ! なるほど!」
 ポンと手を叩く昌浩を見て、物の怪は溜め息をつく。
「 …はぁ。——ったく、晴明の末裔がこんなんで良いのか… ?」
「末裔言うなぁ! 物の怪のもっくん!」
「物の怪言うな!」
 いつものように言ったあと、昌浩は部屋を出た。
「 …あ、もっくんはついてきたらだめだよ。秘密の話だから」
「だから、それは一体なんなんだ?」
 左肩に乗った物の怪を払って、昌浩は安倍家の前の一条戻り橋へと向かう。そこには、彼の唯一の式である妖車がいる。
「一体なんなんだ……………」
 物の怪は「うーん」と唸って考えた。



 一条戻り橋へとやって来た昌浩は、自分の式を見て、にっこりと話しかけた。
「車之輔! 久しぶり、元気だったか?」
「はい、やつがれはいつも元気です。それよりご主人はどうですか?」
「うん、俺も元気だよ」
「それは何より——って、なんでわたしがこんな通訳をしなきゃなんないの !?」
 車之輔の言葉を伝えていた太陰が怒鳴る。それに対して、昌浩は苦笑いをする。
「あー、ごめん」
 太陰をつれてきたのは、たまたますれ違ったから、だ。
「あーもー最悪」
「ごめんって。で、車之輔。大事な話があるんだ」
 後半は車之輔に向かって話す。
「実は——」
 昌浩はゆっくりと口を開いた。
「テストで悪い点取ったんだ …!」
「……………は?」
 太陰がポカンと口を開ける。車之輔も呆然としている。
「もっくんに『今度のテストで悪い点取ったら俺がみっちり勉強教えてやる!』って言われてさぁ… 、もう困っちゃって」
「そんなことかよ!」
 太陰が見事な突っ込みをしてくる。しかし、昌浩はいたって真剣だ。
「車之輔。どうすれば良いと思う?」
 すると、心優しい妖車はその体をぎしぎしと揺らす。
「太陰、何だって?」
 首を傾げて訊いてくる昌浩に、太陰は呆れながら通訳をする。
「テストで悪い点を取ったなら、それを物の怪殿にお話するのが良いと思います」
「ふんふん」
「そして、しっかりと勉強をして、次のテストで良い点を取れば良いと思います——だって」
 太陰が通訳をし終えると、昌浩は車之輔の頭を撫でた。
「ありがとう、車之輔。言う通りにするよ」
「ご主人のお役に立てたなら何よりです」
 昌浩は相談に乗ってくれた車之輔と、通訳をしてくれた太陰に礼を言い、安倍家へと戻っていく。



「——で、何だ、この点数はぁ !?」
 安倍家に響き渡る、甲高い物の怪の声。
「今日は徹夜で勉強を教えてやる !!」
「えぇっ! 徹夜 !?」
 驚いた昌浩に、物の怪は容赦無く言う。
「今すぐやるぞ! 教科書だのノートだの持ってこい !!」
「えぇー!」
「良いからとっととしろ!」



 橋の下に腰かけた太陰は、物の怪の声を聞きながら小さく呟いた。
「人間って、大変よね… 」
 すると、隣にいた車之輔は言った。
《ですが、とっても楽しそうですね》