二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師パラレル現代版★短編集【参照300突破】 ( No.38 )
- 日時: 2012/04/29 12:17
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: WSl7zu6B)
昔からの光景。
「ふあ〜ぁ…。眠いわぁ」
まだ小学校低学年ほどに見える少女が、大きく欠伸をした。
「太陰が昨日、夜中までゲームをしていたからだろう」
そう言ったのも、彼女——太陰と同じ年頃の少年。
「うるさいわね、玄武!いいでしょ !? おもしろいんだから!」
玄武と言われた少年は、半眼になった。
「…って言うか、玄武としゃべってたら、もう七時半だわ!グレンジャーが始まっちゃう!」
そう言うなり、太陰はテレビの前まで行き、テレビの電源を入れ、ソファーにどっかと座った。
すると、テレビからはちょうどグレンジャーのオープニング曲が流れてきた。
『いーまー、もえあーがるー、しゃくねーつの、ごーおかー』
「玄武も速く来なさいよ!」
『やーみーをー、てーらすー、それはー』
「…はいはい」
『ちかいーのー、あーかしー、けっしてー、きえなーいー、いのちーのーとーもしーびーをー、ファイヤー!』
玄武は、そのオープニング曲を聞きながら、欠伸を一つした。
『あいとー、へいーわーをー、だきしーめろー』
そして、サビの部分のリフレイン。
『ぐれんーぐれんーぐれんー、たたかーえー、おんみょうせんたーいー、グーレーンジャー、ファイヤー!』
グレンジャーとは、日曜日朝七時半から三十分間放送されている特撮ヒーロー番組の『陰陽戦隊グレンジャー』のことだ。
この番組について簡単に説明すると、グレンジャーたいうのがチームの総称で、赤レンジャーや紅レンジャー、緋レンジャー、朱レンジャー、茜レンジャーなど、朱系統で微妙に違う色合いの戦士が敵怪人をやっつける——といったものだ。
「やはり、何度見てもグレンジャーはずるくないか?」
玄武の呟きに、太陰は「はあ?」と返した。
「だって、敵は毎回毎回、一人でやって来るのに、グレンジャーは何人もいて、敵を羽交い締めにするんだぞ」
「………」
今更だが、太陰と玄武は、子供の姿をしているが、子供ではない。もっと言うと、人間でもない。この安倍家に代々使える十二神将の一人だ。
だから、いくら子供のなりをしていても、考えていることは、普通の大人と同じなのだ。
「そういうのは、つっこんじゃダメなのよ」
太陰が半眼で言う。
「…ああ、そうだな」
そこに、「ただいまー」と少年の声が、玄関の方でした。十二神将の耳は、人よりも遥かに良いので、離れていても聞こえてくる。
「ただいま。太陰、玄武」
太陰達がテレビを見ているリビングのドアが開いて、昌浩が入ってきた。
「おかえりー」
「お疲れ様」
太陰と玄武が思い思いに声をかける。
「…あ、グレンジャー、もう始まってるんだ?」
テレビを見た昌浩は、グレンジャーが始まっていることを知り、太陰や玄武と同じようにソファーに腰かけた。
「あー、疲れたなぁ…」
昌浩は妖退治から帰ってきたのである。
「今日は妖を退治たか?」
玄武の問いに、昌浩は首の骨をコキコキいわせながら答えた。
「うん。二匹ね」
そこに、勾陣が手にコップを持ってやって来る。
「昌浩、喉渇いただろ。飲め」
「わ、ありがとう。さすが勾陣」
コップには麦茶が入っていて、冷たすぎず、熱すぎず、丁度良い温度で、昌浩の渇いた喉を潤してくれた。
そこに紅蓮もやって来た。
「なんだ。また、それを観てるのか」
「いいじゃん、紅蓮」
昌浩が口を尖らせて言う。
「………まあな」
紅蓮は、自分と同じ名前のこの番組があまり好きではないらしい。しかし、なんだかんだ言いながらそれを観ている紅蓮は、すごく嫌いなわけでもないらしい。
そうこうしているうちに、番組は終わりを迎える。
『次回、陰陽戦隊グレンジャー![新たな敵]。お前の内なる炎を燃やせ、ファイヤー!』
陰陽戦隊グレンジャーは、実はもう十年以上続いている長寿番組だ。
昌浩が幼い頃にハマっていて、毎週見ているうちに、なぜだかやめられなくなって、現在に至る。
そう。
テレビの回りに集まって、皆で会話をするというこの光景は。
昔から変わらない光景。