二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師パラレル現代版★短編集 ( No.86 )
- 日時: 2012/05/08 19:46
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: lwQfLpDF)
あれを貰った勾陣は
「 …ったく、こんなもの、どうすれば良いんだ」
そう呟いた勾陣の手には、先日、騰蛇から貰ったネックレスがあった。
「……………」
今、勾陣は安倍家の縁側にいる。回りには、誰もいない。
いなくて良かった、と思ったあと、勾陣は首を傾げた。
——別に、誰かいたって良いじゃないか。誰かがいてはいけない理由なんて、ない。
そうして、勾陣はネックレスを、明るい太陽の光にかざしてみた。ネックレスについたダイヤは、太陽の光を反射し、キラリと綺麗に輝いている。
「勾陣、ちょっといい?」
「!!?」
勾陣は慌ててネックレスを隠し、振り返ると、天一が不思議そうな表情をして立っていた。
「どうしたの? 勾陣… 」
「…いや、別に、何も」
そう言ってから、勾陣は思った。
——別に、隠さなくても、良いじゃないか。本当に、今日の自分は変だ。
「勾陣、大丈夫? 顔が赤いわよ」
天一に指摘され、勾陣は自分の頬を触った。
確かに、熱いかもしれない。
「風邪かしら… ?」
天一はそう言うが、勾陣は十二神将だ。風邪などひくはずがない。
「大… 大丈夫だ。天一」
勾陣はそれだけ言うと、その場から立ち去ろうとした。が、天一に「待って」と、止められてしまった。
「何だ?」
出来るだけ平静を装いながら訊く勾陣。
「昌浩が読んでたわよ」
「 …そうか、ありがとう」
そのまま、勾陣は昌浩の部屋へと向かった。しかし、その途中に、思い付いてしまった。
「昌浩の傍には、騰蛇がいるじゃないか——!」
思わず、声に出してしまった勾陣は、はっとして口をふさぎ、考えた。
——このままだと、騰蛇に鉢合わせしてしまう。やばい。かと言って、このまま回れ右をして戻れば、天一がいて、怪しまれる。
「どうすれば… 良いんだ——?」
「何しゃべってるの?」
「うわっ !! …ま、昌浩」
「大丈夫? 勾陣」
首を傾げる昌浩に「大丈夫だ」と言って、騰蛇の姿を探した。
「昌浩… 、その、騰蛇は、どこだ?」
「じいちゃんに呼ばれて、今、話してるよ」
「そうか」
ここで、勾陣はやっと安堵の溜め息を漏らした。
「 …で、何の用だ? …昌浩」
「うん。今日の夜警には、勾陣にも来てほしいな、と思って… 、良い?」
「あぁ、そんなこと——」
昌浩の問いに、勾陣は答えようとしたが、すんでのところで思い出した。
「——駄目だ!」
「えっ !? 何で?」
突然大きな声を出した勾陣に驚きながらも、昌浩は訊いてきた。
「えー、それはだなぁ………」
「言えない」なんて言えるはずもない。
「ちょっと、今日の夜は、用事が詰まってて… 」
「あ、そうなんだ」
素直で他人を疑うことなど知らない昌浩は、あっさりと騙されてくれた。
「ごめんね。無理なこと言って… 」
「いや、全然」
にっこりと笑う勾陣。
「 …じゃ、六合にでも頼もうかな?」
そう呟きながら、昌浩は自室へ戻っていった。
そして。
再び一人になった勾陣は、再び縁側で、再びネックレスを見つめていた。
「 …まったく——」
勾陣は十二神将だ。それは、騰蛇も同じだ。
——しかし、何千年、何万年と存在してきた自分は、誰かから何かを貰うことなんてあっただろうか?
答えは、——否。
——何かを貰うなんて初めてだし、こんな気持ちになるのも… 初めてだ。
一体、自分はどうしたんだろうと思いながら、ネックレスを見つめる。
小さなダイヤがついたネックレスは、どこにでも売ってありそうで。それを見ていた勾陣は、欲しいなどとも思ったことがないのに。
何故か、手放したくない。
「一体、どうしたら良いんだろうな」
勾陣は、静かに目を閉じた。
「このネックレスも、この気持ちも——」
その声は、誰の耳にも届かず、消えていった。