二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師パラレル現代版★短編集 ( No.94 )
- 日時: 2012/05/19 17:29
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: AUaokgCu)
「はー、疲れたー。ただいまー」
「家に帰った第一声がそれか」
昌浩の右肩に乗った物の怪が半眼で言う。
「 …えー? 良いじゃん、別に」
「 …まあな」
そして、昌浩はそのまま、祖父である晴明の部屋へ入る。
「失礼します」
「うむ」
部屋では、座布団の上に晴明が正座をしている。
「妖怪が二匹、現れたので、退治しました」
昌浩が晴明の正面に正座してから報告すると、晴明は黙然と頷いた。
「 …だいぶ、手間取ったようじゃな」
扇子で口元を隠して晴明が言う。多分、口元は笑っているだろう。
「 …手間取ってなど、いませんけど?」
にっこりと笑顔で昌浩が返す。しかし、彼の額には青白い血管が浮き上がっている。
「そうか? ギリギリのところまで、追い詰められたそうじゃが?」
「ギリギリのところまで追い詰めたのは、俺です。退治しましたから」
先程よりも太い血管が浮き上がっている。
「でも、紅蓮に頼った」
「頼ってません」
昌浩が、すぱんと言い切る。
「なら、何故『もっくん』などと呼ぶのじゃ」
「呼んだだけです」
「無駄口をたたいている暇があったら、ちゃっちゃと退治せんかい」
「………」
安倍昌浩、十五歳。どうやっても、お祖父様との舌戦には勝てません。
「そりゃあ、生きてきた年数が違うからな」
自室に戻った昌浩は、服を着替えながら物の怪の話に耳を傾けていた。
「むしろ、十五年しか生きてきてない奴に、八十何年も生きてきた奴が負ける方がおかしいと思うぜ?」
「 …確かに」
そう呟いてから、「でも」と言った。
「一回くらいは、勝ちたいよ。ずっと負かされてるのって、ムカつくし」
渋い表情をして言う昌浩に、物の怪は「うーん」と唸った。
「無理なんじゃね?」
「うわ、はっきり言うね」
じろりと物の怪を見る昌浩。
「あのなー、世の中にははっきり言わないといけないこともあるんだよ」
「そうだね… 」
——って、なんでこんなことを物の怪に言われなくちゃならないんだ?
そう思ったが、それには敢えて触れないでおく。
「 …てか、明日も夜警かー」
「おー」
先程、晴明のところに報告にいったときに言われたのである。
『まだ、その妖怪がおるかもしれんから、明日も夜警を頼んだぞ』
「めんどくさいなぁ… 」
「そんなことをめんどくさがったら駄目だぞー、晴明の末裔ー」
「末裔言うな!」
そう怒鳴ってから、昌浩は考えた。
「でも、誰を連れていこうかな?」
「あ?」
「明日の夜警だよ。もっくん一人だと、頼りないから」
「なんだと? お前なあ、俺を誰だと思ってるんだ?」
物の怪は言うが、昌浩は無視した。
「それなりに強いし、勾陣か六合か… 」
「おい、聴けや、昌浩」
「勾陣にしようかな? あとで訊いてみよ」
「昌浩、酷い………」
しおしおと項垂れる物の怪であった。