二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 「俺なら幸せにできるのに。」 ( No.3 )
- 日時: 2012/05/22 19:35
- 名前: みもり、 ◆Oq2hcdcEh6 (ID: i4kjv3jU)
わたしを抱きしめる腕が、酷く愛おしく感じた。
雨に濡れるのも構わず、男の子らしい、頼れる腕でわたしをぎゅっと抱き締めている彼に苦笑を零し、不意にあげられた視線と、わたしの視線がかち合った。
ドキン、と胸が高鳴ってどうしようもなくなって。
このままだとわたし、きっと彼に恋してしまう。
ぎゅ、と抱き締め返した腕に力を込めて、わたしは彼を拒むことしかしなかった。彼は、ただ悲しそうに笑った。
「——なあ、亜美」
彼は不意にわたしの肩に顔を埋めて、そっとわたしの名を呼んだ。
かなしそうな、声。
聞こえないふりをして、ただ彼の言葉を待つわたしは、どうしようもない卑怯者としか思えない。——いや、実際にそうなんだろうけど。
「何で、俺じゃねえんだよ」
「準太せんぱ、」
「——俺なら、お前にこんな顔させねえのに、!」
一瞬の静寂、雨の音。
わたしの頬を伝うのは雨だ。雨でしかない。
準太先輩の、言う通りかもしれない。
きっと彼は今の言葉通りに、わたしを守ってくれるんだろう。わたしを泣かせたりなんかしないんだろう。わたしだけの王子様で居てくれるんだろう。……だから、彼はわたしを愛してくれるんだ。
絶対に守れるという自信があるから、わたしをこうして愛してくれているんだ。
そう思うと胸が苦しくなって、わたしは準太先輩になにも言えないままだった。じっとりと濡れた服が、きもちわるい。
「わたし、は、」
「何で慎吾さんなんだよ、……何で、俺じゃねえんだよ、っ」
「準太先輩、」
「——お前のこと、好きなんだよ……っ!」
こうやって準太先輩が悲しい顔をするのも、——……慎吾先輩が困ったような顔をするのも、利央が悲しそうに笑うのも、全部、わたしの所為なんだろうなあ。
止まない雨の中でふたり、立ち尽くして。
不意に合わさった額と、かち合う視線にドキドキして。
「……ありがとう、ございます」
口から零れ落ちたのは、心にもないその言葉だけで。
「貴方を愛している」と言えたなら、
( きっと未来も何もかも変わって 誰一人泣かないのでしょう )
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