二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

    例えばこうやって君とキスをすれば、 ( No.5 )
日時: 2012/05/24 19:16
名前:  みもり、 ◆Oq2hcdcEh6 (ID: rR82qnqT)




「ボクは、好きだよ」

 ——真っ直ぐな顔でそんなこと言うから、わたしはどうすることも出来なくなるんだ。

「わたし、は」

 こうやって答えを出すことは、きっとよくないんだろう。
 喉元まで出かかった言葉を、ごくり、と呑み込んだ。
 こころが、ざわめく。

「——シ、」

 シュウ。
 貴方の顔が、今どれほど悲しそうなことか。
 貴方の体が、今どれほど震えていることか。
 わたしは知っていて、彼に触れてはいけないようで。
 思わず伸ばしかけた手をそっと降ろして、わたしはその場に蹲った。どうして、わたしは、貴方を拒めないんだろう。どうして、わたしは、貴方のことが好きなんだろう。
 人を愛するってことは、こんなにも難しいことでしたか?
 シュウはそっと微笑みながら、ごめんね、とわたしの耳元に囁きを落とした。甘い声が、切なげに掠れ、震えているのがじかに伝わってくる。
 わたしはそこで、漸くわたしという存在の哀れさを思い知ったのだった。

「亜美、」

 わたしを呼ぶ声が、恐怖を孕み、震えている。
 今、わたしの目の前で、愛する人が、こんなにも怯えているというのに。その場に凍り付いたように動かない脚と、震えるばかりの手が、酷くもどかしくて、だけど、わたしは彼に、届かない。
 視線だけを上にあげたら、シュウはごめんね、と掠れる声で呟いて、わたしの頬へ手を寄せた。ほんとに生きてるように、あったかい手に、わたしはもう限界だった。視界が、歪む。

「キミを守ってあげられなくて、ごめんね」

 すべてを吸い込むようなシュウの瞳のなかに、怯えているわたしが映り込んだ。とても憐れでちいさいわたしが、シュウの瞳の中で、目を見開いている。
 わたしを抱きしめて、それから。
 ——シュウからかわたしからかなんて覚えていない。ただ、触れた場所がお互いの唇なんかじゃなくって、シュウはわたしの額に甘いキスを落として、わたしはシュウの頬にキスを落として、それで。





「 さよなら、亜美 」






君がいつまでもわたしのなかに残る気がして、きっとわたしは耐えられないんだろうね。
   ( 何も残さないままふわりと消えて行けたならきっとどれだけ楽なんだろうか。どちらともなく呟いたんだ )







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