二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: D.gray-man -存在の証- ( No.88 )
日時: 2012/07/17 20:14
名前: ラン (ID: qs8LIt7f)

         第十六夜 -そよ風唱え-


 さっきからずっと道を歩き続ける。リナリーとアレンが起きる気配はなくて、ルークとミランダは既に疲れきっていた。

「まだここか...。流石にヤバイな」
「まだ...って。いつまで歩くんですか!?」
「知るか。大体アンタ...アレンの腕引きずってるぞ」
「キャァアァ!スイマセン!スイマセン!」

—俺に謝られてもな。

 さっきからミランダはコケる度にアレンを落としている。ルークにとっては良い思いだった。アレンは大嫌いなのだから。
 そよ風が二人にあたる。その風の臭いを嗅ぐはいなや、ルークは見たことのない表情をした。ポカーンとしているような、おっとりとした表情。

「...おとう......さん...?」

 懐かしい父の臭いを、そよ風は運んできた。とても新鮮な臭いを。
 父はすぐそばにいる。そう思い、ルークはリナリーをミランダに無理矢理持たせ、走り出した。

—お父さん...!

「ルークくん...?ルークくん!?」

 ミランダの声は、そよ風が遮った。それで良かったのかもしれない。止められていたら、ルークは愛する父へ会えなかったのかもしれないから。
 でも臭いは一瞬にして消えた。1キロ走って、ルークは諦めた。こんなに早く見つかるなら、誰も苦労しないと。

「...もどるか」

 アクマを見つけたところで、それが父なのかなんてわからない。アレンがいなければ...そんな事わからないのだから。
 ミランダの元へ戻ると、丁度アクマが彼女を襲っていた頃だった。ミランダはただ怯えていて、壊そうとしない。

「ミランダ!」

 そう叫んだ時、アクマは急に姿を消した。いや、逃げていったようにルークには見えた。

「ヒィィイ...」
「...」

 ミランダの額・手・足からは大量の汗が出ていた。その手でアレンやリナリーを優しく包み込み、守っていた。

—案外心だけは強いのな。

 あのアクマが消えなければ、今頃ミランダは死んでいた。ルークはアクマを破壊できないから。破壊したのが父だったら...。
 それよりアクマがなぜ消えたのか。ルークにはどうしても理解出来なかった。もしかしたらあのアクマが...。

—それはないか。

 ルークは初めて人に手を差し伸べた。ミランダという、一人の女性に。

「行くぞ。ブックマンの所に」

 今日はなんとも機嫌が良い。