二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

  きみと夏まつり/黄瀬 ( No.28 )
日時: 2012/07/22 17:44
名前: さくら (ID: noCtoyMf)
参照:  赤司様まじ赤司様

 だがそれから薄々と彼女の異変に気が付いて来ていた。彼女が恋人を待ち続けてから早50分が過ぎている。相変わらず客の出入りは全く無いが、主人は彼女の事で頭がいっぱいだった。
 ———遅すぎる。、どう考えても遅すぎる。他人の恋路に首を突っ込む気は無いが、それとこれとはどうも違った。


「52、分か、」


 すると今度は彼女の方に異変があった。


「あ、赤司君」

「やあ、サクラ。黄瀬はまだ来ないのかい?」

「・・・うん。仕事が長引いちゃってるみたい。仕方無いよ、黄瀬君頑張り屋だもん」


 そうへらっと笑う彼女に主人は「て、天使」と呟いたのを、彼女と赤司と呼ばれた赤色は知らない。
 そして主人には聞き捨てならない言葉が一つあった。「仕事」である。相手は社会人なのか?でも明らかに同年代であろう赤髪や彼女に呼び捨てだったり君付けにされる社会人が居て良いのか。
 主人はどうもこうも言えない複雑な心境で彼等を見つめていた。


「そう言えば、テツヤ達知らない?ちょっと矧ぐれちゃってさ」

「あーテツヤ君達ならさっき見かけたけど。・・・ほら、其処の屋台で。イカ焼き買ってた」

「え?」


 天使である彼女が此方を指差して来た。まさかの展開である。
 赤司と呼ばれた赤髪は少し考えた後「サクラ、おいで」と手を差し伸べた。彼が甚平を来ている為か、傍から見れば恋人だ。お似合いである。

 もうあんな彼女待たせる奴なんか辞めてこの男と付き合えば良いのに。主人は此方に歩いてくる二人を見て思う。


「イカ焼きか・・・。おじさん、りんご飴をくれないか」

「 な ん だ と 」

「無いのかい?」

「ごめんな、ウチはイカ焼き専門なんだ」

「え?何だって?」

「イカ焼き買うなら幾らでもあg」

「え?」

「ストップ!赤司君堪えて!」


 「何おじさん自殺願望あるのかい?折角だから俺も手伝ってあげるよ」何やら瞳をかっ開いてぶつぶつぶつと喋る目の前の少年に鳥肌が立った。
 な、何なんだ。俺が一体何をしたって言うんだ。というか怖すぎる。

 そんな少年を横に只管謝り続ける彼女が只管天使に見えて仕方が無かった。このお祭りに来ているどんな女子よりも輝いて見える。
 主人はもう神にでも拝む様な心行きで少年と少女に一つずつイカ焼きをプレゼントした。


「どうせ残るものなんだ。貰ってやってくれ」


 もう彼女が恋人を待ち続けて1時間15分が経過していた。
 どう考えても遅すぎるだろう。彼女の変わりに、その黄瀬とやらにガツンと一発言ってやろうか。主人は先程の赤髪の事やらその前の妙にカラフル頭な奴らの事やらでイライラし、その怒りも彼にぶつけてやろうと拳を震わせる。


「ごめんサクラ。君の為にりんご飴を買ってあげようと思ったのに」

「・・・! い、否、良いよ赤司君」

「じゃあ俺はもう行くね。あの馬鹿達は俺の事も忘れて楽しんでるらしいから。早く行ってあげないと」

「うん。有難う赤司君」


 じゃあね。そう言って赤髪と別れた彼女はまた数十分前に戻り、そわそわしながら小まめに鏡を取り出し髪型を確認したり、恋人の事を考えては早く来ないかなと頬を赤くする。
 そうやってまた数十分が経った。そしてやっと、彼女と主人が望んた瞬間が現れる。


「黄瀬君!」


 「サクラっちー!」そうやって翔けてくる少年の姿に、彼女はぱあっと顔を輝かせ、今まで見た事もない笑顔で「黄瀬君」と名前を呼ぶ。
 そんなに恋人と会えて嬉しいのかい。あんなに待たされたのに。主人は彼を見た時の彼女の変わり様にもう酷く落胆さえしていた。会えただけで嬉しい、私は彼を心から愛している。その気持ちが身体全体から、表情から伝わって来て遅れてやって来た恋人をガツンとやってやろうという気も失せた。

 だが諦めが悪いのが此処の主人の意地。イカ焼き魂である。
 せめてもの抵抗に、一体どんな奴なのかと面を一度拝見しておこうと恋人の男の方を見た瞬間、主人の心は粉砕されてしまった。


「う、麗しい」


 夜空に輝く綺麗な金髪、長い睫毛に切れ長の瞳。顔つきはとても端正でため息が出てしまう程。背も高く、スラっと伸びた四股に付いた無駄の無い筋肉は、彼が運動も出来ると言う事を物語っていた。それに、これ程までにセンスの良い甚平は着崩され、彼女を見るなり此方も嬉しそうに素敵スマイルを振り撒いていた。

 まさかこれ程までのイケメンが居て良いのだろうか。天使な彼女と釣り合っている。もはや二人を見る度にお似合い過ぎてため息も出なくなった。


「サクラっちー!うわあサクラっちだ!心の癒しッス!」

「ちょ、ちょっと黄瀬君。恥ずかしいよ」


 そして何て馬鹿な彼氏なのだろうか。ヤケにオーバーリアクションである。最初は明らかに他の女と遊んでたなと思ったが、純粋なその笑顔を見れば、彼が余程計算高く無い限りその疑問は外れていた。
 何故なら会ってまず抱きつく。そして触れるだけのキス。一体なんなんだこの彼氏は。彼女は人前で恥ずかしいのか固まって微動だにしない。


「ごめんッス。遅くなって、待たせちゃって」

「ううん、平気。忙しいんだから気にしないで」

「でも俺心配してたんすよ。サクラっち可愛いから変なのに絡まれて無いかとか。撮影集中出来なくて長引いちゃったんすけど」

「え、それはダメだよ。今人気のモデルさんなんだから。ビシっとしなきゃビシッと!」

「本当にごめん」

「だから良いの。黄瀬君の為なら一日中待ってられるよ私。黄瀬君頑張ってるから」

「もう、サクラっちのそういうとこ惚れるッスー!」


 手を取り合って屋台から離れていく彼等に自然と笑みが溢れる。これが世の言うバカップルという奴か。
 少女も嬉しそうな事だし、この件は落着として良いだろう。

 煌びやかな明かりが漏れるこの空間で、何よりも輝いて見えたあの浴衣。あの恋人達はデレデレと緩みきった笑みを浮かべて人混みの中に消えてった。


「頑張れよ、青春小僧」








「あー黒子っち達—!来てたんす———ぐはっ!」

「てめえ遅えんだよ黄瀬ッ!」

「黄瀬君彼女待たせるなんて最低ですね」

「黄瀬ちん最っ低ー」

「こらこら、涼太を余り苛めるな」

「赤司、お前が一番楽しそうなのだよ」

「皆来てたんだ!甚平似合ってるよー!」






「・・・・・・・・・・・、アイツ等グルだったのか」




@/煌めく世界ときみ

240713
お題一つ消化しました。
何か訳の解らん変なおっさんが主人公みたいになってしまいましたけど^^;