二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

きみのこえ/002 ( No.4 )
日時: 2012/05/02 19:59
名前:  めーこ ◆RP5U9RTa.. (ID: ZvHpIN.6)


 宇宙より、君の隣に憧れた。



 002/しあわせ



 そっと、囁くヒロトの声にふわりと笑う。

「今日、星を見に行こうか」

 綺麗な星が、あたしの部屋からもうかがえた。
 星の中に、いくつかの白い筋が立ち昇って行く。——トレーサー、だ。あたしの乗る、戦闘機。
 トレーサーのことを考えると少しだけ気持ち悪くなった。
 落ち着かせるように息を吐いて、ヒロトを振り返る。笑顔を保ったまま、頷いた。

「ひさしぶりだね、ヒロトと星を見るの」

 あたしは、ヒロト達の計画をよく知らない。
 父さんはニコニコしてるだけでなにも言わないから、あたしは知る由も無いんだとおもう。
 知ったところで、あたしはすぐに居なくなる。
 ただ、"グラン"とか、"ウルビダ"とか、そういう単語はなんとなあくあたしの耳に入った。その単語は何なのかとヒロトや父さんに聞いてもただ曖昧に微笑むだけであたしには何も教えてくれなかった。
 疎外感なんて、なかったけれど。
 ぼんやりするあたしにヒロトが心配そうに声を掛けてくる。大丈夫、——大丈夫、と曖昧に笑うとヒロトはそっか、なんて言葉を呟いてあたしの手を握った。

「行こう、」

 うん、と頷いてヒロトに手を引かれて外へ出る。
 キラキラした星があたし達を見下ろしてて、思わず頬が緩んだ。

「最近、波音はのん、元気なかったから、……よかった」
「、そうかな?」
「うん、……なんか、隠し事でもあるの?」

 ブランコに乗って、空を見上げる。
 ヒロトが隠し事でもあるのかと問いかけてくる。あたしはそれに、答えることが出来なかった。数秒間、息が詰まったみたいに動けなくて。
 あたしは、小さく微笑む。
 何でも無いよ。
 その言葉にヒロトは少しだけ怪訝そうな顔をして、それからにっこりと笑った。綺麗で何処か儚い笑顔は、ヒロトさんにそっくりで。あたしは胸があつくなって、そっと目を伏せた。
 ——あたしは、ヒロトさんが好きだった。だからあたしは、ヒロトのことが好きになった。そしてヒロトも、あたしのことが好きだ。お互いに好きなんて言わない。けど、あたし達は言わなくても分かってる。
 ヒロトはあたしの好意を試すように、あたしはヒロトの好意を試すような問いかけをすることが何度かある。
 好きだよなんて言わない。言っちゃいけないんだ。
 あたしは、ヒロトと一緒に居られなくなるんだから。
 そしたらあたしもヒロトも、後悔することになるんだ。だから、あたしは言わない。ヒロトが告白することも無い。よく分からない計画を、立ててるから、きっと迷惑だなんて思ってるんだろう。

「ヒロト、あたし、ヒロトのお陰で空が好きになったの」
「……俺のお陰?」
「あたしが泣いてる時、あたしのこと抱っこしてさ、おそら、きれいだよ、なんて言ってくれたじゃん」

 ヒロトはポカンとした表情であたしを見る。単純な理由だとあたしは分かってる。あたしは、馬鹿みたいな理由だとも分かってる。
 それからヒロトはにこっと笑ってぷらぷらとしていたあたしの手を掴んだ。包むように握られてあたしの心臓はばくばくと音を立てた。少しだけ汗ばんだ二人の手。それがなんとなあく温かい気持ちにさせてくれた。
 二人で手を繋いで、星を見上げる。
 キラキラ、きらきら。
 あたしの大好きな星が、宇宙が、目の前にある気がした。

「波音は、星が大好きだね。泣いてるときも、元気ないときも、星を見ればすぐ笑うんだから」
「ヒロトは、星がきらい?」
「ううん、好きだよ」

 会話はそれきり。
 ただ二人で手を繋いで、ただただ空を見上げた。星がきらり、ひときわ大きく光を放つ。
 綺麗な時間は、一瞬のように感じられた。

「ヒロト、そろそろ時間だよ。……おや、波音」
「もうそんな時間なのかい、風介」
「嗚呼、……悪いけどヒロトを借りるよ、波音」
「……うん、」

 涼野くんが、ヒロトを引っ張っていく。
 離れていく、てのひらの温もり。あたしはそっと目を伏せてばいばい、と小さく手を振った。
 ふたりで星を見るとか、日常のなかの、ささいなできごとが、あたしのしあわせ。